答案講評例①:平成24年特許・実用新案

 平成24年の特・実の問Iについては、ボーダー付近又はボーダーよりやや上の答案であると評価します。


 問1の17条の2第3項の趣旨のうち、②が「等三者」に見えます。そのほかのキーワードはOKです。
 一方で、2. 甲の手続については、まず根拠条文について、184条の12第2項で17条の2第2項が読み替えられていること(184条の18、読替17条の2第2項)、184条の18で49条6号が読み替えられていること(184条の18、読替49条6号)を示したほうが良いです。
 次に内容面について、請求の範囲を「A1をA2とする補正をする」だけでは、明細書等の範囲内においてする補正の要件を満たしませんし、サポート要件違反(36条6項1号、49条4号)にもなります。よって、「明細書の翻訳文にA2を追加した上で、特許請求の範囲をA2に変更する」必要があります。
 また、誤訳訂正書の提出には、手数料の納付が必要であることを示したほうが良いです。おそらく4分の1程度の受験生は、この点について言及すると思われます。

 問2について、解答表現は「補正2は、(中略)進歩性(29条2項)を有さず」とつながりますが、進歩性を有さないのは、「補正2後の発明A2」です。正しい表現は、「補正2後のA2は進歩性を有さない」、及び、「補正2は独立特許要件を満たさない」です。
 また、問われれているのは、「審査官は補正2について特許法上どのような処分を行うか」ですから、結論は、「審査官は、補正2を却下する決定をする」のように、審査官を主語としたほうが素直です。
 主語と述語が対応しているか、解答表現が設問の表現のオウム返しになっているかについて、注意を払うようにしましょう。
 補正却下の趣旨についてはOKです。

 問3について、主語は、単に「甲は」ではなく、「Xの出願人甲は、」とすることで、請求人適格を満たしていることに触れていることになります。
(「Xの出願人甲」以外が請求+補正をするならば前置審査に係属されることはないからです。)
 また事例問題なので、「請求と同時に特許請求の範囲について補正」ではなく、「請求と同時にXの特許請求の範囲について補正2」を行っている、というように、事案の表現を直接あてはめて解答するとよいです。
 本問においても、「補正2は進歩性がない」とつながっています。「補正2後のA2は進歩性がない」のように、主語を正しく明示しましょう。
 また、「解せる」「解する」という表現は、結論が2つ以上に割れる(いわゆる論点がある)場合に、いずれか1つの結論を採用するときにのみ用いたほうがよいです。本問のように、結論が1つしかない場合は、「独立特許要件を具備しない」と言い切りましょう。
 前置審査後の合議体形成の根拠条文は、「137条1項かっこ書」まで示したほうが理解が伝わります。また、合議体が補正却下することについての根拠条文は、「159条1項で準用する53条1項」ですから、(53条1項、159条1項)ではなく、(159条1項、53条1項)としたほうがベターです。
 
 問4(1)について、「問4①」とありますが、「問4(1)」としてください。
 「被告である特許庁長官(179条本文)は」のように、問題文の記載から1歩踏み込んで条文の理解を示している点は好印象です。
 「専問官庁」ではなく「専門官庁」です。その次の。「特許庁の__判断を尊重」については、__部が読めませんでした。そのほかの記載はOKです。

 問4(2)について、行訴法33条1項の拘束力については、「確定した取消判決は」のように、「確定」の2文字を入れるようにしたほうがよいです。
 また、合議体が拒絶理由を通知することの根拠条文には、「準50条」を加えましょう。同じく特許審決についても、「51条」ではなく「準51条」としましょう。

 行政処分にまつわる問題は、苦手とする受験生が多いため、対策をすれば、合格ラインを超えやすいとも言えます。
 本問についても、残りの時間で部分的な書き直しをしてみることをオススメします。


