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生成AIに商標の適切性を判定させよう

1.はじめに

 商標は、当初は日本国に商標登録出願したのちに、外国に事業展開する際に、その外国に商標登録出願することが多いです。
 しかし、外国では、その商標の使用が適切でない場合があります。適切でない連想をさせる称呼だったり、適切でない連想をさせる外観の場合です。ここでは、生成AIに、外国にて適切でない商標を判定させてみました。これを、コノテーションチェック(ネガティブチェック)と呼びます。

2.事例

2.1.カルピス(登録番号第1980500号)

 登録番号第1980500号(登録日:1987年8月19日)「カルピス\CALPIS」について、日本と米国と欧州と中国にて、飲料水の商標としての使用が適切か否かをChatGPT 4o に問い合わせてみました。

1. 日本
適切性: 非常に高い。
理由: 日本国内では「カルピス」は非常に有名なブランドであり、既に商標として登録されています。したがって、日本国内で「カルピス」という名称を使用することは完全に適切であり、問題はありません。

2. 米国
適切性: 低い、別の名称を使用することが推奨されます。
理由: 「カルピス(Calpis)」の発音が英語の「Cow Piss(カウ・ピス)」に似ているため、消費者に不快なイメージを与える可能性があります。このため、米国では「Calpico」という名称が使用されています。米国で「カルピス」を商標として使用することは、ブランドイメージを損なう可能性があるため、適切とは言えません。

3. 欧州
適切性: 中程度。
理由: 欧州では、英語が広く理解されている地域も多いため、米国と同様に「カルピス」の発音が問題になる可能性があります。一部の地域では、「Calpico」の名称を使用する方が適切かもしれません。しかし、英語圏以外の国では、発音や意味の問題があまり生じない可能性もあります。欧州において商標を登録する際は、各国ごとの言語と文化を考慮する必要があります。

4. 中国
適切性: 高いが、現地名も考慮することが推奨されます。
理由: 中国では、ブランド名を漢字表記にすることが一般的です。「カルピス」を現地の発音に合わせた漢字表記(例: 可尔必思)として使用することが推奨されます。中国語では発音の問題が生じないため、商標として適切に使用できると考えられます。ただし、既存の商標登録を確認し、競合する商標が存在しないかを確認する必要があります。

結論
日本: 商標としての使用は完全に適切。
米国: 「カルピス」の名称は適切ではないため、「Calpico」を使用する方が良い。
欧州: 英語圏では「カルピス」の使用は避けた方が良いが、他の言語圏では状況に応じて判断。
中国: 「カルピス」を漢字表記で使用することは適切。ただし、商標の重複に注意。

 「カルピス」は著名商標であるため、各国での出願の違いを含めて、ChatGPT 4o が予め各国への適切性を知っていたようです。なお、権利者は、米国にて "CALPICO" という名称でカルピスを販売しています。カタカナでちいさく「カルピス」と書いておくのは、現地日本人対策でしょうか。

calpico-usa.com より

 中国におけるカルピスの商標は、上記の提案とおり「可尔必思」でした。 

アサヒ飲料HPより

2.2.ポカリスエット(登録番号第1574161号)

 登録番号第1574161号(登録日:1983年3月28日)「ポカリスエット」について、日本と米国と欧州と中国にて、飲料水の商標としての使用が適切か否かをChatGPT 4o に問い合わせてみました。

1. 日本
適切性: 非常に高い。
理由: 日本国内では「ポカリスエット」は非常に有名なスポーツドリンクのブランドであり、既に商標として登録されています。したがって、日本国内で「ポカリスエット」という名称を使用することは完全に適切であり、問題はありません。

2. 米国
適切性: 中程度。
理由: 「スエット(Sweat)」という単語が「汗」を意味するため、米国の消費者にとっては少し不快な印象を与える可能性があります。日本の製品であることを理解していない消費者にとっては、飲料に「Sweat」という名前がついているのは違和感を覚えるかもしれません。しかし、「ポカリスエット」は米国市場にも一定の知名度があり、特に健康やスポーツに関心のある層には受け入れられているため、商標として使用することは可能です。ただし、ブランドイメージを考慮して慎重に扱う必要があります。

3. 欧州
適切性: 中程度から低い。
理由: 欧州でも英語が広く理解されており、「Sweat」という単語が飲料に使われることに対してネガティブな反応が予想されます。そのため、欧州市場でも「ポカリスエット」の名称をそのまま使用することは、消費者に不快な印象を与える可能性があり、適切ではないかもしれません。場合によっては、現地市場に合わせてブランド名の変更を検討することが望ましいです。

4. 中国
適切性: 高い。
理由: 中国では「ポカリスエット」という名称は広く認知されており、現地語表記(例: 宝矿力水特)も含めて、商標として適切に使用されています。「Sweat」という英語の単語が直接的にネガティブな印象を与えることは少ないため、中国市場では特に問題なく使用できます。

結論
日本: 商標としての使用は完全に適切。
米国: 使用は可能だが、「Sweat」の意味を考慮してマーケティングに注意が必要。
欧州: 英語圏では「ポカリスエット」の使用は適切ではない可能性が高く、現地名を検討する方が良い。
中国: 商標としての使用は適切であり、広く認知されています。

