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#25. はじめての中間処理

 「はじめてのおつかい」を思い浮かべてこんなタイトルにしてしまいましたが、本日は中間処理の初心者、初級者向けの記事になります。

 私は知財に異動して3日目に初めて中間処理を一件割り振られました。今は方針だけを作成するものも含めると月5-10件くらいのペースでやってますが、今年たまたま若手に対して中間処理について教育する役回りになったので、異動したての自分を思い出したり、未経験の人がやりがちなことをまとめた記事を書いていきたいと思います。

0.  審査官は友達

 いきなりこんなことを書くと特許庁の方に怒られそうですが、まずは審査官や特許庁というものに対して極度に身構えない、という気持ちを持つことが大切です。

 初めて拒絶理由通知を読んだ時に、審査官という職業はなんて意地の悪い人達なんだろう?と思った人もいるかもしれませんが、審査官は出願を拒絶することが仕事ではありません。拒絶理由を見つけなければ登録査定をしなければなりません。また、拒絶理由通知の記載について分からないことがあれば、直接もしくは代理人を通じて質問することも可能です。質問したときに限らず、拒絶理由通知内でこうすれば特許にしますよ〜、と補正の示唆をしてくれることもあります。

 審査官が公務員という理由だけで審査官に対し嫌悪感や警戒感を抱く人もいるかもしれませんが、まずは「審査官は友達」と思うくらいの気持ちを持つことが必要だと思います。

1.審査官の認定は正しいと限らない

 さて、上述したような気持ちを持たないとどうなるか?審査官の言っていることが全て正しいという先入観をもってしまいがちです。審査官が友達ではなく、自分より立場が上の人だと思ってしまうと、その人が言っていることが全て正しいと思ってしまうのが人間だと思います。これはサラリーマン的思考ですので、仕方ないことです。

 日本では少ないかもしれませんが、引用文献が出願時点で公開されていない文献だったり、引例適格のない文献で拒絶理由を構成されることもあります。また本願と引用文献との一致点や差異の認定が誤っていることもあります。このように審査官の認定に対し疑いをかけることが中間処理の最初の作業となります。このような能力を身につけるには、世の中の全てのことに対し疑問や反論を考える習慣をつけるとよいです。ただし仕事のスキルは伸びますが、私のように妻の意見にいちいち反論するクセがつき性格が悪くなるというデメリットもあります。

2.拒絶理由を解消する手段は補正だけじゃない

 初めて中間処理を行う人にありがちなのは、拒絶理由を解消するのに補正案の作成から作業を始めることです。特にサポート要件違反や明確性違反の拒絶理由は、補正しないと拒絶理由が解消しないと思い込んでしまう人がいます。サポート要件違反に対して、まず考えることは「サポートを探すこと」です。明細書の一言一句を読み込み、ワンフレーズでもいいからサポートになるところを見つけられれば拒絶理由を解消できる可能性があります。明確性違反についても、まず考えるべきことは「明確です」と反論する根拠を探したりその理屈を考えることです。それで無理な場合に初めて「補正」という手段が登場します。

 29条1項がついたときは事実認定に誤りがない限り補正が必須だとは思いますが、29条2項についても補正ありきの考えはやめた方がよいです。まずは、組み合わせる動機の有無など、審査基準をよく読んで反論のポイントを練るべきです。

 今日の本筋とはズレますが、補正という行為自体は悪ではありません。クレームというものは、出願、審査請求、拒絶理由応答時と常に最新の情報や知識をもとにベストの表現をするためにアップデートされ続けるべきものだと思っています。なので、そこは誤解しないでください。(アメリカだと補正によって均等の範囲が云々っていうデメリットはありますが)また、最初の中間処理の案件は審査された特許請求の範囲は他人が作ったものだと思いますが、早い段階で他人の作った特許請求の範囲の記載に対しガシガシと手を入れられるようになった方がよいです。自分もそうでしたが初めはなかなか難しいのですが、補正のタイミングを与えられた段階から、特許請求の範囲に対して担当者としての責任が発生していますので。

3.補正時における引用文献との構成の差は一つ

 拒絶理由の応答をする時に、これで上手く行かずに拒絶査定をもらったらどうしよう??という気持ちから、引用文献との差異を多く盛り込んだクレームを考える人がいます。これはおすすめしません。

 特許を出願した人の殆どは出来るだけ広い権利の特許を取りたいと思っていると思います。じゃあどんな特許が広い権利なのか?ということですが、私は先行特許技術や引用文献に対し、構成要件の差が1つしかないものだと思っています。これに関しては過去記事もご参照ください。

 また、これは個人のスキルの問題かもしれませんが、構成要件の差が一つでないと意見書で主張したいことがブレやすくなると思ってます。今回は初心者・初級者向けの記事ですので、意見書を一貫した論理で書くことに慣れてない人が多いはずですので、意見書の書きやすさからも構成要件の差は一つにすることをお勧めします。そして、その構成の差から効果を主張すると進歩性が主張しやすいです。(効果を書き過ぎると権利範囲の解釈において良くないケースもありますが)またこの主張の際には請求項に用いた用語を使いましょう。

4.拒絶理由をもらうメリット

 最後は再び心構えに近い内容です。そもそも拒絶理由をもらうことで、最近接の先行技術を見つけてもらってるというのはありがたいことなのです。もし拒絶理由をもらわずに登録査定をもらうと、もっと広い権利が取れたのではないか?という疑問を投げかけられても、ちゃんとした回答ができないものです。日本にはRCEがないので、分割してより広い権利を狙うことになるわけです。拒絶理由をもらい最近接の先行技術を知ることにより、これが目一杯広い権利なんですよ!と他人に説明しやすくなります。かと言って私はワザと新規性がないクレームで審査請求しませんが、世の中にはそのような流派の方もいるようです、

 まだまだ書けそうなことはありそうですが、初稿はこんな感じで。ネタを見つけて時間が取れ次第、記事はアップデートしていきます。最後まで読んでいただきありがとうございました!


記事を読んでいただきありがとうございました。 支援をいただければ、また新しい記事を書くモチベーションに繋がります。よろしくお願いします。