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食って飲み込め

 今朝帰ってきて寝る前に外を見ると雪が降り始めていた。幼少期の大半を豪雪地帯で過ごしたので、たまに雪を見ると情緒纏綿とした気持ちになるが、寝る前としては相応しくない。

 目が覚めると一面雪景色となっており、俄然外出欲求が滾る。それに先日購入したトレイルラン用の靴が届いているので外出するに当たって抜かりはない。とはいえ今日も今日とて労働である。外出というには物足りないような気もするが、実際のところ雪の中を2時間以上も出歩けば漬けたあとの新巻鮭のように凍えること間違いなしである。通勤時間くらいがちょうどいいだろう。

 いつもながら家を出る時間がギリギリになってしまったが、玄関に座り新品の靴を履き丁寧に紐を縛る。久々の雪の中を疾走すれば転倒は免れないであろうがそこは専用靴である。“ゆったりとしたフィット感、優れたクッション性、柔らかいファブリックが快適さを発揮。雨に見舞われても水たまりに入っても、GORE-TEX メンブレンが過熱を抑えつつ足をドライで快適に保つ。”だそうだ。たいそうなことが書いてあるが履いて歩けば確かにこれはと思える。一歩一歩踏みしめて駅へ向かう。

 駅へ着くと案の定電車が遅延している。寒いがすぐに電車がくるような気もするし缶の汁粉を買うかどうか考えあぐねること10分弱、ようやく電車が到着し乗ることができた。汁粉を買えばよかった。

 乗り換えの駅に着く。次の電車のホームへ向かい、電車の発着時刻が表示される電光掲示板を見ると遅延などの文字列は見当たらないが、5分前の情報が表示されている。うすうす勘付いてはいたが、明らかに遅れているし、僕はおろしたての靴を履いた足を目視で確認できるか絶妙な角度ではあるものの、最寄駅へ向かう電車のホームへ向けている。

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 街や電車内で見かける1人で喋っているおっさんおばはんの声をまとめて1時間くらいの環境音楽作品としてリリースしたい。してほしい。聴きたい。と帰路の電車内にいた独り言を呟く、というより放っているおばさんを見て思う。「食って飲み込め!」などと言っている。寒さで気が違ってしまったのかも分からないが、食って飲み込めというシンプルな文言の裏側にある何か大事な真意を探ってしまう。
 僕が思う大事なことを彼女の発言に当てはめるのであれば、食べたことのないもの、やったことのないこと、嫌いなものでもとりあえず食べて飲み込めということになる。粘っていて腐っている豆が食えるんだから食えないものなどないはずなのだ。

 冷えますので皆さま御自愛くださいまし。

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