のんべんだらりと遊んでいるものが上空に居た。 ダークグレーの竜だ
スロンで女遊びをした帰りだった。

いつもなら、強姦魔、変態と追い立てられて魔方陣の居空間に飛び込むのに、昨夜は珍しくナンパが上手く行き女との相性も良かったので嫌な思いをしなくて済んだ
「スロンの女は最高なのだ」
アキュラは上機嫌でシヴァまで空を飛んで帰ることにした。

地上では樹海に守られ、Geld山には鬼が居ると言う伝説が有り、誰も近寄らないために見つからないキャンプと砦を俯瞰で見つけた。 ヤギのように細く不気味な目がにやりと笑った。

翌日、アモン元帥幕下伝令兵がやってくる。 アモンに耳打ちをして頷かれると待たせていた男を中に入れた。
シヴァの神皇区に住んでいるという

身の丈2mほどの、がたいは良いが顔色の蒼い気味の悪い男、玉葱の腐った匂いがする。

アモンは顔をしかめたが気を取り直した。
「シヴァの金山を教えるというのは誠か?」
「本当なのだ」
 男の口の利き方に衛兵が顔色を変えた
「これ、大元帥の御前で有るぞ」
「誰の前でもヲレはこの喋り方なのだ」
「良い、どこにある、申せ」
「ただじゃ嫌なのだ」
「褒美は取らせるゆえ、とく、申せ」
「いくらくれる?」
「本当なら金30枚くれてやる」
「本当だな?」
「嘘は申さん」
 アキュラはテーブルの上に有った地図を指差した。
「なんと、Geld山か?」
「鬼が住むというので、誰も近寄らないと聞いておりますが」
参謀が口を挟む。
「樹海で外からは見えないところに砦が有るのだ」
「守備兵がいるのだな、では本当に」
「だから、嘘は言わないのだ」
「して、守備兵はどれほど?」
「疎開している連中と混ざっているから、わからないのだ」
「何?疎開とな」
「おまえたちが、皆殺しなんかするから避難しているのだ、気の毒に」
「衛兵」
アモンが声をかけると衛兵が4人アキュラを外へつまみ出そうとする
「なんだなんだ、褒美はどうしたのだ?」
「神皇区に住まうとはいえシヴァ国の仲間を売るような奴に、くれてやる金は無い」
アモンの拳骨が飛んできた鼻の奥がきんっと鳴る、目から星が鼻から血が出た。
ドラゴンになっていれば鼻血も出ないし不死身なのに、アキュラはカッとしたが、これで憎いロッソをまた苦しめられると思い必死に我慢した。

シヴァ、神皇区、旧教会の礼拝堂、カノンの教団のマントラを書いた
樫の一枚板。
ロッソが縛り付けられている、全裸で腕を上に上げられ相変わらず虚ろな目はステンドグラスからさす光を反射している。

全裸のカノンがかがみこみ、股間に口を使っている。 愛しい男の触覚、柔らかな手でやわやわと包み、舌先で愛し気に舐め、口に含み口蓋と舌で愛撫する。
石造りの高い天井に淫卑な音が響く、カノンが口を離すと唾液に濡れたペニスはファロスに変身せず力なくたらりと垂れ下がる。

カノンは溜息をつき、また気を取り直して口にする。
ちゅちゅっちゅぱっ
「あぁ、どうして大きくならないの」
口を離し、右手でしごきながら文句を言う
「一回でも交わってくだされば私はあなたのものなのに」
ロッソは縛られた木偶のままペニスに紅を引いた口が被さる、音がする。
せっせと頭が動く、口の中で舌がペニスを追い回す
「うっ」
カノンがゆっくりとペニスから口を離す、垂れ下がったペニスからたらりと白いもの、カノンが口の下に手をもってきて、口の中のものを吐き出す。

「こうして、気は遣って下さるのに交わる事かなわず」
悲しそうな顔をした。 魔方陣が膨らみ、ドラゴンが顕れる
「アモンめ、ヲレを馬鹿にしやがって、ロッソでもいたぶって、溜飲を下げるのだ」
マントラの板を見たアキュラはカノンとロッソを認め、一瞬固まり黙ってそのまま自室へ引き上げた。


