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「あははは、痛快、痛快」
 ヒルダが手を叩いて喜ぶ。
「これ、ヒルダさま」
「だってぇ、ベル」
 その夜、遅くシヴァの城へ帰ったのに、ヒルダとベルが起きて待っていた。
「胸騒ぎがして、寝床に入る気がしなかったんですよ」
 ベルが甘いお茶を入れながら言う。
「ヒルダの描いてくれた魔方陣が完璧だったからさ」
「お役にたってよかったです」
 ヒルダは、まだ笑いが収まらない。
「教会の礼拝堂へ出るつもりが、雪原に出てびっくりしたろうね、やつら」
「そうね、竜が寒そうにしているのを始めてみたわ」
 ルナも楽しそうに言う。
「あははは、私も見たかったです」
「もう、出ないでしょうね、ロッソが種明かしをしてしまったから、少なくてもブラバス諸島では、竜の意味がないわ、私が斬れるくらいだから」
「ルナ、竜を斬ったの?」
 ヒルダが目を見はって驚いたように聞いた。
「えぇ、ロッソを信じたら斬れていたわ」
 ルナはあの時、左手に添えられた力を反芻するように右手で左の甲を包んだ。
「ハイネスが魔法を使えると言っていたのは、このことだったのですね」
「魔法は信じる力、そうよね、ロッソ」
 ルナが緑の瞳でロッソを見る。
「そうらしいね、実は、魔法だけじゃないのだけど、身体に関することは、やはり身体を鍛えないと信じ切れないところが出てくるから、信じるために鍛錬が必要なのさ」
「信じる力なのですね、じゃあ私は信じる力を鍛えます」
 ヒルダが言った。
「信じ続けること・・」
 ルナもつぶやく。
「あー」
 ヒルダが唐突に大きな声を出した。
「どうしたの?」
 ルナが問うた。
「私わかりました、ルナ」
「何がわかったの?」
「万物は信じる力のエナジーで創られている、教会も、巫女さまのマントラ、どこそこに繋ぐというイメージも、呪文も信じる力をブーストする為の道具なんですね」
「凄いわね、ヒルダ」
 ルナは心から頷いた。
「いえ、そんな道具なしに、竜を斬り倒した、ルナのほうがもっと凄いわ」
「あれはバルムンクだったから、ロッソの手を感じたわ」
 そして、もう一つと思ったがルナは言わなかった。
「明日からまた、剣術の稽古をしましょうね、ルナ、ここのところ書庫に、こもりっぱなしだったし、頭を使うと甘いものがおいしくて、太っちゃいました」
「へぇ、見せてご覧」
ロッソがにやりと言う。
「だめです、ハイネス、絞ってからお見せします」
「俺がもみまくって絞ってあげるから」
「はいはい、そういうお話は、寝所でなさいませね」
 ロッソはベルに叱られた。
「怒られたから寝ようっと、おやすみベル」
 ロッソに促され、ルナとヒルダは寝室へ。塔の1階、巨大な寝室のある部屋、ロッソはダイブして白いシーツの上にバウンドする。
 2人の妻はその左右にそっと横たわった。ロッソが仰向けになる、腕を広げて大の字に左側にルナ、右側にヒルダ、それぞれ腕枕をした。

「貴女たちの香りがすると、とても落ち着く」
 天井を見つめてロッソがぼそっと呟く。
「お疲れ様」
 ルナが夫の首に回した腕を引き、唇を突き出す、ロッソが顔を横に向けて、唇を合わせる。
 ヒルダがロッソの顎に手をやって、自分のほうを向かせる、キス。
「ルナ、ヒルダ」
「はい」
 妻たちがステレオで返事をした。
「ハドリアヌスの追い出しパーティをやろうと思う」
「どうやるの?」
 ルナは左手をロッソの心臓にあてる、とっくんとっくん、鼓動を感じる。
「名目は盗賊に襲われて、心が傷ついた皇帝陛下を、お慰めする会にして、大晦日の年越し聖夜祭も兼ねてさ」
 ヒルダの右手のひらが、髭の伸びはじめた頬を触っている。
「場所は神皇区のレジデンツ、お客様の宿泊はレジデンツとこの城」
