東から西へクロイツェラーが進軍してくる。 ゲルマニアの兵が沈んだダルハムの港とは反対の東のオストウラジの港から陸路で皇帝旗下、アモン元帥率いる神皇軍3万を先頭にガリア王率いる1万、ラッセル王2万。

特に猛将アモン率いる神皇軍の足は速く翌日、クロノス領内に布陣、城壁外の村を4つ焼き払い、逃げ遅れた住人を皆殺しにして、炎に投げ込んだ。

首は切り取り、沿道に杭を立てひとつひとつに異端と書かれたパピルスを咥えさせて突き刺して有る。

おかっぱ頭は年端も行かない少年か?

アモンの軍団にテンプル騎士団が付き従っていた。ラテン隊の隊長ピノ・べネッティは気が進まない。
何故、こんなことに?
シヴァはロッソの国だし、クロノスは王妃ルナの実家だ。

あいつらが異端だなんて
ふと気づくと、生暖かさを頬に感じた、空気が紅いクリムゾンウィンドが吹いている。
血の臭い、頬を皮手袋で拭くと赤く染まった。

「お助けを」
商人風の男が足にすがる
すがられるのを嫌って、ピノが避けると男の腹から切っ先が生えた
「悪いな、テンプル騎士さま、こいつは俺の獲物さ」
野卑な傭兵が男の懐から金袋を持っていく。
「浄化だ浄化だ」
叫びながら兵達が非戦闘員を殺している。血を分けて清めるのだと
白昼から女が服をはがれて太い足を宙に揺らしている

全て、アモンの命令で行われているし、その上は、摂政と皇帝だ
「浄化」が許可され奨励されている

自分は熱心な信者で洗礼を受け教会に通い、さまざまな儀式に出席した
信心を極めようと日々努力した。

これを求めるのか、神よ、あなたが求めたのはこれか

ピノは心で叫んだ。

半日遅れてガリアとラッセルがシヴァに着いた。
村々の住民は城壁の中に避難し城塞国家と石の回廊で繋がった丸や砦が3万の軍を迎えた。

「如何ですかな、ガリア王」
軍議の席でラッセルが呼びかけた
「このような城攻めに、3万で懸かることもありますまい凍土から来た我が兵2万で揉み潰しますゆえ手柄をお譲りいただけませんか」
ガリア王の将軍たちはいろめきたった。 シヴァの宝は諸国に聞こえている。独り占めしようというのか
「いえ、もちろん戦利品は仲良く2分の一で、私は音に聞こえたシヴァ王と戦いたいのです」
 ガリア王は鷹揚に頷き、将軍たちに後詰に回ることを指示した。 娘である皇妃アルテミスからシヴァ王のことを聞いていたしセイワー、カンムーとの戦いぶりも人を放って調べていた。 力攻めで落とせる相手ではない。

 ルナ、マリア、ヒルダは大門上のテラスに上がった。 3人とも兜は被らずイノシシの甲冑を着ている。 大門の上には踊るイノシシの旗が掲げられ
誇らしげにはためいている。
 
 見渡す限りの軍勢、手前に来ている色とりどりは、北の国ラッセルの軍勢か。
 遥か後衛にガリア王の青備え槍や甲冑、戦斧が西日に紅く光る。

やるだけの準備はした。 道具も訓練も。

思えば、美しく死ぬ為の訓練だったかも知れない、理不尽を受け入れて
生きるよりは遥かに自分で居られる
マリアはそう思う。

シヴァ家の財力と集められる情報、皆で出し合った知恵
ヘイバイトスの新兵器。
大丈夫でしょう、ヒルダは思う。

自分で皇帝に喧嘩を売っておいて、肝心なときに他の女の所へ行って
女房に任せきりって、一体どんな亭主なんだろう、忘れ薬のせいとは言え
帰ってきたらとっちめてやる。
くちづけぜめに逢わせるから
ルナはにこりと笑った。


ラッセルの軍から白旗を靡かせた騎士
大門の前で停まり大音声で呼ばわる。
「これは、これなる スラビア国ラッセル王が使者にござる、こたびシヴァ王にハドリアヌス皇帝より勅旨これあり。異端審問を致すゆえ、シヴァ王、王妃、側室ともども我らと共にカウントベリーへ同道されよ」
「要するに、ロッソさまを謀殺して財産没収、私たちは慰み者ということですね」
ヒルダがクスクス笑いながら言う。ルナもクスリと笑った。

「お使者ご苦労様にございます、私はシヴァ王の王妃ルナです。こたび、夫は留守をしておりますゆえ、私が承ります」
「なんと、シヴァ王は臆病風に吹かれ、奥方を残されて、はや遁走されたか」
「豚だからトン走かもしれないけれど・・」
ヒルダがくすくす笑う。

マリアが1.8mのロングボォを扱く、改造型だ。 ギアと滑車の組み合わせで女の力でも引けて推進力はオリジナルの5割り増しになっている
ヘイバイトスの造ったプロトタイプだ、命中率を射手の集中力に頼ると言う欠点が有る。
「わが夫は逃げませぬ、ラッセル王のお相手は我らでせよと申し、女のところで遊んでおりまする」
「なんと、我らを侮辱なさるか」
「先に侮辱なさったのはお使者さまでは? ご立派な武者振り、女の引く弓くらい避けられましょうな」
「おぅ、逃げぬゆえ射て見よ」
スラビア人は馬上で胸を張った、黒髪を後ろで結んだマリアが弓を絞る。皮のグローブをした左の人差し指に矢を乗せ息を吸い、ゆっくりと吐く。ひょうと放たれた矢は放物線を描き飛んでいく。 女の矢ごときは見えてから抜打ちにすれば切り落とせると高をくくっていた騎士は、柄に手を掛ける前に額を射抜かれた。