夜間、シグムントとジョナが交代で夜襲を掛ける、ラッセル側は人的損害はもとより、踊るイノシシに怯え寝不足になる事が辛い。
シグムントもジョナもほとんど損害を出さずに戦果を挙げている、ロッソは居なくても、予め彼の打っていった手で、ほとんど凌げているし、2-3人が負傷したくらいで損害は無い。

ラッセル側の死傷者は500を越えていた、ルナにはラッセル王がいらだっているのが判る。
それに比べて後方のガリア王の軍は高見の見物を決め込んでいる。夜は神皇区へ出向き遊んでいるものも居ると知らせが入る。


その夜、ガリア王主催の晩餐会が神皇区のレジデンツで催された。 レジデンツの隣にはロッソが拉致されている教会がある。

「連日の激戦、ご苦労様にござります」
ガリア王が杯を掲げた、ラッセル王も嫌々それに応えるが、小競り合いとは言え連戦連敗で気勢が上がらない。 ガリア王は機嫌が良かった。
「いや、良き酒ですな、神皇区と言ってもシヴァの領内は良い葡萄と麦が出来るようです、地の酒と料理が美味く、勘定が安いと将兵も言っています」
「ロッソの知行が良いのでしょうな、いまいましい」
「お疲れでしたら、明日より我が軍が交代いたすが」
「せっかくのお心遣いでござるが小競り合いにて、シヴァの手の内も見えたところ明日より攻城塔を使い本格的に攻めますゆえ一両日中には落城させまする」
「これは頼もしい、では引き続き高見の見物をさせて頂こう」

 同じ頃、シヴァ城、大きなテーブルのある部屋、3人の妻たちと、シグムント、ジョナが話し合っている。

「ラッセル軍への物見が、攻城塔を5基確認しています、組みあがり、たっぷり水をかけているそうです」
「水?」
「火矢よけでしょう、てつはうの焼夷弾なら兵が焼けますから関係有りません」
「そう、いよいよ総攻撃をかけてくるわね、ガリア王はどうかしら?」
 ルナが地図上に並べられたコマを見ながらシグムントとやり取りしている。
 黄色が20個でラッセル王の軍その後ろの青が10個でガリア王の軍
城の中には赤のコマが7個
「今のところ高見の見物です、明日は手を出してこないでしょうカタパルト用の石も集めていないようです」
「そう、物見の衆には無理をしないように伝えてください」
シヴァ周辺の住民が軍の手伝いをしたり軍相手に商売をしながら、さまざまな情報を届けてくれる。イノシシの胴当てをつけた兵がやって来た
「どうした?」
 シグムントが言う。
「アモン元帥の軍が陣を引いています」
「こちらへ向かいそうか?」

「いえ、先遣隊は街道を北上、シヴァを横目に見てGeld山手前の追分でスロンへ行くのでは?」
「判りました、ありがとう、下がって宜しい」
 ルナがにっこりしながら言った、兵は握り拳の右腕を左肩につける
敬礼をして出て行った。

「Geld山が見つかったのでは?」
ルナが心配そうに言った
「ありえますね、もともと、それが目当ての戦ですから砦と疎開所は大丈夫だと思いますが」
シグムントが地図を見ながら答える。
「シグムント、なにかとても嫌な予感がします」
ルナが眉をひそめた
「砦には早馬、マサカド殿にハトを飛ばしておきます」
「お願いします」
「ルナさま、明日の総攻撃を凌げれば万一のときは私が兵の半数を連れて
援軍に行ってもよろしいですか?」
「アモンは猛将で戦上手と聞いています、いますぐ9割の兵を連れて、ジョナも行きなさい、ここは私たちだけで大丈夫、まだ、仕掛けの1割も見せていません城が守ってくれます」
「そうはいきません、総攻撃を凌ぐほうが先です」
「すぐに行って下さい」
「ルナさま、必ず一日で片をつけて救助に向かいますから、あちらはハリーポルテルが守っています、私たちが行くまで、守ってくれるでしょう」
ジョナとシグムントが部屋を出た。
「ロッソ、本当に何をしているの」
ルナがつぶやいた。

