A wine like the sun
醸造担当のキャトリーヌによると、一般的な品種の場合、ワインは
Alcohol アルコール
Arôme 香り
Acidité. 酸味
が評価軸になるのだという。しかしシャスラにはそれが当てはまらない。
スイスを代表する品種「シャスラ」。5000年前からナイル川流域で栽培されていたともいわれる歴史ある品種だが、それほど口にする機会は多くない。なぜか。スイスのワイン産地は合計14,800ヘクタール。そこから生まれるワインのうち輸出されているのは僅かに1%〜2%。そもそもほぼ全てが国内で消費されているので海外で手にする機会がないのだ。
シャスラは一般的にフレーヴァーが弱く、アルコールも低く、酸も少ない。あまり特徴がないとも言える。ではこのワインは特徴がないのか? もちろん違う。その逆だ。僅かながらよく熟したリンゴの蜜の香り。柔らかく僅かに粘りを感じる質感と、大きく広がる余韻。スイス=アルプスのイメージからかスイスワインは冷涼なワインだと誤解されがちだが、畑の目の前に広がるレマン湖に反射した日光を浴びたヴォーのシャスラはクールな味わいではない。もっと暖かく大きな味わいがする。これは太陽のようなワインだ。
ともすると無個性なシャスラにどうやってこれだけの要素を集めたのかと思っていたが、写真を見て驚いた。仕立てが低く、房が小さい。ビオディナミのおかげで、と本人はシンプルに言っていたが、厳しい仕事の基準と少ない収量を思わせる写真である。何よりここは湖のすぐ側の畑だ。湿度も高くカビなどの病害のリスクも高い。
加えてこのワインはSO2無添加での醸造である。聞くところによると何年もテストを行なってやっとこの年に製品化したとのことだがそれだけに完成度は高い。オフフレーヴァーがないことは言わずもがなだが、無添加の美点である味わいの伸びやかさは、このワインのエッセンスとも言える大きな広がりや柔らかさを活かすために決定的な要素となる。
シャスラは、アロマやアルコール、酸で味わいの骨格を作ることができない。故にテロワールの味わいを素直に写すのがこの品種だとキャトリーヌは言う。テロワールという言葉に人を含めるのかどうかというのは意見の分かれるところではあるが、個人的にはいつも含めて考えたいと思う。それは、このワインを太陽のワインとしているのは間違いなく生産者の努力と研究の賜物だと思うからだ。だからこのワインを飲むとキャトリーヌの顔が浮かぶ。あなたはどんなイメージをこのワインから受けるだろうか?
生産者:Domaine Henri Cruchon
ワイン:Cuvee Henri 2018
インポーター:杉山商事(やまきゅういち スイスワイン)
価格:¥3,600
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