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5月の御所グラウンド

 長男(太朗としておく)が長い大学生活を終え、社会人となった。住む場所も仙台から京都に変わった。初めは、名古屋に行くという話だったが、師事する先生の都合で京都になる。
 母としては、正月以来会っていない太朗に会いたくて、5月に夫と二人、京都に行くことにした。なんと、修学旅行以来なのだった。
 東北新幹線で東京へ。そこから東海道新幹線で京都まで行く。とにかく、元気でいる顔を見て、住んでいるところを見て、安心したかった。
 太朗が京都に住み始めると、やたら、京都という文字が目に付く。直木賞受賞の本が「八月の御所グラウンド (万城目学)」だった。夫が「読む!」と言った。そして、ゴールデンウィークを利用して、本当に読んでしまった。私は、読まないうちに出発の日がやってきた。
 東京までの新幹線は、やたら寒くて震えた。断じて武者震いではない。東京駅のいつもながらの混雑にげっそり。めげていられない初の東海道新幹線。富士山が見えた。かつけぇ〜。

ホンモノ、かっけぇ〜

 修学旅行は、寝台列車で京都に行った。一晩眠って京都だった。今は、朝、弘前を出て、昼には京都。素晴らしき交通網! 
 まずはホテルへ。ホッとした私は、トイレにスマホを忘れる。気がつくのはもっとあと。
 久しぶりの太朗は、元気である。うれし。そして、太朗が世話になっているK大学見学に。夫が学食マニアだから、昼食もその学食で。
 お腹も落ち着いたところで、実は・・と、携帯忘れた話をし、ホテルに電話をかけてもらう。
 ありました!!
 ああ〜、生きた心地がしなかった。食べ物の味もわかんないくらい落ち込んでいた。汁なし担々麺の麺がどこかにひっかかるような気がしていた。  
「母さん、不機嫌でどうしたのかと思った。」
「早速ホンズ落としたな。」
ホンズ落とすとは、津軽弁だと思うが、飲みすぎて失敗した時などに使う。ホンズナシって聞いたことあるでしょ?まあ、馬鹿ってこと。ホンズとは、理性とか頭脳とかそういった事なのだろう。京都に着いて浮かれて・・・。
 やっと京都に着いた途端の失敗。一人旅とかできない人になってるのかも。
 ま、落ち込んでるヒマはない!いざ行かん!!
 百万遍交差点を渡り、大学から太朗のアパートまでの道を行く。スーパーはここで買い物、ここのスーパーは、良い肉がある、入ってみたいレストラン、などなど説明を受けながらのアパートまでの道もなかなか良い通りであった。京都で暮らしている感が伝わってきた。
 太朗の城を訪問し、安心したところで、いよいよ京都の街歩きスタート!!
 まずは、銀閣寺を目指す。そう、わたしの頭は高校時代に戻り、雨の中歩いた銀閣寺に呼ばれていたのだ。でもあの頃は、なぜお寺ばっかり見るんだろうと思っていたっけ。渡されたお寺のガイドブックをひとつも読まなかった。今こそ読みたいと思う。おそっ!
 記憶の中の京都は、寺と仏像。たくさんの仏像を見て、この仏像が好き♥なんて自分のベスト仏像を決めていたような気がする。今やそれを確かめる手立てはない。まあ、銀閣寺は太朗の家から近くにあるから訪ねてみようと思ったのだった。
 琵琶湖疏水と看板のある水路の道を行く。これが哲学の道か。緑の木々が揺れ、琵琶湖からの水が横を流れる道。所々に素敵なカフェ。
「いつも、カフェは人がいっぱいなんだよ、でも今日は、すいているなぁ」
それは、平日だからだろうか。カフェは魅力的だが、興奮しているのかどんどん歩く我ら。水路をスケッチする外国観光客。わかる、絵に描きたい風景だよなぁ。そして、それをやる人々。いいなぁ~。途中で銀閣寺の方へ歩を進める。

 行く道々に小洒落たお店やら何やらが並んでいる。そして、生け垣を通り、門をくぐると、記憶の通りの建物が現れた。高校生の頃は、その渋い建物の有り様になぜこれが銀?と思った。けれど見たはずの金閣寺の事は覚えていなくて、銀閣寺の記憶はある。不思議。プリン型の砂の山としま模様のついた平面部分があり、調べると向月台(こうげつだい)と銀沙灘(ぎんしやんだん)と呼ばれているもの。京都の白い砂で作られ、月の光を照り返す効果があるとか、お月見を砂の山の上でしたとか諸説ある。月の光で建物や庭を美しく見せるなんて発想がすごい。それにしても大胆なデザイン、そして相変わらず渋い。
 

冷たいもので体を冷やす

 銀閣寺の庭を巡ったあとは、可愛い店で冷たいものを頂く。また、哲学の道に戻り、歩く。南禅寺へ行く道を途中で折れて帰途に向かう。
 夕暮れが迫っていた。その夕暮れの中、平安神宮がどどーんとある。吸い寄せられるように近くまで行く。ああ、昔のまま!当たり前なことに感動する。テレビの「光る君へ」の時代の始まり。順序は逆になったが、大鳥居を抜けて京セラ美術館近くを通り過ぎた。
 地下鉄に乗り、東山だの烏丸だの聞いたことのある地名を乗り継いで駅近くのホテルまで帰ってきた。地下鉄には、外国人観光客があまり乗っていないようだった。どこに行ってもいる外国人観光客の姿が見えない事が不思議だった。
 夕食は、クラフトビールの店で。太朗の大学卒業と京都での出発を祝って乾杯だ。
 あれ?京都御所に行っていなかった。それは明日の宿題にしておく。

ビール柚子無碍

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