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インターフォンが鳴った、応答する 
この世で一番見たくない奴が映っていた 親父
ロビーへ行きますとに言った

アヤが出てきて心配そうに僕を見る
「親父だよ、ちょいと追い返してくる」
アヤを抱きしめキスをした

部屋を出てエレベーター、こんな時に限ってなかなか来ない
下から来たエレベーター、誰も乗っていない箱に乗り込んでLを押す

扉が開くと親父がソファ手前で立っていた
僕は黙ってソファに近寄り 手で誘導して互いに座る

「明けましておめでとう、涼次、部屋にあげてくれるかな」
「どうしました阿玖吾さん」
そこは無視して返す、きっとアヤが聴いたらぞっとするような冷たい声音だろう

「大発会はどうでした? 少しは取り戻せました?」
「うん、おかげで12月に損をしていた分はもどせた」

「それは良かったですね、で、今日は如何なさいました」
「いや、新年のあいさつも出来ていないので」

「別に僕に興味なんて無いでしょう?お互い、ええかっこしぃは止めて本音を話しませんか?」
「大きな勝負をしたいので資金を借りられないか」

「証券会社に頼んだら良いじゃないですか」
親父の限度がいっぱいで無理なのは知っている 

「親が頭を下げているのになんだ」
親父は僕を殴る前の目をした、ものすごく威圧的で恐ろしい目だ、そのでかい平手を喰らって何度ひっくりかえったか、鼻血を出し痛くて泣けば反抗だと、また殴られた。

「頭を下げてないですよね、いつ下げました」
「頼む」
30年老けた僕だと言われる親父が膝に手を着き 僕に頭を下げた、白髪が貫録じゃなくて醜さになってるのが何ともね

「嫌です」
「涼次!」

「大声は勘弁ですよ、手出しは出来ないでしょうし、恫喝するならとりあえず通報します」
「随分偉くなったな」
憎々し気な目ってやつ、僕も時には、こんな目になるのかしらん

「そうですか? 大切な配偶者を僕が殺したと言いましたよね、僕からすれば母を殺したと貴方に言われた、そんな相手に借金を申し込むのが筋違いと言ってます」
「あの時はルリコが死んで本当の自分じゃなかったんだ」

「親だった貴方がそれで子供だった僕はどうしたら良かったんです? 葬儀場の裏側で僕のせいだとさんざん殴りましたよね」
「まだ恨んでいるのか」

「まだって、ほんの4年ですよ 僕が大学に入った年だもの、大人しく殴られてあげたのに」
「すまなかったと思ってる」

「お金が要るから、そんな気持ちに自分を誘導してるだけでしょ、自分さえ騙すんだ貴方は とりあえず目先の金を手に入れるためなら何でもするでしょ、お引き取り下さい、絶縁を突き付けられたのは僕ですよ」
僕は立ち上がりエレベーターホールへ、待機していたエレベーターに乗り7を押す指が震えた、扉が閉まる、あっという間に着いて部屋の玄関を開けたらアヤが居た

力いっぱい抱きしめる髪に頬を当てるアヤも僕を抱きしめ返している
息が出来る、心がすぅっと沈静していく、なんて有難い。

「泣いて良いんだよ」
「泣くと殴られたから泣けなくなったんだ」
情けないことにアヤの肩を借りる様に歩き寝室へ

「やれやれバカってのは何と身勝手な」
並んで座っていたのが、アヤに上半身を引かれ膝枕、手櫛で髪を撫でられる

「おっかぁが膵臓がんだ3~6ヶ月の余命だって宣告されたとたん、親父は家中の通帳を持ち出した、投資につっこんだのさ、足りなくて、母が出してくれた入学金も返せと言って来た、で、僕は2丁目から、あの秘密クラブに務めるようになった」

2丁目に住み込みで働かせてもらい、もっと銭をってなったら秘密クラブを紹介され、けつに火がついている僕は、そりゃもう全身全霊を使って”仕事”をした、あれこれ調べ女性の全てを知るために国会図書館まで通って工夫した。

”仕事”始めてから1ヶ月で叩き返してやった、ねぇ言うに事欠いて利息も払えってさ、だから入学金の3倍くれてやったよ 母が出してくれた入学金なのに、あいつはそこも僕と母の絆を斬ろうとしてきた、それも無意識に
あんな奴の3割でもDNAが来てるってのが嫌で仕方ない、

おっかぁは入退院を繰り返し小康状態の時は 点滴スタンドをゴロゴロしながら飯をこさえて、あいつと喰っていた、あんな嫌な奴に惚れてたのかなぁ

「おかあさまは、我慢して我慢してお父様に尽くした、我慢しすぎて癌が出たって事だよね」
「どうして棄てなかったんだろうね」

「お父様、可愛いんだよ、涼次に似ているところが有る」
「嫌な所は似るって言うね」

「嫌な所じゃなくて惹きつける所が似てるんだよ、ずっと前に香織ンも言ってたじゃん」
「女ったらしのところが似てるってね」

「卑下しないの」
きゅっと耳を引っ張られた
「アヤはおっかぁに似てるんだ」

「光栄だよ、運動神経抜群で機転が利いて優しい人だったって言ってた」
「ごめんなマザコンで」

「涼次は良いマザコンだもん、女の人を愛するためのマザコン」
「あら飛んだ買い被りで」

「買い被りじゃないよ良いマザコンは母親の良い所をチョイスして行動してるんだ、だから涼次は女性が楽しいように楽なようにナチュラルに気配りする、お父様がナチュラルに人を傷つけたりするのと対照的に」
僕は下からアヤを見上げてる、すっとした顎、高い鼻筋、キスするのが好きな唇が音声を発してる

「親父のDNAが嫌だぁ消し去りたい」
「その3割も含めて私に惚れられたんだから、自信持ちたまえ涼次君」

ベッドから降りてアヤに覆いかぶさった、キスをする
女の人は大切にしないと、一緒に居てくれるだけで こんなに楽しくて口角が上がるんだから

「愛してる」


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