「招待客は、いの一番にガリア王ね」
 ヒルダが言う。
「それから、ラテンとゲルマニア、カステリアの神皇帝国ご一同と、エイジアのイシュタルの父上も大晦日までには間に合うだろう」
 ロッソは黙っているルナを見つめる。ルナも見つめ返す。
「警護の兵の宿舎はクロイツェラーのときのが使えるわね」
 ヒルダはお客の数と部屋の数を頭のなかで計算しているのだろう。
「うん、大丈夫だと思うよ、それでね」
 ロッソはルナからヒルダに向き直った。
「なんですか?ハイネス」
「勅旨を書いてよ」
「私がですか?」
「ヒルダは字が綺麗だし、書庫に参考文献は有るだろう、明後日の朝には各国へ使者を出発させるから明日中」
「えぇ~~」
「書いてくれたら、ミハイルちゃんにサインさせるから、ヘイバイトスに蝋印も作らせなくちゃ、祭りにかこつけて、シヴァに留まっているから好都合」
「ハイネス・・」
「それが終わったら、ブラバス国教会を作るから、その叩き台も頼むね、年明け一ヶ月くらいで良いから」
「え“~~、私のような女に」
「女だから良いんだ、女の弱い肉体が、そんなに用心しないで暮らせる所にしたい、さっきダイニングで話していたようなことをベースに自由で優しい教義を造ろう2~3行で済むだろう」
「そうですね、真理というのは自由で単純なものだから」
「ロッソ・・・」
 ルナが首をひきつけくちづけをした、ヒルダも首をひっぱりくちづけを交わす、そして、仰向けでロッソはくちびるを突き出し、ちゅっと鳴らした。意識を向けると、マリアはいつでもやって来る。
「3人の妻たちへ、ありがとう」
 ロッソが2人を左右の腕で抱きしめた。ヒルダの手がルナの手を握った、ロッソごしにルナをみて、口が無音で。
「ありがとう」
と動いた。
「ガリア王におみやげで、ミハイルちゃんをお持ち帰りしてもらう・・・」
 呟くように言うと、ロッソは寝息を立てた、ルナも腕まくらで、すぅっと意識が落ちた。ヒルダは小さな手でロッソの服を握りしめて眠りに落ちる。

 次の日からシヴァ中大忙しだった、国をあげて諸侯を迎える準備、神皇区のレジデンツでイノシシ武者が皇帝を警護と見張り。ヒルダは書庫の書斎で勅旨をしたためた。
 カウントベリーのレジデンツとカテドラルが、何者かに攻撃されたため、皇帝が傷心になりシヴァへ遊びに来たところ盗賊に襲われたと諸侯をシヴァへ呼ぶ口実にした。
 祭りを皆で楽しみ心を慰めたいと結び、欄外に重要な相談があるから是非来て欲しいと、2ポイント小さな文字で入れた。
 皇帝としての願いであるとロッソの指示通り書きながらヒルダは笑った。何者かに攻撃されて?本当に悪い人なのだから、ハイネスは・・・。
 同じ文章を諸侯の数だけ書いた。午前中には書きあげ、ロッソがヘイバイトスの造った蝋印と一緒に神皇区のレジデンツへ持って行き、皇帝にサインと押印をさせた。
 午後の早い時間にはそれぞれの国へ早馬を出し、大陸へは西のダルヘンの港から船で運ぶ段取りだ
 明後日には全ての国へ勅旨が届き諸侯が大晦日2~3日まえには集結するだろう。ルナはベルといっしょに諸侯をもてなすための食事、食器、そして、部屋割りなどを召使たちに指示した。
 必要なものをパピルスに書き出し入荷したものをチェックしていく。
 

 次の日の夕方、スロンからマサカド一家がやって来た、供のものは数人のみで、マサカドと奥方、そして姫
 神皇区から戻ったロッソはうれしそうにマサカド一家を迎え、ルナと割り振った部屋へ案内した。
「わぁっ」
姫が歓声をあげる。マサカドに割り振った部屋には姫に渡す玩具を沢山用意してあった。
「ロッソさまぁ」
 人形を抱えて姫はロッソに駆け寄る、ロッソは姫を抱き上げた
「ありがとう・・・」
 目をキラキラさせながら姫が言う。
