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#11.知財部員から視た「スマホで飲食注文」問題

 ご無沙汰してます。久しぶりの記事になります。先日の日刊工業新聞の記事が目についたので、思ったことをまとめておきます。

 記事を要約すると、昨今いろんな飲食店で行われている自分のスマホを使ってメニューを注文するシステムを導入している店舗が、Queens japan株式会社の特許を侵害している可能性がある、とのこと。

 今日は知財関係の方以外にも分かるように、このような記事が出ることによるメリットとリスクをまとめます。

メリット1.侵害行為を止める

 こういったスマホで飲食注文システムというものが特許で保護されていることを知らずに、このシステムを導入してる店舗があると思います。特許はその存在を知らなかったからといって、侵害行為が見過ごされることはありません。所定の罰則を受けることになります。

 また、存在を知ったうえで実施していると、故意・過失を伴うため、知らなかったときよりも罰則が重くなります。

 そのため、こういった記事が出ることによりQueens japan株式会社の特許を侵害しないように、システムの利用を止める店舗が出てきます。これはQueens japan株式会社にとって1つのメリットとなります。

メリット2.自社が販売するシステムの販売を促進する

 次に考えられるメリットは、その利用を止めた店舗に対して自社が販売するシステムを利用してもらうことです。つまりはQueens japan株式会社は自分達のシステムをかつての「侵害ユーザー」に対して、購入してもらうのです。

 特許権は、その特許発明を実施している製品・システムを購入した人達に行使することはできません。つまりは購入の段階で、その購入者に対して特許権が消尽します。購入する際の販売価格に特許料を上乗せすることにより特許権者は利益を受けることができますし、購入したユーザーが使用する行為まで侵害行為になると、その特許発明を利用する人が居なくなってしまうからです。

 これが2つ目のメリットだと思います。

メリット3.自社の特許を利用させ、ライセンス収入を得る


 メリット2のように自社のシステムを購入してもらわなくても、Queens japan株式会社は利益を得ることができます。いわゆるライセンス収入と呼ばれる、特許権の利用料を「侵害ユーザー」からもらうのです。

 「侵害ユーザー」は従来通りのシステムを利用することができますし、Queens japan株式会社がその実施の実績を認めたうえでの利用になるため、その後、特許権侵害について気にする必要がなくなります。

リスク1.特許の検証性が試される

 さて、Queens japan株式会社が、この特許権の内容を提示し、上記のメリット2及び3の利益を得るために「侵害ユーザー」の所に乗り込む場面を想定します。皆さんが「侵害ユーザー」の立場になったとして、1番最初にすべきことはなんだと思いますか?それは「我々はこの特許を実施していない」と抗弁することです。

 となると、Queens japan株式会社としては、「侵害ユーザー」がこの特許を実施していることを主張する必要があるのですが、その時に試されるのが、この特許権の請求項を構成する構成要件の検証性です。

 特許権というものは、先行技術に対して新規性と進歩性があり、所定の記載ルールを満たしていれば成立するものです。検証性は特許要件に課されていませんので、その特許が検証できないものであっても登録され得るのです。だから、権利行使する特許は原則、全ての構成要件を検証できなければなりません。検証できない要件や不明瞭な要件があったら、権利行使はできません。

 よくよく上述の記事を読むと、記事を書いた方はQueens japan株式会社の特許の代理人なんですよね。登録された特許の請求項に、それだけの自信がある裏返しなのかもしれません。

リスク2.特許の有効性が試される

 続いて皆さんにはまた「侵害ユーザー」の立場になってもらいます。仮にQueens japan株式会社の特許を実施してしまっていることが分かった場合、皆さんは何をしたら良いと思いますか?それは「この特許が無効であることを主張する」ことです。

 上述したように、特許は新規性と進歩性があればほとんどが成立するものです。裏を返せば、その特許に新規性や進歩性がないことを主張できれば、権利行使を妨げることが可能です。

 いや、審査官が審査したものだから、そんなことはあり得るの?と思う方もいらっしゃると思います。が、今の日本の登録査定率は7割を超えており、審査が甘いことは業界人には周知の事実なのです。

 今回のケースだと、文献を調べる限りは新規性も進歩性もある可能性は高いと思いますが、本当に出願時点、全世界のどこでも実施されていなかったのかな?と私は思ってます。

 例えばスマホによるキャッシュレス決済が日本よりも進んでいる中国や韓国で、このようなシステムを導入してる店舗はあったんじゃないかな?と思ってます。当然その事実を立証することは容易ではないのですが、今回の記事を受けて、Queens japan株式会社が日本全国の店舗に対しJASRAC(失礼ですが)ばりの摘発運動を始めたら、対抗する反勢力が資金を募って真剣に調査を起こすかもしれないなんて思ってます。

他社知財部員が視た特許6694402号

 最後に2件あるQueens japan株式会社の特許のうちの一件について、毒のない程度に気付いたことをまとめておきます。

 請求項1の表現で、気になった点は2つ。

 1つ目は『 前記管理制御装置は、
飲食店の管理・運営に関する情報を処理する情報処理サイトと』というところ。

 制御装置は顧客が注文時に使うメニューの情報等だけでなく、管理・運営に関する情報とリンクする部分を有さないといけません。売上とかを管理するシステムとの連動が必須の構成要件であり、ただスマホを使ってメニューを注文するシステムを導入する店舗全てに権利行使できるものではない、ことが分かります。また、これらが別サーバで行われることを許容しているかは不明です(明細書は読んでない、すみません)

 もう一つ気になったのは、『前記第1の携帯通信端末を介して前記第2の携帯通信端末から前記顧客注文サイトにアクセスするためのアクセス情報が記録された二次元コードが出力され、』というところ。QRコードは第1の携帯通信端末が出力しなくはならないないようです。つまりは〇〇で出力してしまえば回避できちゃうのかなぁと。。これ以上はやめておきます。


 久しぶりの記事でしたが、また時事ネタを見つけ次第こうやって記事を書き、存在感を示したいと思います。最後まで読んでいただきありがとうございました。

記事を読んでいただきありがとうございました。 支援をいただければ、また新しい記事を書くモチベーションに繋がります。よろしくお願いします。