シヴァの国、城館と城壁の強化。 長い髪を後ろに縛りルナが指揮をとっていた。

 女たちと残ったもので城壁を強化し、壁の上に兵器を据え矢を置いていく。 訓練も欠かさずクロスボォなら女が撃ってもかなりの命中率になった、ただ、習熟した弓の射手に比べて速射が利かないのが難点だ

 先日のボックスマガジンとラチェットレバーの組み合わせでも1分に5本しか撃てない。

 その分、ショットボォ、20本の矢を一度に飛ばす機械は威力がすばらしく、単位時間当たりに飛ぶ矢も多い。
矢は短く金属だから訓練に使っても消耗しない。

 或る日、都から使者が来た。

 ロッソへの呼び出し状を携えている、戦場へは街道が戦のため混乱していて、たどり着けなかったらしい。

 クロイツェラーから戻り次第、都の宮殿に出頭すべし摂政と皇帝の連名だ。ルナは来るものが来たと思った。


 その頃、ロッソとシグムントがトーネの土手の上に居た。
ロッソはドレスゴードンのキルトを着てバグパイプを抱えている。

 パイプバッグを押し込み空気を送ると、厳かに音を出す、シグムントがそれにあわせてドラムを叩く。

 川面を走る風に物悲しい音階が流れていく

「弔いの音楽ですか?」
 テンプルラテン隊の副長アルバレスが立っていた。 演奏が更に続く蹄の音がいくつか

イシュタル
ピノ
ハーゲンが居た

 バグパイプが止まる、皆が黙祷した。 シグムントが楽器を持って下へ降り馬からロッソの剣を取って来た、いつものバルムンクも1.4mある大剣だが、それは更に長かった、差し渡し2mはある。

「グラムの神剣ですね、それでマサカド殿を退治するかと思ったのに」
 アルバレスが不遜に言った。
「マサカドは赤竜だけど、悪龍じゃないよ、殺しても不死身になれるわけじゃない」
「あなたは不死身じゃないんですか?」
「おまえに叩かれれば瘤もできるぜ」
 ロッソが笑った。
「木剣でも頭を割れば死ぬと思ったんだけど」
「ちょっとずれたな、おかげでカノンとHしないで済んだし、あれがなかったら3人に嫌われたかも、危なかった」
「馬鹿な事を言っていないで、立ち合いませんか?」
「俺を倒したら都へ帰らなくちゃだもんな」
「判っていたんですか?」
「ハドリアヌスだろう、俺の跳躍斬りを最初に見切ったのはあいつさ、ただ、反撃するスキルがないんだけどね」

 シグムントが鞘を持ちロッソは身長より長い剣を抜いた。 アルバレスも抜く、ロッソの赤毛に自分の剣が食い込んでいくのをイメージした、刃風を感じたら振り下ろせば良い。

 対峙し固着した。 お互いの呼吸が同調する。 風が吹く、音も無くロッソが跳躍した。

 アルバレスは4歩右、剣を頭上に振り上げた。

 鳩尾が熱くなった、目を見開く身体が動かない、頭上に剣を構えたまま
息が止まった。

 2mの剣が鳩尾から入り背後に抜けて地面を刺していた。

「剣は突くもの、刀は斬るもの東ではそういうのさ、おまえがルナに勝ちを譲ってくれたから俺もおまえに華をもたせたの判らなかった?」

 ロッソが剣を引き抜くとアルバレスはどぉっと後ろに倒れた。
暗い空に星がまたたいていた痛みも感じない紅い星が見えた
「悪魔め」
何も感じなくなった。

「おまえの評判を聞いて、立ち合いたがっていたんだ」
 ピノが言った。
「そこをハドリアヌスに利用されたな」
「帰って、いっぱいやって寝ましょう疲れたわ」
イシュタルが言った。

 終戦処理2日目、ロッソはマサカドの館に居た。 陣は払っている。
クロイツェラーの使命は異教徒と異端を、この国から排除することでスロンへ派遣をした皇帝の意図は、言外にスファラディと、それを擁護するマサカドの排除が主だった。
 ゆえに、その土地の領主であるマサカドと手を組まず近辺に陣を置かず、国の入り口に布陣したのだ。

 そこへ、北スロンとタウゼントの領主が駆けつけマサカドを討ち、スファラディをカーリヤから追いその資産を全部取り上げようと言う絵図だった。
その意を汲んだセイワーが異端申し立てをした。

 ロッソが皇帝の意の通り動くようにヘロダイが目付けとして送り込まれたが皇帝ハドリアヌスの思惑は通らず意図と全く反対の結果を生んだ。

「スファラディのネットワークは凄いんだな、これならいずれ財力の他に武力も着けて来るんじゃないの」
 ロッソが資料を見ながら言う。
「各国にスファラディが居て情報の交換も活発だからな」
 マサカドが執務用に提供してくれた2階の部屋。 窓から赤く染まった木が見える。 青い空には渡りをしてきた水鳥

「一所懸命働くし、子弟に教育を施すために贅沢を我慢するし、ゴジャッペーに比べて必死に生きている感じがする」
「国がない分、必死で家を作って、必死で生きているか」

「差別を跳ね返して、懸命な分、目が綺麗だ」
「だけど余所者だから、いじめちゃおうと」

「あぁ、ここいらは、そういう気質があるな、恥ずかしいが」
「そういう気質は神皇帝国全体のものさ、犬みたいに上下に煩い、他を見下す、上には尾を振る。 クロイツェラーなんてのは、その最たるものじゃないか」
「肌が浅黒い、言葉が異なる、信じるものが異なる、それを迫害したら誰とも仲良くなれないだろう」
「俺とおまえだって、赤毛と黒髪だ、でも仲良いもんな」
「肌の色と神が同じだからだろう」
「スファラディも神は同じだろう」
「いや、彼らの神は」
「名前が違うってんだろ、それは、拝む角度が違うだけだ」
「ロッソ・・・」
「あら、怒った?」
「いや、ここ数日で目が覚めた気がする、聖典にも神は一つだとあるし、それ以外がないのではなく、全てをつかさどるのであれば、他の名前の神は土地によって呼び名が違っているだけで同じものかも知れないな」