 シグムントの出した早馬は、平服で商人のいでたちで出発する
街道を迂回しGeld山への早道を行こうとしたが、すでに検問が張られていた

商人を装っていたが戦時中の夜の行動と馬が良すぎるのに目をつけられて
アモンの軍に捕えられた。

尋問は過酷を極めた、むち打ちから始まり磔にされ、手を釘で打たれ
斜め下から左右の腹に槍を刺され、錘をつける。 抜けてくると、また刺し直す

彼は痛みに10km向こうまで聞こえる悲鳴を上げた、だが最期まで口を割らず絶命した。

 その知らせはアモン軍団後衛に居たテンプル騎士団のピノの耳にも届いた

 ピノはそっと人を出し、それをシヴァへ知らせた。 翌朝、ラッセル王の総攻撃、敵の大型カタパルトの砲撃から始まる。

 錘式のやつで、スプーンに石を装填しスプーンの反対に着いた錘を振り 反動で飛ばしてくる、ぶんぶんと唸りをあげて30kg近い石が放物線、
高空まで上がり、急角度で落ちてくる、壁に飛んだものは、
その前に吊り下げられた大鎖のカーテンに当たり、鎖に絡まれて落下エネルギーを減殺される、じゃらじゃらと言う音と鎖同士のきんっと言う楽器のような音を立てて、とんっと当たるくらいで壁の外に落ちる。

 まともに当たれば、組み上げた石が崩れ城壁に穴が開く所だが
これの御蔭で被害は皆無だ。
 しかし、壁の内側に落下する距離に修正されると危ない。

 城壁に乗せられたシヴァのカタパルトが応射、次々に唸りをあげる
こちらは遥かに小型だが、推進に最新鋭のバネを使っているから射程が遥かに長く、照準が正確で速射が利く。

 側距ボードを使い照準を決めて次々に、焼夷弾の「てつはう」を撃ち出し、炎が上がったところに榴弾を2発ずつ撃ち込む、これで敵のカタパルトは、あっという間に沈黙した

 ヒースを下り土ぼこりを立てながら、鼓笛と共に弓兵が駆け足をしてくる
持っているのはロングボォだ。
 射程が長いし貫通力も強い、その周りを盾を持った歩兵が固めている
うねうねした丘を埋め尽くす。
 数千の弓兵が矢をつがえ初矢を放ってきた

 シヴァの城壁では皆が掩蔽板の下に入った、マリアは剣を抜いて飛んできた矢を払う。
 殺気を持って飛んできた矢は、感じるから、払うことが出来る。 払われた矢が、からからと指令所の床に落ちる

 下では厚く編んだ麦わらと板に矢が突き刺さる、かんかんと音がする、鉄板が張って有るから貫通はしない、板の下でヒルダが笑ってこちらを見た。

敵が矢を補充してくれているようなものだ。

マリアの周りに払った矢が3本、ロングボォは長いだけに払い易い

 敵兵が上を向いて、2の矢の射撃体勢に入る前に、城壁のマリアがきらきら光る剣を振った。 びんびんびんっ・・バネが戻る音、城壁の内側から鉄製の短い矢が次々に上がる

 ラッセル側から見ると黒い矢が黒雲のように見え、あっという間に落ちてくる、短いから払うことも、避ける暇もなく黒い短い鉄矢に射抜かれて転げまわる

 気の利いた歩兵が盾を差し出したが、木製では鉄の重い矢を止められず貫通し歩兵にも突き刺さる

 しかも通常の弓矢の射撃と違い番える間が無くインターバルが無い

 シャワーで水を撒くように矢は手前から、だんだん遠くへ落ちていく
遮蔽物として盾が役に立たない以上、彼らには身を守るすべが無く、まもなく全滅した。

「虐殺みたい、心が痛むわ」
 長い髪を後ろに束ねたマリアがつぶやく。鉄の甲冑に身を固めた
歩兵が十数人ずつグループになり大きな丸太を抱えて突進してくる
なんとか大門にぶつけて突き破ろうと、味方の死骸を乗り越え走ってくる

 弓兵も走ってきて通常の矢を放ってくるマリアはいとも簡単に、めがけてくる矢を払う我ながら見事、ロッソに見せたいわ。
ふと思った。

 マリアはタイミングを見計らって、また、剣を振った、今度はシヴァのロングボォの一斉射撃。

 長い矢は矢羽で風を切り裂きながら、ざぁっと降り注ぐ。 インターバルを入れながら、マリアの指揮で角度を変えて5度6度

 機械仕掛けの射撃のように空が真っ黒になるほどではないが鏃に重石の鉛が仕込んであり、威力はこちらのほうが上だ。 肩から入った矢が足の付け根まで縫う、脇から入ったものが反対のわき腹へ抜ける、

