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#26. 知財部員から視たユニクロ・セルフレジ特許の「和解」

 久しぶりの記事は時事ネタになります。昨日(2021年12月24日)、ユニクロを展開するファーストリテイリング(以下、F社)とアスタリスク(以下、A社)の間で争われていた、セルフレジを巡る訴訟で和解が成立したというニュースが飛び込んできました。今朝からはYahoo!ニュースのトップにも出ていたので気付いた方も多いと思います。まずはソースとなる記事をご覧ください。

 自分たちが使用しているものが、突如、特許権を侵害しているとして訴えられるというケースは、私のようなメーカー知財部員にとって他人事ではありません。昨年も無効審判でA社の特許6469758号のすべての請求項が無効にならなかったニュースで記事(※)を書きましたが、その後もF社はその審決を不服とし知財高裁に訴え、さらには最高裁まで争いがもつれていた中での「和解」という結末。私はどちらの会社の人間でもないので推測ばかりの内容になりますが、思うところを書いていきたいと思います。

※ ↓

1.特許は無効にできなかった

 まず、「和解」という結論から推測できることは、F社はA社の特許の権利が有効なものだと認めたということになると思います。F社は「A社の特許が無効である」として最高裁まで争おうとしていたわけですから、F社はA社に何らかの条件と引き換えに特許を有効であると認めたのでしょう。何らかの条件とは金銭の支払いだと思います。

 これ以上、争いを続けて仮にF社の主張が最高裁で認められなければ、「F社敗訴」というニュースが世間に広がり、F社のブランドイメージは大きく損なわれたでしょう。だから、F社としては「敗訴」の前に「和解」に持ち込みたかったのでしょう。

2.気になる和解の条件

 さて、今回「和解」となったことで、気になるのはその条件です。しかし、これを我々のような第三者が知る術はありません。最高裁のように判決内容が明らかになるものではないためです。最高裁にもつれ込んだ争いでしたが、私はF社の主張は退けられると思っており、その際にいくらの金額がA社に払われるのか注目していましたので、残念です。こういうニュースで大きな金額が報道されると、日本でも積極的に権利行使したり裁判が増えたりして、特許の重みが増せばいいのになぁ、と思っていたので。

 また、今回の記事で気になったのは、

「F社がA社の特許出願が公開される以前から独自にセルフレジを開発して使用していたと確認することで和解合意に至った」、「F社はユニクロやジーユーの店舗において、今後もセルフレジを展開する」

という記載です。特許に少し詳しい人なら「先使用権」という言葉を御存知かもしれませんが、先使用権は特許出願の際現に発明の実施またはその準備をしているものにしか認められていません。F社が「先使用権」ではなく、単に侵害行為があったことは認めたうえで、侵害行為に該当する行為を行った期間は短かったことを主張したということなのでしょうか?その結果、賠償額を減額させたのかな?と思います。記事中に"侵害"という表現を用いていないのでは、F社という大きな会社のイメージを傷つけない記者の思いやりが含まれているではないかと推測します。

3.知財部員として開発者に伝えたいこと

 まず、一番、勘違いしてほしくないのは「今回の争いで、先使用権が認められた」と解釈することです。まずい他社特許を見つけた時に、開発の特許に詳しい方が開口一番「先使用権」を口にする時があるのですが、「先使用権」は今回のケースのように、相手の特許が有効だと認めざるを得なく、最高裁までもつれるようなケースで初めて苦し紛れに使う言葉だということです。また、今回も先使用権が認められたとは書かれていませんので、今回のニュースをミスリードしないでいただきたいです。

 次に、伝えたいのは機密管理の重要さです。今回の争いの発端になった、「大きな会社と小さな会社の共同開発のやり方」にはいろんなリスクがあります。まず、例えば、F社の開発の方はセルフレジを開発するにあたり、自社独自で開発していただろうし、A社から開発に関する情報を得ていたはずです。まず、F社はその2つの開発の行為のメンバーを切り分けてなかったんじゃないかな?と思います。そこはきちんと分けなければ情報のコンタミが起きて、アイデアを盗用された!/自分たちのオリジナル技術だ!という争いが生じるリスクがあるのは想定できたんじゃないかと思います。おそらくF社の知財の方が状況を知った("ラブレター"が来た段階)時には、すでに知財部員の対応だけではどうにもならない状況になっていたんじゃないかと推測します。開発と知財含めた法務の距離感はできるだけ短いものにするべきです。自戒の念も込めています。

 最後は、特許出願は大事だということです。今回のケース、あくまで推測ですがF社はA社のアイデアはいつか安く買い取れると思ってたりしたんじゃないかな?と思います。また、A社が特許出願するような企業じゃない、と思っていたのではないでしょうか?

 日本では大企業がベンチャー企業の技術を盗用したり、安く買い叩くケースがあるというニュースをたまに耳にします。今回、A社は特許を出願していたからこそ、ここまで争えて、いい方向に話を収束させることができたのだと思います。特許出願していなければ、アイデアをパクられたと騒ぎ立てることしかできず、何の金銭的補償も得られなかったことでしょう。機密保持の契約不履行で争うより、相手に何か話す前に特許出願する、というのは最善の方法だと私は思います。

4.このニュースの報道について

 最後に、A社の代表取締役のツイートをみて驚いたので、リンクを貼らさせていただきます。

 最近、新聞は読まないしテレビのニュースを見ないのですが、こんな扱いを受けてしまっているのですね。一般の人はあまり知らないニュースなのでしょうかね。。


 ということで、本日はここまで。読んでいただきありがとうございました。

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