 ポカリスエットは著名商標であるため、当然にChatGPT 4o はそのことを知っていたようです。中国における表記も知っていました。

freshhongwan.greedc.comより引用

 そして、生成AIは、米国と欧州にて、"sweat" の単語を飲料に使うことの違和感を予測しています。具体的には、以下のポストにて Pocari Sweat という名前は、英語ではちょっと面白いと評されています。

 なお、権利者の大塚食品は、海外名も統一して本商品をボカリスエットという名前としています。"汗をかいた時においしく飲める味"というコンセプトだからだそうです。

2.3.登録番号第633828号

 一般社団法人SHORINJI KEMPO UNITYの登録番号第633828号(登録日:1964年1月13日)について、日本と米国と欧州と中国にて、武道団体としての商標としての使用が適切か否かをChatGPT 4o に問い合わせてみました。

登録番号第633828号

1. 日本
適切性: 中程度から高い。
理由: この商標には「卍(まんじ)」のシンボルが含まれていますが、日本ではこのシンボルは仏教の象徴として広く認知されており、ネガティブな意味はほとんどありません。したがって、日本国内での商標使用は特に問題ないと考えられます。

2. 米国
適切性: 非常に低い。
理由: 米国では、卍(スワスティカ)は第二次世界大戦中のナチス・ドイツの象徴として広く認知されており、このシンボルの使用は非常にネガティブな反応を引き起こす可能性があります。そのため、この商標を米国で使用することは非常に問題があり、適切ではありません。

3. 欧州
適切性: 非常に低い。
理由: 欧州でも同様に、スワスティカはナチス・ドイツの象徴として知られており、このシンボルの使用は強い反発を招く可能性があります。特にドイツなどでは、スワスティカの使用は法律で禁止されている場合もあります。そのため、欧州でこの商標を使用することは非常に不適切です。

4. 中国
適切性: 中程度から高い。
理由: 中国では、卍(まんじ)は仏教の象徴として一般的に認識されています。したがって、特にネガティブな意味合いはなく、中国市場ではこの商標の使用は比較的適切と考えられます。ただし、国際的な文脈や外国人観光客を考慮すると、慎重に扱う必要があるかもしれません。

結論
日本: 仏教的な象徴として認識されるため、商標としての使用は適切と考えられる。
米国: ナチスのシンボルとしての認識が強く、使用は非常に不適切。
欧州: ナチスのシンボルとして認識されるため、使用は非常に不適切。
中国: 仏教的な象徴として認識されるため、商標としての使用は比較的適切。

この商標は特に西洋(米国および欧州)においては非常にセンシティブであり、使用を避けることが強く推奨されます。他の地域でも、文化的な誤解を避けるために慎重な対応が求められます。

 この商標は、結成当初の少林寺拳法のロゴマークでした。中央に寺を示す左卍が示されています。ChatGPT 4o は本商標の中央部分をスワスティカ(左卍)と認識し、ナチス・ドイツの象徴であるハーケンクロイツ(右卍)と混同しています。

 ただ、実際に権利者は、2003年に新しいロゴマーク(登録番号第
4780125号)を制定しています。

登録番号第4780125号

その理由として、「少林寺拳法が広く海外にも普及してゆくにつれ卍の外見が一部で問題(ハーケンクロイツとの類似)となっており、この度の改変へと結びつきました。」と記載されています。

 ChatGPT 4o にとって、少林寺拳法の旧ロゴマーク(登録番号第633828号)は初見のようですが、正しく欧米における問題を指摘しています。

3.従来技術

3.1.Fovea IP

 Fovea IP 商標検索データベースには、ネガティブミーニングチェックという機能があるそうです。これによっても各国における商標の適切性について評価できます。生成AIとは違う視点で判断できる点で価値があるとおもいます。

3.2.Word Safety

WordSafety.com は、19 の言語で入力された単語を罵り言葉や望ましくない連想語と照合するというものです。音声マッチングも行います。おそらくルールベースとおもわれます。

3.3.マークアイの商標調査サービス

コノテーションサーチ:候補名称が各国でどのような意味に理解されるか、特に好ましくない意味がないかどうかを調査します。手作業での調査とおもわれます。

3.4.インターマーク社の海外調査サービス

ネガティブサーチ(コノテーションサーチ):商標にネガティブな意味が含まれていないかをチェックします。その国において悪いイメージがないか、公序良俗に反していないか等を調査します。手作業での調査とおもわれます。

3.5.GMO商標クイックサーチ

商標の識別性と登録・使用可否に加えて、Negative Connotationが報告されます。現地弁護士によるレポートです。

4.おわりに

 ChatGPT 4o は、各国の言語やロゴについての知識を有しているため、称呼・外観の適切性について、ある程度まで判定が可能です。
 きちんと調査するためには、現地語を母国語とするNative Speakerに確認する必要はありますが、取り敢えずのスクリーニングに ChatGPT 4oは使えそうです。

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