「それは、ルナだよ」
 ロッソが微笑んだ、姫はルナに手を伸ばす、ルナが姫を抱いた。
「ルナ姉さま、ありがとうございます、凄く嬉しい」
「夜はお祭りも寒いし、昼間は姫のお父様は偉い人たちとお話があるから、これで退屈しませんね」
「はい、しません」
 姫が小さな手でルナの頬にふれキスをした。
「あっいいなぁ」
 ロッソが言うと姫が身体を伸ばしキスをする。
「おじさま、髭が・・」
 ロッソがキスを返すと姫がかわいらしく顔をしかめた。

「一休みなさったら、お風呂は如何ですか?」
 ルナが奥方に言う
「今日は清掃後、誰も入っていませんから女性専用に致しますが」
「いえ、殿方を差し置いて」
「シヴァ家は女性優先なのですよ」
 ロッソが笑う
「そうさせていただいたら、良いじゃないか、姫も喜ぶだろう、ここの風呂は凄いぞ」
 マサカドも言う
「おまえも入っちゃえば良いじゃない」
「そうだな、そうしよう」
 マサカドは嬉しそうだった。
「じゃあ俺も・・いてててっ」
 いっしょに行きかけたロッソの耳をルナがつかんだ。
「貴方はあとで私と・・ねっ」
「はいっ」
 姫が笑った。

 皆がバスタイムを終えて、ロッソたちのプライベートダイニングで、軽いサパーを終えた。
 絨毯を敷いた中程度の部屋、暖炉が切ってあり、そこに燭台が集中して明るい、姫は暖炉の前のベンチで、ヒルダと並び、御伽噺を読んでもらっている。
 2組の夫婦はダイニングテーフルを挟み、デザートとコーヒーを楽しんでいた。
「本当に珍しい飲み物で、香りがステキですね」
 奥方がカップに鼻をいれて言う。
「お食事も珍しいものばかりで、とてもおいしかったですわ、沢山頂きすぎて、おでぶちゃんになりそうで心配・・」
「明日、ルナとヒルダが剣術の稽古をしますから、いっしょになさっては如何です?」
 ロッソが笑った。
「ルナさまは剣術の稽古をなさるのですか? ヒルダさまも?」
 奥方が目を丸くする。
「最近はベルも木剣を振っていますね」
 ロッソがスイーツを持ってきたベルを見る。
「女が剣術・・」
「腰を廻すから、身体に良いのです、ウエストも太くならないし、毎日汗をかくと、体調も良いです」
ルナが微笑んだ。
「ルナさまが、お美しいのは剣術の稽古の御蔭なのですね」
「ルナ殿は乗馬もなさるのだよ」
 マサカドが口を添えた。
「まぁ・・」
「お転婆に惚れました」
 ロッソが笑う。
「シヴァ王さま、お惚気を・・」
「こいつは、惚気てばかりだ」
 マサカドがロッソを指して言った。
「ぐふふふふ、いいだろう マサカドだって素直に惚気たいだろう」
「いや、男子たるもの、女房を他人にのろけるなぞ・・」
「どうしてですか?マサカドさまも奥方様を愛しておいででしょう」
 ルナが微笑みながら言った。
「それはそうだが、古来より、そのようなものであるし・・第一照れくさくて格好悪い」
「ロッソが皆様に臆面も無く惚気すぎていると伺って、恥ずかしいこともありますが、やっぱり本心は嬉しいですわ」
「そういうものですか・・」
 何故かマサカドが照れて居る。
「はい、愛されているのは、女だけに限らず殿方も、きっと子供もそうでしょう、表現していただいたら嬉しいですわ」
「なるほど、だが、いにしえより」
「マサカド、それ」
 ロッソがマサカドのセリフを止めた。
「え?」
「その、古よりこーだから、こうあらねばは止めよう」
「どういうことだ?」
「そりゃ、良いことで、今も必要なことなら、そのままにして置けばよいさ、だけど今の時代にそぐわないで古よりで続いてきた事が人を苦しめることがある」
「なるほど」
「たとえば、剣術でも乗馬でも女の人たちだって運動が必要さ、それが古よりで、女性が運動しないより、今風に運動することで美しくなったら?」
 ロッソは左眉をあげてマサカドの奥方を見た