 金属の甲冑も全く役に立たない丸太を抱えた歩兵部隊も沈黙した。

 丘の向こうから化け物みたいなものが5つ、荷馬が各10頭で攻城塔をごろごろ引いてくる。

 丸太で組んだ塔に車をつけたもので、高さは城壁より2m高くなっている
それぞれの足元に弩(クロスボォ)の射手が付きすぐに矢を放てるように護衛している、歩兵も槍を抱えて付き従う。

 塔の最上部にはロングボォを持った弓兵が5人ずつ戦斧を持った兵が5人
これを城壁につけられたら城壁の中は弓で狙い放題だし、中に入られて暴れられたら、どさくさで大門を開けられる可能性もある。

 マリアは城壁の一番高い指令所で距離を測っていた下の城壁ではルナも手伝ってカタパルトに弾を装填している。

 最初は焼夷弾、白く光る剣を振る、発射!!

絶妙な角度で砲弾がつぎつぎに飛ぶ。 5台並んでくる外側の2つに砲火が集中する、いくら水を含ませてあっても火矢には有効だが、弾丸のなかに油脂が入っている焼夷弾には全く意味が無い。

 てつはうが割れて炎があがる、兵に油脂が降りかかり甲冑の上から身体が燃え上がる。
 人が松明のようにごうごうと音を立てる髪の焼ける臭いが指令所まで漂う
身体から煙が上がり暴れて落ちる。
 馬が棹立ちになり右往左往して攻城塔は、どぉと倒れる向かって右側のは内側に左側のは外側に、右側の2番目の攻城塔を引いている馬が暴れて大きくぶれた。

 よろよろとバランスを崩し3本の足が浮き車輪が空回りする、残りの1つでゆらゆら揺れる。 攻城塔の上の弓兵が番えていた矢が空を向いた、引き絞った所で塔がバウンドして矢が放たれてしまった。

 それは放物線を描いて宙を飛び、ゆっくりと下降する、不作為に飛んだ矢は殺気も持たず、ほとんど垂直に落下してきた。

 マリアは次の射撃の装填を確認するため、身体をひねって右下のカタパルトをちらっと覗いた、身体が下を向いた、その刹那左肩甲骨に矢が落ちてきた、突き刺さる巨大な手に叩きつけられたように、ばたりと倒れる。

「マリア!!」
 ヒルダが測距ボードを投げ出して駆け寄る、ルナも下の階から指令所へ駆け上がってくる、ヒルダは自分より大きなマリアを抱き上げようとしている。

 ルナはマリアの剣を拾い上げ、距離の検討とタイミングを見て振り下ろす
白い光が走りカタパルトが唸る。

 ルナはアクセントをつけながら剣を2回振る。 カタパルトから一斉射撃
焼夷弾が飛び榴弾が飛ぶ、土煙、血飛沫、ちぎれ飛ぶ人の部品、火薬の匂い

 止めにショットボォの一斉射撃攻城塔は全て倒れ、動いている敵兵は居ない。

 ルナは剣をふり、マリアの背中から突き出している矢を切る、
胸から鏃が飛び出している。 ヒルダと2人でそっと横たえる。

「馬鹿ね、だから指令所は私に任せなさいと」
「ルナ・・・嫌よこんなに楽しいところ、人に譲れるものですか疲れたから代わってあげるけど」
 マリアが力なく笑う

初冬の太陽が真上から照らしていた。 咳き込んだ、上から照らす光に鮮やかな赤。 空が蒼い、白い雲が流れて行く

「暗いの、暗くなってきたわ、心臓が痛い、動いていないわね私の心臓」
ルナもヒルダも無言だった、マリアの声からだんだん力が無くなっていく。

胸から飛び出た鏃を左手に挟む
「ロッソが綺麗だとキスしてくれた胸なのに」

 はぁはぁと息をしながら、懸命にしゃべっている。手甲をした手を伸ばす、ルナとヒルダがそれを握る。
「見えなくなってきた、ヒルダ楽しかったわ、ルナありがとうロッソにも伝えてね、ありがとうって・・・あぁ落ちる」
最期の言葉はほとんど呟きになり、大きく息を吐くと、マリアはマリアでは無くなった。

ヒルダはマリアの頬をそっと撫でていた。 ルナは歯を食いしばり、黙っている。
ヒースから吹いてきた風がルナの甲冑に触れる。 ルナの口の中で歯がぎりぎりと音を立てていた。


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