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語学書の著者のコラム

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ベレ出版語学書の著者による、本を書くこと以外のお仕事の話、教えること、ことばにまつわること、言語について。
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#韓国

韓国語圏フィールドワークの世界

髙木丈也(慶應義塾大学 総合政策学部専任講師) 第2回 私の韓国語圏フィールドワーク①:アメリカ合衆国 こんにちは。前回は私が学生と行ったフィールドワークについてご紹介しました。今回からは、私が個人的に行っているフィールドワークをご紹介しましょう。 前回のコラムでもふれたとおり、私は社会言語学を専門としており、具体的には韓国語や韓国語圏の社会について研究しています。 例えば、フランス語圏というと、フランスに加え、アフリカの国々やスイス、ベルギー、ルクセンブルク…というよ

韓国語圏フィールドワークの世界

髙木丈也(慶應義塾大学 総合政策学部専任講師) 第1回 学生との韓国フィールドワーク約3年ぶりにこのコラムを担当することになりました。慶應義塾大学 総合政策学部の髙木丈也と申します。私は普段、韓国語や韓国語圏の社会について研究をしながら、大学で韓国語を教えています。でも、大学教員が実際にどのように教育や研究をしているのかは、多くの方にとって見えにくい部分もあると思います。 そこで今回から4回にわたってお送りするこのコラムでは、私の教育・研究のごく一部分をご紹介してみようと

慣用句から学ぶ韓国語 #4

徐旻廷(ソ・ミンジョン) 「궁합이 맞다(クンハビ マッタ)」 =「相性がいい」 韓国では、結婚する前に相手の生年月日(四柱)で占いをする風習があります。これを「궁합(クンハップ)=宮合」といいます。「宮合」の辞書的意味とは、「結婚する男女の四柱を五行(五行説における万象を変化させる5つの元素。木・火・土・金・水)にしたがって相性の良し悪しを判断する占い」です。「궁합을 보다(クンハブル ポダ)= 男女の相性を占う」、「궁합이 좋다(クンハビ ジョタ)= 男女の相性が良い」

慣用句から学ぶ韓国語 #3

徐旻廷(ソ・ミンジョン) 「국물도 없다(クンムルド オプタ)」 =「スープもない」  最近、寒くなってきて、温かい「국물(クンムル)」(スープ)が恋しくなる季節になりましたね。皆さんは、このような季節に思い出す「クンムル」がありますか。ここで「クンムル(국물)」は、「汁ものやチゲなどの料理から具を除いた部分」を意味します。韓国では、このような「クンムル料理」に「~국(~クック)」、「~찌개(〜チゲ)」、「~탕」(〜タン)などを付けます。例えば、「미역국(ミヨックック):

慣用句から学ぶ韓国語 #2

徐旻廷(ソ・ミンジョン) 「콩밥을 먹다(コンパブル モクタ)」 =「豆ご飯を食べる」 上の会話文は、韓国のドラマや映画で相手を怖がらせたり、脅かしたりする場面でよく登場するセリフです。美味しくて栄養たっぷりの「豆ご飯」がどうしてこんな恐ろしい場面に登場するのでしょうか。  朝鮮半島では、かつて刑務所にいる受刑者に提供した食事が「豆ご飯」だったといいます。当時の豆は「大豆」を指します。白米の値段が高かった時代、大豆は栽培しやすかったため、値段も安くてよく食べられる穀物でし

慣用句から学ぶ韓国語 #1

徐旻廷(ソ・ミンジョン) 「파김치가 되다(パキムチガトェダ)」 =「ネギキムチになる」 韓国語には「파김치가 되다(パキムチガトェダ)」という慣用句があります。「파김치(パキムチ)」は「ネギキムチ」、「〜가 되다」は「〜になる」という意味です。直訳すると、「ネギキムチになる」となりますが、これはどういう意味でしょうか。  まず、「ネギキムチ」について考えてみましょう。なんとなく、ネギで作られたキムチではないかと思いませんでしたか。その通りです。一般的にキムチの名前は、主

【日本語と韓国語の言葉は本当に似ているの?】第4回 韓国の俗信物語

チョ・ヒチョル  俗信は日常生活に深く根を下ろし、人々が無意識のうちに守っているものもあります。韓国の俗信は日本と共通のものもあれば、似て非なるものもあります。また、世代によっては知らない内容や守らなくなっているもの、新しく生まれてくるものもありますが、ここでは韓国の代表的な俗信をいくつか紹介します。  一昔前、ソウルの街を走っていたSONATAという韓国産の車のエンブレムからSという文字がはぎ取られる事件が相次いでいました。それは当時、エンブレムのSという文字を持ってい