「ステキですわ」
「運動のことだけじゃなくて千五百年以上古来に書かれた聖典を元に商売していた奴がいるじゃないか」
「それは、皇帝家のことを言っているのか?」
「そう、おまえの本家の本家な」
「1000年前に初代皇帝が聖典の解釈の堕落を嘆き・・」
「1000年前は皆に適合したのだろう、俺は正しいとか間違ってるとか判断するのは止めたから、こういう言い方をする」
「あぁ」
「1000年経って、初代の解釈をそのまま皆に押し付けて、それを元に右向け右、結局は初代の頃と同じくらい、その解釈もそぐわなくなったのに・・・それだけならまだしも自分たちに都合の良い違約を付け足してやりたい放題」
「たしかにな」
「それも、自分の責任でやらないで、なんでも神、神、神の御名に於いて、責任転嫁も甚だしい」
「人頭税、土地税 10分の1税・・初夜権・・あれは酷い」
「更にクロイツェラーを催して、異端、異教徒の弾圧、浄化と称して皆殺し火あぶり」
「先代とハドリアヌスは遣り過ぎだな」
「そうだろう、聖なる皇帝と言っても、初代がガタイがでかくて知恵が廻って運が良かったってことさ、あとは勝ってから、好きに伝説とシステムをこさえたんだ」
「私の本家のことだから、もろ手を上げて賛同は出来ないが、ロッソの言う事は的を射ていると思う」
 ロッソがベルにコーヒーのお替りを頼んだ、話の展開のマサカドの奥方はあまりのことに驚いている、ルナが優しく微笑みかけた。姫とヒルダは楽しそうに御伽噺で遊んでいる。 暖炉では薪が温かいオレンジの炎を上げている。
「ロッソ」
コーヒーが来てベルが下がり、マサカドが改まって切り出した。
「何を考えている?」
「ん?」
 ロッソはカップに口を付けた
「カウントベリーを破裂弾で襲ったのはおまえだろう」
「Canon・・大砲と言うんだオリエントに設計図がある、火薬で破裂弾を推進させる、まだ実用的じゃないな、狙ったところから、かなりずれたそうだ、玉に偏心が出来るから真っ直ぐ飛ばないのだろう、カタパルトのほうが使える」
「そんなことじゃなくて、おまえ、愚帝とは言え皇帝の権威を・・」
 マサカドの言葉に少し怒りが現れた。
「権威ってのは何のためにあるんだ?」
 ロッソが覚めた調子で言う。
「それは・・」
「古よりだろう、簡単に言うと、権威あるものを頂いていたほうが、自分たちが周りより高級そうに見えて、幸せをちょっとだけ感じるから、権威を守っているのさ」
「ロッソ・・」
「俺の分析は間違っているか?」
「いや、おそらく間違っていないが」
「受け入れがたいか?マサカド、おつむを柔らかくしろ、一緒に石打ちをやったときみたいに柔軟になれ、常識なんて捨てろ」
「常識・・」
「そんなものは、それを使ったときに幸せだと感じるなら使えばよいのだ、権威も同じだ、幸せのためにあるシステムなんだ、それが苦痛になるなら、変えればよいじゃないか」
「言っていることは判るのだが」
「言っているだけじゃないぞ、やってきたんだ」
「やってきた?」
「Canonをぶっ放して、ハドリアヌスとフォンを追い詰めてやった、奴等はじたばたして、禁じ手を使った」
「ドラグーンが出たそうだな、ルナ殿に聞いた」
「神皇庁も貧乏で、ドラグーンを作る薬が50人分しか残っていなかったみたいだな、しかも俺とルナであっさり破れる魔法、なんと呪文を唱えていたのは巫女さまさ、魔法のことすら、外部のものに敵わないじゃないか」
「そうなのか」
「そうなんだよ、魔法に関しては、あの巫女様が第一人者だろうね、ブラバスと大陸両方見渡して・・」
「なんと・・」
「だから、皇帝なんて要らないと思ったのだが・・」
 マサカドは黙ってロッソを見た。
「皇帝を排除しようと考え始めたときに、竜の緑の血を浴びて、自分が無くなった、俺はカノンに拉致された、その間にマリアを死なせた」
