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 クロイツェラーで、領主が出陣するのだから、支度が大変かと思ったら、
城の中の生活は普段どおりで、ヒルダは気が抜けた。

 神皇領に居たとき、騎士団が出陣と言うと、豪商のヒルダの家は騎士に支度をしてやったり、餞別をくれてやったり壮行会を開いたり、あれやこれやと大忙しだった。

そういえば、ロッソが出陣するのはヒルダとマリアが来てから初めてだ。
思い立ったら行動の早いロッソが今回は妙に落ち着いている。

ロッソの元に客が頻繁に訪ねてくるようになった吟遊詩人、語り部、商人、僧、武者修行の騎士等さまざまで全てが旧知ではないようだが必ず花を服のどこかにつけていたロッソは執務室に通し、誰も介さず暫く話し込む。

いつもと違うのは、夜の食事が終わると3人の妻のうち誰かがロッソと同衾する、いつもの交わりを楽しむ激しいものではなくて穏やかに優しく愛してくれている。
今夜はヒルダが枕を共にする筈だ。

ロッソの城には寝室などに使っている塔と対をなす塔がある。
そこは、地下室も掘られ、一番下がワインセラーと氷室、2階から上が資料や図書を収める部屋になっている。

ロッソの代になってから、図書が増えたらしく重量の用心のために梁や柱を追加したから本を見ながら歩いたりすると、蹴躓いたり柱に頭をぶつけたりするが通い詰めたヒルダは慣れて野を行くように歩けるようになった。

ヒルダもマリアも図書塔の鍵を貰っており、いつでも入ってよいことになっていた。

図書室の5階
ヒルダは書架を見て歩く

読みたい話がここいらにあったはずだ、形の良い顎が上向き栗色の髪が上下する、ルナやマリアみたいに背が高いのは羨ましい。

2人みたいに上背があれば本を探すのも簡単だし、ロッソと並んで立ってもそれなりに見栄えが良いのに、並ぶと、首二つ違う自分が情けない。

上を見すぎて、首が疲れた頃、ヒルダの緑色の瞳にルーン文字の背表紙が映る。
苦労して重たい踏み台を持って来て、書架から下ろした。
下りてから窓際に行き、持ってきた布で埃を払う。

図書室の北側の窓には本を読めるように大きなテーブルと
椅子が用意されている。

お気に入りのハーブティをテーブルに置くと羊皮紙に記された、いにしえの物語を開いた。

曰く

全智の女神エルダの娘達、ノルン(運命の三姉妹)は運命の縄を
樅の木に架け縄を綯いながら時を歌う。

第一の女神は歌う
いにしえ、宇宙樹のトネリコが茂り、
根元には知恵の泉が湧いていた。

私はそこで運命の縄を綯い時を見つめていた。

或る日大神が現れ、その片目と引き換えに知恵の水を飲み、
宇宙樹の枝でトネリコの槍を作った。

長い年月、トネリコはその傷から枯れ、私は縄を綯うことが出来なくなった。

ゆえに今は樅ノ木で綯っている、さぁ、妹、貴女の番よ。

第二の女神が歌う 大神は契約のルーン文字をトネリコの槍に刻んだ、
それを掲げ世界を統べ、人の運命を予言した。
しかし、槍は恐れを知らぬ若者に切り落とされ運命の契約は消滅した。

大神はやけになり、宇宙樹を切り倒したので、知恵の泉も枯れた、
地上に知恵を増やす泉は無い。
さぁ、妹、貴女の番よ。

「つまり、この若者が決められた運命の契約が記された、トネリコの槍を斬ってしまったから、決められた運命が無くなったのね、このときから運命は神から人の手に委ねられたと書いてあるのかしら」

第三の女神が歌った。
神の宮殿ヴァルハラには、薪が堆く積まれている、すなわち、これ宇宙樹の成れの果て、これが燃え上がり栄光の広間を焼き尽くすとき、神々は黄昏を迎え、闇に沈んでいく。

この神話に出てくるジークフリートとブリュンヒルドの恋の話が大好きだった。

我が背も本名はジークフリート、
勝利を喜ぶもの、そして光の子の名を持つ。

このまま、私たちはカルテットで暮らすことが出来るのかしら、
私はいつか、ルナを嫉み憎まないかしら。

ヒルダは開け放たれた窓から青い空を見ている.
澄んだ青、ロッソの瞳の色。
伝説のジークフリートはブリュンヒルドを炎と茨の城から助け出し契り、愛を誓う。
「でも浮気者」
彼はブルグントの姫クリエムヒルトに忘れ薬を飲まされ、こともあろうに妻であるブリュンヒルドを忘れ、クリエムヒルドと結婚してしまう。

「男って、いつの世もしかたない・・」
ヒルダはため息をついた。

唐突に、その仕方ないのが入ってきた。
しかも5階の窓から窓の梁から腕の力だけで、テーブルを飛び越えて床に立つ
「きゃっ・・・」
ヒルダは驚いて声も出ない、目を見開いてロッソを見つめた。

「こんにちは、ヒルダ」
「こんにちわって・・どこから入ってくるのです?」
「階段を上がるの面倒なんだもん」
「壁をよじ登るほうが大変では?」
「うーん、簡単」
「そうなんですか?」
「うん」
「御用はなんですか?ゆあハイネス」
「夜這い」
「昼間からですか」
「うん、貴女の御臀が恋しくて、ちょっと後ろからって・・違う」
ロッソはパピルスのメモを渡した。
「これを調べておいて、今夜ベッドで聞くから」
「わかりました」
ヒルダはメモを見て、その資料が図書塔のどこにあるか頭の中で検索しだした。

