自由気ままな家族が交通事故被害者になった-1


時間を巻き戻して、事故を知る第一報を受けた時についてお話ししたいと思います。

その日は休日で、美術館の夜間見学を目指して移動をしていました。鞄から取り出したチケットを口に咥えながら混雑を考えて用意したオペラグラスを取り出そうとしてたらバイブするスマホ。画面に表示される名前は「母」。

「父が交通事故にあって、危ないかもしれない」

意外と落ち着いた口調だったのは、「危ないかもしれない」という表現を既に複数回、父に対して宣告されたせいなのかもしれません。一応、「私もすぐ向かった方が良いのか」を確認し、現在地を説明し病院を確認しタクシーに飛び乗りました。美術館に入る前で良かった。入った後なら、電話出てないですし。

ちなみにですが、大丈夫って言われれば観てから向かいました。この辺りで「家族のズレ」を察して頂けるかと思います。使えなかったチケットは後日、同僚に譲りました。

滞在時間5分でターミナル駅に向かい、電車に飛び乗った割とスムーズに病院までたどり着きました。途中、妹とLINEをしながら要望を確認しコンビニで買ったペットボトルのお茶も抱えて。この時の私は急いで移動したのと電車の乗り継ぎがスムーズ過ぎてトイレに行くタイミングを失っており、ただただトイレに行きたくて仕方がなかった。

薄情だろうがなんだろうが、いい大人が漏らしたくないし何年かに一度の定例行事、まるでオリンピックかのように「父が危ない。すぐ病院」と言われれば嫌でも慣れます。そして「どうせまた大丈夫なのだ」と嫌な余裕もできるのです。今回もその通り、大丈夫だったのです。

病院に着くと、母と妹。状況を母が話してくれますが、要領を得ないので妹が遮ってまとめて話してくれました。

「近所の交差点で信号の横断中におじいちゃんが運転する車にはねられた。脳に出血があって治療中?らしくまだ会えてない」

そうこうしていると、漸くICUへの入室許可が出て、対面です。この時もまだ気軽です。消毒液で手が乾燥して嫌だな、とか、この病院のマスクムズムズするとか。通されたICUはほとんど人が居なくて、入室した真正面に父が居ました。管まみれで眠る姿を見て、肝が冷えつつも見慣れた感もあって、思ったより心がざわつきませんでした。慣れって怖いですね。

管まみれで投薬によって寝てて、頭に敷かれた緑色の吸水シートが赤くなってて。それでも死なないであろう、という自信がありました。死ぬなら一番最初の「危ないかもしれない」で死んでいました。今、少しずつ回復している旨を母から聞くと「ほら死ななかったじゃないか」と勝手に、一人で胸を張っています。

面会してて、意識がない父に母が声をかけると、血圧が跳ね上がりました。これは私しか見てなかったのですが、思わず笑ってしまいました。母にその旨を話すと「怒られると思ってるんでしょ」と笑いながら父に話しかけていました。

先生から別室に入るよう言われ状況の説明を受けます。

「脳の出血が納まっていませんが、現状、緊急手術を受ける必要ありません。ただ、数時間おき程度にCTを行い、その都度状況判断します。今日はあと1時間後くらいにCTを行います」

他にも今日が1つめの山場だとか拘束具の使用についてなど色々、説明を受けました。ただ言えるのは、待つしかすることない。1時間後くらいのCTの結果を訊いて帰ることにします。ただ、妹は翌日も仕事。先に帰ることにしました。

家族待合室で母はぐったりと横になりました。私は勤め先の上司たちに次の出勤日は休む旨を連絡しました。本当に慣れなんですよね、あぁ、この人はFBから送ると早く見てくれるな、この人はショートメールだな、とか。人とLINEでやり取りしてたんですけど、この間、私の方が冷静で相手の方が動揺してるんですね。

やり取りしつつ、父のスマホで仕事先とかの内容を確認していると、知る必要のない内容を知ってそれに動揺しました。分かってても知る必要がない事とかってありますしね。大体、想像つくと思いますが、その通りです。ちゃんと生きてますので、一応書き残さないであげましょう。娘の優しさです。

この件に関しては、もう血筋だと思いますし「家庭内の暗黙の了解」的な面もありますのでこれ以上は書かないかな?面白い事起きたら書くかもしれない。ただ、父のスマホを漁って、予約してた料理店に罪はないのでキャンセルの連絡だけしてあげました。

1時間後のCTも「まだ緊急手術をする必要がない。ただ、夜中に急変する可能性もありますので連絡は取れるようにしてください」ということになり、帰宅許可。すごすごと病院を後にしたのでした。

日付が変わる前には帰宅をし、軽くご飯を食べ、ゆっくりお風呂に浸かり、お布団で朝まで爆睡しました。

運良く急変もなく、朝を迎えたのでした。

17.11.14





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