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#20. 繰り返される分割出願に潜むリスク

 久しぶりの記事になります。この記事を書こうと思ったきっかけは2021年2月14日の以下のブログを読んだことでした。

 約2か月経過してしまいましたが、このように分割出願を繰り返したときのリスクについて記事にしたいと思います。今日は珍しく完全に実務者向けの記事です。なので、この記事はサグラダファミリアのように細かな表現を気にして微修正を継続することになるかと思います。

1.そもそも分割出願をなぜ何回もするのか?

 実務者しか読まない記事だと思うので、詳しく書く必要ないかもしれませんが一応ここから書いときます。

 まずは1つの明細書に複数の発明が入っていて、それを複数件に分けて出願、登録を狙う時に行います。例えば、「A+B+C+D」という要件を揃えて製品で実施するときに、①親件で「A+B+C+D」で登録させる、②子件で「A+B+C」の権利を狙い分割出願、③孫件では「A+B」の権利を狙い分割出願、というケースがあります。CやDが不要な限定だった場合は、この手の出願は「権利の取り直し」なんていうときもありますね。

 あとは他社製品の動向を見て分割、外国ファミリの審査動向をみながら分割なんていうパターンもあります。前者の方は、やってる方は分かると思うのでこれ以上の説明はやめておきます。

2.孫出願以降の分割出願に潜むリスク

 実際の事例があるのでご紹介します。平成15行ケ66審決取消請求事件という事件です。特許判例データベースさんでその記事を確認することができます。

 この記事を読んでいただければそれまでなのですが、簡単な絵を使って経緯を紹介します。

図1

 この事件の主役は玄孫(やしゃご)出願に該当する分割第4世代の出願の登録件(特許2838511)で、この特許が無効にされた無効審決の審決取消訴訟が上のリンクに書いてある内容です。

 この玄孫出願の特許2838511が無効になった理由が「子出願の特許2562698が分割要件違反を理由に無効になったから」というものです。この玄孫出願の特許を無効にしたかった人たちは、子出願に注目していたようです。子出願は登録までの過程で拒絶査定審判を請求し、その際に「線状の支持部材」を「支持部材」とする補正を行っていました。特許請求の範囲の補正をやったことがある人なら誰しもがやってしまいそうな補正ですよね?実際に拒絶査定不服審判では、その補正には拒絶理由は通知されず、その補正のまま子出願は登録されました(特許2562698)。

 この玄孫出願の特許を無効にしたかった人たちは、子出願に無効審判を請求しました。主張した無効理由は「線状でない支持部材」は子出願の明細書に開示がないという新規事項の追加です。結果、請求が認められ「線状でない支持部材」が新規事項と認定されると、子出願の特許2562698は適法な分割出願ではないとされ、子出願の出願日が親出願の出願日に遡及しなくなりました。子出願の出願日が親出願の出願日に遡及しなくなった結果、子出願は親出願を基に新規性・進歩性がないとされ無効になってしまいました。

 すると、この後は芋づる式です。同様の理由で、孫出願の特許2567807の出願日は子出願の出願日までしか遡及できなくなります。結果、玄孫出願は子出願の出願日までしか遡及できなくなり、こちらも親出願を基に親出願を基に新規性・進歩性がないとされ無効になったというのが顛末です。本日の記事の画像に爆弾の絵を使いましたが、子出願が爆弾だったということです。

3.出願人が注意したいこと

 多数回も分割出願を繰り返す出願にはそこまで多いとは思いませんが、このような出願人の特許を潰したいというときは、本日紹介した観点の検討をしているという噂をちらほら聞きます。

 分割出願をする理由の一つに権利の拡張を狙う、ということがあります。しかし、サポートがない範囲まで権利を拡張しようとすると、このような痛すぎるしっぺ返しが数年後にやってくるリスクがあるということです。より広く権利を取りたいというのは出願人の誰しもが思うことですが、それはあくまで『明細書の開示に対して最大限に取りに行く』という大前提があってのことだということを忘れてはいけないということです。冒頭のオモチさんのブログに紹介されたA社さんのクレームは見ていませんが、その辺はぬかりなくやられていることでしょう。

4.このケースは今後も起きうるのか?

 近年は分割したときのサポートの有無に関しては審査官が丁寧に見てくれている印象があります(少しイヤミったらしい言い方かもしれませんが笑)。だから、無効審判で新規事項の追加が初めて認定されるケースはレアケースになっているのかもしれないと思っています。

 あと、このリスクがあるのは特定に国に限られると思います。少なくともUSはこのリスクはないともいます。孫出願も親出願から分割されることになっていますので。

 また、今回のミソは無効理由が「分割要件違反」というところにあります。仮に子出願が新規性や進歩性を理由に無効になったとしても、玄孫出願の出願日は親出願まで遡及できなくなるわけではありません。


 ということで初稿はこんなところで。また何か気付くことがありましたら、加筆していきたいと思います。最後まで読んでいただきありがとうございました。

記事を読んでいただきありがとうございました。 支援をいただければ、また新しい記事を書くモチベーションに繋がります。よろしくお願いします。