塔の1階にある、小さな風呂と呼んでいる主人専用の風呂小さいと言っても10人で一度に入れるくらいの大きさはある。


3人の妻たちが、大理石の湯船で湯に浸り座っている。

時折、天井から結露した水滴が落ちる。他愛も無い話に花が咲きのぼせてしまうこともしばしばだ。
「さて、出ます」

ルナが立ち上がると、マリアも続いたのでヒルダも出ることにした。
座っているとそんなに感じないけれど、やはりルナとマリアは背が高い。

ルナのほうが,やや腰が張っているものの2人とも双子のように似た体型をしている。

しなやかな背中、細い肩と細い二の腕太さを実際に測ればヒルダと同じくらいなのだろうが、2人競ってウェイトトレーニングもこなすから筋肉が前面と後ろに集中しているので細く見える。

脚も同じくだ。
ヒップはきゅっとあがり、ウエストも絞ったように細い。
私が勝っているのは胸と御尻の大きさだけだな・・・
ヒルダはちょっと悲しい。

夕食を終えてもロッソは戻らなかった。
3人でデザートをしながらお喋りも楽しいし、どうしようかと考えていると
ルナとマリアがにっこり微笑んで、いってらっしゃいと言うから行くことにした。

一度2階の自分の部屋へ行きロッソに言われた調べ物を持った。
階段を上がり3階。

寝室へ行く前に隣の化粧部屋に入る化粧部屋は3人分あり
ここはヒルダ専用の部屋だ。

テーブルに資料を置いて鏡の前に座る。
白い衣を着けた若い女が映る、やや幼い感じだが目鼻立ちもすっきりして美人だ。

象牙の櫛で髪を梳きながら自分を見つめる、正当な評価だと思う。

ただ、比較サンプル2名が並外れて美しいのだ。
ルナは元々、上品さと威厳を備えた美しさを持ち、優しいし、気さくで
誰からも好かれている。

マリアはテンプル騎士の娘で冷たいくらいの上品さと威厳を備えていた
亡き父の教えからか硬い印象一辺倒だったのに此処へ来て、ロッソに抱かれるようになってから物腰も柔らかくなり色気が加わり、それが彼女にしっとりとした女らしさを加味して非常に魅力的にしている。

ヒルダは薄化粧をし紅を引いた。
うん、悪くないと思う

ロッソに説明するのに目を通そうと資料を取りに立つ背の低い女が鏡に映る

自分は平民の子だな・・
貴族と平民では体格からして違う
もつ雰囲気も全く異なる

ふぅっとため息をついたときにドアがノックされた。
開けると、ロッソが立っている湯上りの匂いをさせて
ヒルダと同じ薄衣を纏って笑っている。

「ヒルデガルドさま、御支度はいかが?」
「yes ゆあ ハイネス」
そこで抱きしめられ、キスをされる爪先立ちになり、腕を高く上げないと首に巻けない、そこから、うんと自分の首を伸ばすと唇が届く。

情熱的に唇をこすり合わせ、舌で遊び、その間背中を愛しげに撫でられる
あぁ、これに弱いんだな私。

資料を取ってくると、抱き上げられ、お姫様抱っこで寝室へ運ばれる。

大き目のサイドテーブルにヒルダが好きなハーブティが2つ

「ごめんな、お茶で色気が無くて、先にレクチャーしてくれる?」
「もちろん」
ロッソはヒルダの右横に座る、

メモにあった質問をロッソがしてヒルダは資料を取り出しながら答える

遠征先のスロンの事と、そこに住み、神皇庁から異端の嫌疑を、かけられている人たちのこと、ロッソの仮説に基づいて古書を調べロッソに情報を広げた。

「ヒルダはどう思う?」
今回調べた資料以外の知識を含め、自分の意見を述べた。

「そうだよね、俺もそう思うんだ、それならば、金で片付く問題かなと思うのね見せしめに処刑もしなくて済むのだけど・・・」
ロッソは無駄な血を嫌う。
「あとは、エデンに住む皇帝とヘロダイ提督、平たく言えば、どっちも要は金なんだけど、ヘロダイはわけわかめだからな」
「ヘロダイ提督は遠征に参加されるのですか?」
「顧問として来るらしいな、ここへの宿泊を言ってきたから断ってやった」
「どうして?」
「女好きなんだもん、遠征に付いてくるのも、スロンが美人の産地だなんて
言われているからだしエデンやカウントベリーへ行く度にしつこい位、君たちの事を聞いてくる、情報収集もしてるみたいでさ3人のうちだれか夜伽に貸せと言うかもしれない、そんなことになったら」
ロッソは提督を斬るだろう、戦争を厭わず。
ヒルダはくすくす笑った。
「なに?」
「ハイネスも女好きなのに」
「好きだよ、大好き、女は可愛い、綺麗だ女の子と一つになるのが好き、けれど女を射精の道具にする奴は嫌い」
「うふふふ、なんか可愛い、子供みたいに一所懸命」
「それって褒めてる?」
「もちろん」
「では、お礼にヒルデガルドさまを歓喜の園へお連れ致そう」
「きゃっ」
軽々とお姫様抱っこに抱えあげられた。


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