 平成24年の問題IIについて、ボーダー付近又はボーダーより若干上の答案であると評価します。


 まず問1(1)において、戊のA’の製造・販売が「業として」(68条)の「生産・譲渡」(2条3項1号)であることに、冒頭又は最後に触れてください。
 次に、均等論に言及する際に、「権利一体の原則により」は不要です。権利一体の原則は、構成要件の一部実施は特許発明の実施とはならないという原則ですから、間接侵害について論述するとき以外は不要です。均等論侵害を論述する場合の原則論は、文言侵害を指摘すれば十分です。
 また、文言侵害を否定する場合は、特許発明と侵害被疑品の構成要件を明示的に対比し、「一部が異なるため、技術的範囲に属さない」という結論を導いてください。
 解答には「A’はイの発明特定事項を全て充足するものではないため」とありますが、この記載の根拠が明示されていない点がマイナスです。
 均等論の第1要件について、単に「Cがイの本質的部分ではなく」とするのではなく、「異なる部分Cがイの本質的部分ではなく」と、Cの評価を加えるようにしたほうがよいです。
 また第4要件についても、「出願時において」ではなく、「イの出願時において」と加えるだけで、より事案に即した解答になります。
 同様に第5要件についても、「イに係る出願の特許請求の範囲から」のように、事案に即した解答表現を心がけてください。

 問1(2)について、「Pの直接侵害とはならない」「Pの侵害とみなされる」のように表現しないと、あてはめが不足しているという印象が生じるリスクがあります。
 同じく、「丁の悪意」についても、その内容について、「丁が、③. イが特許発明であり、④. 戊がBをイの技術的範囲に属するA’に用いることを知りながら、」のように、事案にあてはめながら解答をしたほうがよいです。
 
 問2(1)①について、冒頭又は結論部分で、戊の行為がPの直接侵害を構成することに言及してください。戊の侵害行為の認定が、差止請求の前提であるからです。
 なお、本問において各問は独立しており、問1(1)と前提条件も異なっているため、上記の認定はマストです。
 また、設問では、「単独請求の可否」が問われていますから、「単独で」できる旨を明示しないと、解答表現としては不十分です。
 問2(1)②について、「102条の損害額の推定規定が適用できるか」を問うているわけではないことに注意してください。
 ここでは一般的な記載である民709条+103条、に触れておけば十分です。解答では、特則である102条に飛びついている印象を受けます。
 
 問2(2)については、差止ができない理由付けとして、債権的権利にすぎない、排他権を有さない、という点に言及できていれば十分です。
 独占通にせよ、債権者代位についても、十分な論証で解答しない限りは、加点は望めないので、触れないほうがよいです。他の受験生も、これらの点について十分には書けないので、本問においては仮に満足に解答できたとしても、合否を分けることにはなりません。
 それよりも、結論部分について、「Pを侵害する戊に対し、単独で侵害の差止めを求めることはできない。」としっかり書くほうが、採点者に好印象を与えられます。
 また、損害賠償請求の許否についても、原則部分を答えられれば十分です。独占通の場合の言及は、「期待権」・「期待利益」というキーワードが出ているため、加点が見込めますが、この点についても、正確に書ける受験生は25%を大きく下回る予想されるため、書かなくても合否に影響はないと考えています。

 問3について、間接侵害の論述に入る前に、直接侵害を否定してください。また、「上記のとおり」ではどの部分を指しているか分からないため、できる限り例えば「問1(2)の通り」のように具体的に明示してください。
 また、「イの技術的範囲に属するA’は日本国内に流通するものと解されるところ」という記載の意味が取れませんでした。続く理由付けについても、本問では「乙の専用実施権の効力」が問われていますから、製パン機事件の射程が専用実施権についてまで及ぶことを示す必要があります。

問題IIの解答については、記載量は十分なものの、「問題文の事案に即した具体的な解答」という点において、言葉足らずの箇所が散見されました。

なお、答案例については、上記で指摘した点について反映させたバージョンを公開予定です(追記:公開しました)。最新の情報はツイッターに投稿しますので、フォローしてもらえればと思います。


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