 淡々とした口調に、かえって苦渋がにじむ。ルナがロッソの左手に右手を乗せた、蒼い目がルナを見つめてくる。
「幸いブラバス諸島と大陸は、30kmのドルバ海峡で隔てられている」
 ロッソの目がきらきらしている
「ガリア王が皇帝を欲しいとさ」
「ロッソ・・」
「マサカド、聞いてくれ」
「聞こう」
「この、聖夜祭で皇帝は嫁の実家へ行く」
「あぁ」
「ブラバスは自由な国にする、ただしブラバスの諸侯は当面のそのままだ、カウントベリーにブラバス国教会を作って哲学から延長した生き方でも教えるさ、祟りだのばちだの神秘主義は排除する、そういうのは巫女さんたちに任せて置けばよい、身体で感じるもの、心で感じるもの、それを大切にしていけば、必ず神は共に在る、竜兵なんて馬鹿なものは出なくなる」
「皇帝と教会なしでどうやって治めるのだ?」
「諸侯会議をしよう」
「話し合いで決着しない場合は?」
「決着しようよ、皆で話し合って誰かが納得しなくても、我慢してもらう、武力を背景にした恫喝は無しだ」
「騎士の面目と言うものもある」
「それで、セイワーは死んだろうがさ、あれって幸せか?」
「ロッソ」
「幸せを国是にしよう、子供たちに、何が幸せか、言葉じゃなく、感じてもらうことで良い方へ創造主が導いてくださるように教えることで、俺たちも気づくように、土の時代犬の時代が終わり風の猫の時代になった」
ルナの手をロッソが握った、ルナはそっと握り返した。
「武力や暴力で、権力、神の威光なんてもので誰かを踏みにじったり踏みにじられるのは、もう嫌なんだ、だからハドリアヌスも殺さない、ガリアへ渡す、とりあえずブラバスから新しいことをする。上手く行って、大陸も追随してくれたら嬉しいし」
「ブラバスが豊かになれば、それを武力で狙うものも出てくる」
「相手が拳をあげる前に、拳を抑えるだけの力を持つことにする、一見矛盾だけど、暫くはそれしかないから、だから兵器を開発していた」
「なんと」
「シヴァにはオリエントの思想で力愛不二というのが伝わっている」
「それは?」
「相手に罪を犯させない力を持つことも愛だ、拳を振り上げられる前に拳を握って止める力、そして、愛と力は不可分である、力は決して暴力を指すのではない」
「愛する力で暴力を停められたらステキなのに」
 ルナがアルトでつぶやいた、マサカドの奥方も頷く。
「それでな、マサカド」
 ロッソはまっすぐマサカドを見た
「おぅ」
「ブラバスの初代王はおまえな」
 至極重要な事を、子供が鬼ごっこで鬼を決めるように言う。
「なんだと?諸侯会議で国を治めるのではないのか?」
「大陸との折衝など雑用係だよ、王とは名ばかりさ、しかたないだろう、皇帝の血筋を持って美丈夫なおまえが最適なのだから」
「こいつ、人をおだてるときは、なにか企んでいるのだから」
「次の春から、立ち上げるからな」
「有無を言わせぬつもりだな」
「国民のため、奥方のため、姫のため、騎士ならじたばたしないで、一肌脱げ」
「そう来たか・・」
 暖炉から姫がとことことやってきた、ルナのそばにきて、つぶらな瞳で見上げる、ルナは姫を抱き上げて膝に乗せる、姫がテーブルの上のお菓子に手を伸ばして、ほおばった。
「あとは動き出してから詳細を詰めよう、代が変わったときは、そのつど、話し合いなりで王を決めていけば良いだろう」
 ヒルダもテーブルに着く
「大晦日に一芝居打つからな」
「本当に、なんて事を考えるんだ・・・」
「みんなが笑っていられる国に住みたいのさ、子育ても、そういう国でしたい、マサカド、頼む」
ロッソが頭を下げた。部屋はあったかい空気に包まれていた。


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