徹甲用の鋭い鏃が30cmほど後頭部に顔を出す、的中のショックで首が後ろに倒れ、そのまま落馬した。 馬だけ陣のほうへ駆け戻る。

 鼓笛隊を中央に左右に槍兵、その左右に弓兵軍楽を奏でながら前進してくる
ざっざっざっ
ヒースを踏む規則正しい音、ドラムスに合わせて見事な行軍。 大門の100m手前で全員が停まる。

ドラムのリズムが変わると。ざっと左右に展開した

弓兵が矢をつがえる、槍兵が投擲の姿勢をとる、どんっというドラムの音で
矢が放たれ槍が投げられた。

大門めがけて矢と槍が飛ぶ、ルナたちは城壁に取り付けられたペダルを蹴った。
スプリングで鉄の防護板が飛び上がる矢がかんかんと音を立てる

ヒルダが防護版の隙間からカタパルトの先を突き出す

ルナが「てつはう」を籠に乗せる、びんっと音がするとてつはうが飛び出し
弓兵の間に落ちて榴弾が6人をなぎ倒した。

マリアはショットボォを降らせる。ざぁっと落ちた矢は槍兵を倒した。
ショットボォとてつはうの連続発射、ほとんどの敵が倒れる。

騎馬が100ばかり突っ込んできた弓兵たちの前に横隊で並ぶ、動ける弓兵、槍兵が引き上げていく。

大門の右手あたりから、バグパイプの音、シグムントがイノシシ武者を100騎引き連れている

黒い甲冑に後ろ足で立ち腰に前脚をあてた紅い踊るイノシシ、全員が抜刀して斬り込んだ

剣が刀に変わっている、やや反りがあり片刃、斬り結ぶ相手の剣をつぎつぎにへし折る。

馬同士あたりあっても、シヴァの馬は負けない、甲冑ごと両断する音
血が飛沫き人間の内容物が飛び出す。

人の気に馬が逆立ち、暴れまわる。半分ほど討ち取ると、敵の騎馬隊が背を向ける、追い討ちをかけて更に30ほど討ち取り、シグムントは右手の砦に戻る。

「刀まで変えていたんですね、戦費が大変かも・・」
マリアが言う
「装備を良くして人的被害が少なければ安いって」
「ロッソさまが?」
「ええ」

 アモン・ドミニ・カニス元帥はクロノス城に続く森の手前、うねうねとした丘が続くヒースに布陣していた。

近隣の村を焼き、皆殺しにして見せしめをしてもクロノスの兵は出てこない。
夜になると、森を抜け夜襲をかけて来る。黒髪の2mもある大男が手勢を率い風のようにやってきて
ひとつの隊を壊滅させると、また、風のように去っていく。

ゲリラ戦にだんだんいらいらが募ってくる。
「浄化」が出来た村は4つで他の村はもぬけの殻だった
さらに索敵をかけたシヴァの村も、もぬけのから、城壁の内側に逃げ込んだのか?
いや、兵糧などの補給を考えれば何処かに疎開していると考えるのが普通だ。

それがどこなのか?
シヴァは隠し金山を持っているという
人口3万と言うのも収穫できる農作物で養えるものを計算しているきらいがある。

実際金山を持っていて商取引をして富があれば、その数倍、いや十倍のの人口でも養える。
そんな人数を隠すのは大変だろうが富があれば出来るのか?

「本当に喰えない奴だ」
アモン元帥は、シヴァ王の腕白小僧がそのまま育ったような無邪気なきらきらした瞳を思い浮かべた。

シヴァの北辺。 Geld金山、防衛砦にシュバイツ人傭兵隊長
ハリーポルテルが戻っていた。

かねての打ち合わせどおり、スロンを片付けてそのままの3000の兵で金鉱の守備と疎開者の保護にあたる

ロッソは従前から、疎開用のキャンプを用意しており金山手前の森のなかに
巧妙に隠しながら10,000人収容のものを造っていた。

 シヴァの都から街道をスロン方面へ北上し途中北西に斜めに入っていくと
Geld山麓の樹海がある。 樹海の中ほどに砦が有りその後方にキャンプが有る。

夜明け
ルナの侍女ベルが炊き出しをしていた。 いざとなったら逃げにくい老人や
子供、それを世話する女たちが疎開してきている。

ロッソの城から連れてきた料理人。 砦の兵を差配して
食事を作る。

朝食は野菜と肉の入ったスープにゆで卵、パンだ。

大勢が器を持って並ぶ、10箇所ある配給所で食事を配り
無くなれば厨房から代えの鍋を持ってくる

避難民も兵も一緒になって食事をする。 戦場では怖れられる赤に白十字の
ユニフォームを来たシュバイツ人の傭兵が老人の世話を焼き子供の口にパンを運ぶ。

傭兵の中にも国へ帰れば家族の居るものがある、敵を斬り倒し
槍で突き倒すその手で子供たちを抱き上げ老人に手を貸し故郷を思っている。

「早く戦が終わると良いのに」
ベルが呟いた。
「ほんとに、ロッソさまはなにをしているのだろう、姫様に戦争を任せて・・・」
鍋をすくうしゃもじを腰にあてて独り言を言った。
傭兵がそれを聞いてくすっと笑う。

「はいはい、食べちゃいなさいよ」
ベルは皆の世話を焼きながら
忙しく駆け回る。
「子供たち、食べ終わったら薪を拾っておいで
夜は冷えるよ」

老人たちはヘイバイトスの鍛冶場を手伝い、矢やてつはうを造る手伝いをする。
女たちは携行兵糧を作ったり砦の補強を手伝っている。

ここではのんべんだらりと遊んでいるものは誰も居ない。

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