「それをさ、呼び名が違うとか拝み方が違うというので弓矢と剣でいじめちゃうんだもんな、最初のクロイツェラーなんて、こっちは気負って行ったけれど南の異教徒たちは蛮族が暴れこんだとしか思わなかったらしいぜ」
「神皇庁には聖戦でも、異教徒から見たら蛮族か」

「白い蛮族な」
「私たちが浅黒い蛮族と思っていた異教徒も私たちと同じ人なんだな」

「スファラディもそうであるように、彼等のほうが余程、教養が高い。
カーリヤ見てきたよ」
「視察に行ったのか?いつの間に?」

「供は面倒だから、てくてく歩いていってきた」
「どうだった?」

「ちまちましていて、貧乏くさいな」
「え?」

「ゴジャッペーのウンターシュタットやイーバーシュタットの家並みの半分も広さがない、建て込んでいる」

 カップから暖かいお茶を飲み一息入れて続ける。
「というのは、俺やおまえみたいに親から家を貰っているぼんぼんの感想だと思う。あの人たちは、追われて流れてあそこに着いて何も無いところに家を造り必死に働いて生活を営み、子を生して育てて・・・なぁ、マサカド」
「なんだ?」

「この赤毛が目立つから、礼を言われた」
「だれに?」

「掃除をしているおばあちゃんにさ」
「掃除?」

「カウクー沼の中島の疎開から戻って、どの家も掃除をしていて毛布を家の前で叩いていたおばあちゃんが居た、赤毛に気づくと、手をこうやってな」
 ロッソが手を振るまねをする。

「よたよた駆け寄ってきて私はここに居られるんですね、着の身着のまま追い出されなくて済みますね、ありがとうございますって・・泣くんだよ」
 ロッソの青い目がちょっと赤くなった。

「そうか、で?それで済まなかったろう」
「お察しの通り、もみくちゃ、家々から人が飛び出してきて、ジューダが呼ばれて停めに来てくれるまで、ぐちゃぐちゃにされた。 おかげで、身体は痣だらけ、戦よりしんどい」

「あははは」
 一瞬の間
「一所懸命な奴が笑っていられるのが良いな」
「そうだな、俺もそう思う」
 2人がしみじみ言う。

「俺たちもスファラディも異教徒も一所懸命なら拝み方が違っても、言葉が違っても良いじゃないか」
「そうだな」
「生活を営むことが拝むことなんじゃないか俺はカーリヤへ行ってそう思った。 全てを創られた神ならば自らを拝めと強制はしないだろう、生きよ、歌え、踊れ、喰らえ愛し合えと言ってくださっている気がする、遊べ PlayはPrayさ」
「ロッソらしいな、まんじゃーれ、かんたーれ、あもーれか?」

「貪る気を捨てれば、それで十分だろう」
「そうだな」

「貪って、人のものを欲しがり、人を虐げて、飾りようの無い醜い身と心を飾り、怠り、でくでく太り、己が醜さと愚かさに気づかぬ者」
ロッソは歯を食いしばった、顎骨が浮かび上がる。
「喧嘩を売るのか?そいつに」

「もう、売っちゃったでしょう、今回の戦で」
「すまんな、俺の国のために」

「違うよ、俺のためさ、見過ごしたら俺は自由で居られない生まれてきたのは自由に生きて、笑うためだ、ルナを護るためだ、虐げられてしかめっつらをしているなら生きている甲斐も無い、俺の3万人の家族も、そう思ってくれるだろう」
「負けたら、死よりも辛い目に合わされるぞ、目の前で愛するものを奪われたり、刻まれたり」

「街道に一族郎党、子供にいたるまで磔で見せしめ・・・」
「俺も、今回はそれを覚悟していた」

「あの可愛い姫をそんな目に合わせられないじゃないかピザは排除する」
「気になっていたんだが、そのピザってなんだ?」

「シヴァ地方でヘロダイみたいに乗馬もろくにできない体積なのをピザというのだ、体重があっても機敏に動ければ、そう言わない」
「なるほど、ハドリアヌスも貪りすぎてピザになったらしいな」

「ルナと結婚する前に挨拶で都へ行ったときは、まだ、そんなに膨らんでいなかったが今はヘロダイとどっこいだそうな」
「喧嘩の支度は?」

「んふふふ、仕上げをごろうじろ」
「戦で使っていた新兵器か?」

「飛び道具は卑怯だとクレームがありそうだが、あれなら、味方の損失が少ないし死傷者の7割は弓矢だからな」
「軍が攻め寄せたら、俺も南下して助太刀に行く」

「頼りにしているが無理はするなよ、サダがカンムーを継げばそれなりの戦力だろうし、ウィステリアフィールドはほとんど無傷だ、その背後をついて、こっちに来ないようにしてくれるだけでも助かるな」
「わかった」

 戦後、タウゼントの土豪たちはカンムー本家を見限りマサカドによしみを求めて来るものが多い。

 ゆえに、トーネ川を渡ったタウゼント北部もマサカドの勢力範囲にある。
「なにせ、喧嘩するなら、ちゃちゃっとやったほうが勝ち目もあるしな、
どこで落とすかは、その場で決めると」
「都のバサラ町でやったときみたいにか?」

「そそそ、結局、こないだの石打ちといい俺たちって国を持っても変わらないね」
「そうだな」
 2人は笑いあった。


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