【日本語と韓国語の言葉は本当に似ているの?】第3回 翻訳できない韓国語

チョ・ヒチョル  日本と韓国は地理的にも近く、有史以前から今日まで多くの交流を行なっているので、文化においても似ている部分も多いですが、中には韓国独自のものもあり、翻訳しにくい言葉も多々あります。ここでは翻訳できないいくつかのことばを取り上げてみました。 ▲『翻訳できない世界のことば』(創元社2016年発行、エラ・フランシス・サンダース著・前田まゆみ訳、91ページ)  数年前に出版された『翻訳できない世界のことば』(創元社、2016年)は 「他の国のことばでそのニュアン

【日本語と韓国語の言葉は本当に似ているの?】第2回 日韓同形異義漢語②

チョ・ヒチョル  今回も前回に続き、日韓同形異義漢語の話しです。 (3)八方美人(ハッポウビジン)VS 팔방미인(パルバンミイン)  日本で使われている漢語の意味・用法は韓国のものととても似ています。ある本の中で、日本語と韓国語の類似した5つの単語の中に「八方美人」という語があげられていました。私が日韓同形異義漢語を語るとき、いつもいちばん先に取り上げる「팔방미인(八方美人)」が、残念ながらその本では同形同義漢語としてあげられていたわけです。  クリントンさんがアメリ

【日本語と韓国語の言葉は本当に似ているの?】第1回 日韓同形異義漢語①

チョ・ヒチョル  日本と韓国のギクシャクには言葉によるものも多いような気がします。特に漢字語の中には字面は同じなのに意味にずれができたものが多いのです。ここでは2回にわたって「日韓同形異義漢語」についていくつか取り上げてみました。  日韓両国は漢字文化圏に属しています。韓国はふだんあまり漢字を使っていませんが、語彙の中で漢字語が占める割合は6、7割にも達しています。  さて、中国の漢字・漢語が日本と韓国に伝えられてからもう2千年近くにもなります。ただし、日本と韓国に入っ

韓国文化・社会の現場から 第4回「私たち 우리」

髙木丈也(慶應義塾大学) 韓国語の初級テキストに必ず出てくる単語を手がかりに、韓国の文化や社会に対する理解を深めましょう。  韓国語を学び始めると、比較的、早い段階で우리 ウリ という言葉に出会います。これは日本語では「私たち(の)」という意味なのですが、実際にはその日本語訳から想像される以上に奥行きのある言葉です。今回は、「ウリ」から広がる韓国人の世界観についてみてみましょう。 相手に対する親しみを込めて  우리 ウリは、「私たちは…」や「私たちの学校では…」のように

韓国文化・社会の現場から 第3回「こんにちは 안녕하세요?」

髙木丈也(慶應義塾大学) 韓国語の初級テキストに必ず出てくる単語を手がかりに、韓国の文化や社会に対する理解を深めましょう。  韓国語を学ぶと、最初に習う定番フレーズといえば、やはり안녕하세요?(アンニョンハセヨ)ですね。韓国語を学んだことがない方も、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。  さて、このフレーズ、日本語では「こんにちは」と訳されることが多いようですが、実は朝や夜にも使うことができます。つまり、「おはようございます」、「こんばんは」という意味にもなるの

韓国文化・社会の現場から 第2回「地下鉄 지하철」

髙木丈也(慶應義塾大学) 韓国語の初級テキストに必ず出てくる単語を手がかりに、韓国の文化や社会に対する理解を深めましょう。  ソウルや釜山などの都市を旅行すると、必ず1度は利用するであろう地下鉄。今回は、日本と似て非なる地下鉄の話題をお届けします。  韓国初の地下鉄は、1974年にソウル駅と清涼里駅の間で開業しました(1号線、7.8km)。日本では、1927年に開通した銀座線が最初だったので、約半世紀遅れてのスタートです。しかし、それからさらに半世紀、今ではソウルは東京

韓国文化・社会の現場から 第1回「キムチ 김치」

髙木丈也(慶應義塾大学) 韓国語の初級テキストに必ず出てくる単語を手がかりに、韓国の文化や社会に対する理解を深めましょう。  韓国を旅行すると、一日も欠かすことなく見かけるもの。それは、なんといっても「キムチ 김치」に他ならないでしょう。今回は、今や日本でも一般的になったキムチにまつわる雑学をご紹介しましょう。  キムチとは、白菜やダイコン、キュウリ、青菜などの野菜類を塩漬けし寝かせたあと、水洗いをし、トウガラシやニンニク、塩辛(アミやイワシ)、生姜、セリ、ネギなどを混