俺は小宮果穂の同級生になりたい
あーあ!なりてえなあ!
同級生に!
小宮果穂の!
…前回の櫻木真乃とは訳が違う、流石に犯罪じみてる気がしないでもない主張だが、まあ落ち着いて聞いてほしい。
小宮果穂(こみや かほ)は、283プロダクションのアイドルユニット『放課後クライマックスガールズ』に所属し、そのセンターを務めるアイドルである。
目を惹くのはそのプロフィール。ユニット内はおろかシャニマス最年少の12歳。シャニマス唯一の小学生(6年生)。そして身長は163cm。
彼女の趣味は「日曜日朝の子供向け番組を見る事、グッズ集め」。特技は「好きな番組の決め台詞を数多く覚えている」こと。つまり俗に言うニチアサ勢であり、今は『ジャスティスV』というヒーロー戦隊もの(?)にお熱なようである。
誰しも子供のころは仮面ライダーやプリキュアなどを通過儀礼的に観るものだ(最近はそうでもないのかもしれないが)。しかし小学6年生女子で戦隊ものが好き、となるとプロフィール通り本当に趣味の領域だ。
そんな彼女、誰かを笑顔にするヒーローのような存在になるため、アイドルの道を突き進む。弱冠12歳の目標としては本当に、本当に立派である。
彼女をスカウトしたプロデューサーは、父親のような"大人"の立場として自らが社会に送り出してしまった純粋無垢なヒーロー少女を支える。そしてユニットの"お姉さん"たちが温かくそれを見守り、ともにアイドル道を突き進む。ここにドラマが生まれないわけがないではないか。
しかし、俺はそんな小宮果穂の同級生になりたいのである。
ときたま俺は、小宮果穂の同級生である小学6年生男子のことを想い、そして胸を熱くするのだ。
小宮さんの同級生である僕は今、とても悶々としている。
最初の印象はただ声と身長の大きい女の子だった。
はじめての朝の会で小宮さんは隣に座っていた。
そして、
「はじめまして!!!!小宮果穂です!!!!」
という廊下の端から端まで届くんじゃないかという大声量で元気いっぱいな自己紹介をした。それを隣で喰らったのだからひとたまりもなかった。
そして起立したときの身長の高さ。背の順で並んで前から2番目の僕からすると、ダントツで最後方の小宮さんを見上げたときは、ガリバーに立ち入られた国の人間の気持ちになる。
…別に小宮さんのことを地面に縛り付けたいとかそういう意味でガリバーを引き合いに出したのではない。
昼休みに教室で自由帳や本に向かっている僕とは違い、グラウンドに靴で線を引いてコートを作り、ドッジボールをしているような女の子。それが小宮さんであり、僕の人生とは交わることのなさそうな女の子だった。そう思っていた、のだが。
それはある日のそんな昼休みの終わりのことだった。
僕は小学1年生のときからずっと、テレビでやってるヒーローの絵を自由帳に描いていた。『ハイパーマン』とか『覆面ライダー』とか『ジャスティスV』とか。買ってもらった雑誌とかおもちゃの箱を家で写して、暇なときに学校で描く。
もう放送が終わっているものでも、新しいモードとか変身とか怪人とかを考えたりして、それを絵にするのが僕の楽しみなのだ。
その自由帳を小宮さんに見られてしまった。
外から帰ってきて、自分の席の前を通りがかり、机の上の自由帳に目をやる小宮さんに気づいたとき、終わったと思った。高学年にもなってこんな幼稚な趣味に興じているところを目の当たりにされてしまった。この噂はすぐさま学年全体に広がって、僕はいつまで経ってもヒーロー戦隊ものオタクでしかないヤツとして卒業までいじめられてしまう…とその一瞬で脳みそをフル回転させ、絶望した。
「え!これって『空手パイロットアルファ』だよね!?」
……え?
「すごい!絵、上手なんだね!」
僕の目の前には自由帳と僕の顔を交互に見ながら、目をキラキラさせている小宮さんがいた。
え?『空手パイロットアルファ』知ってるの?僕のお兄ちゃんが好きだったぐらい前のやつなのに…と独り言っぽく言うと、小宮さんは『空手パイロットアルファ』の人差し指を空に向ける決めポーズを取って、「私、ヒーローが好きなんだ!」と答えてくれた。
それから、小宮さんとはヒーロー友達になった。
自分の周りでは自分以外誰も知らないヒーローを知ってたし、その話が出来たのがとても楽しかった。
小宮さんは『ジャスティスV』が特に好きらしいので、11人のメンバーすべてを自由帳の見開きにでかでかと描いてみたりもした。食い入るように見てくれたし、また褒めてくれた。近所の子と公園でヒーローごっこをしていることも教えてくれた。
そして、アイドルをしていることも話してくれた。
6年生になったばかりのころにスカウトされて、そのときからアイドルをしているらしい。思い返せば、たまに欠席してる日があったような気もする。そういう日は大体アイドルのお仕事に行っているみたいだ。
ヒーローみたいにみんなに勇気をあげるアイドルになりたい、と小宮さんは教えてくれた。ただヒーローを見て写して描いて満足している僕とは、やっぱり違う存在なんだな、とも思った。
そして、冒頭の僕が悶々としている理由の話になる。
ある日の下校のとき、靴箱で急いでいるような小宮さんと会い、お仕事?と声を掛けた。小宮さんは「今日はレッスンがあるんだ!」と返してくれた。すると小宮さんはハッとしたような表情をして、ランドセルを下ろし、中のファイルからプリントを取り出して僕にくれた。
「今月の終わりにライブがあるから、もし来れたら来てね!」
そう言って校門のほうまで走り、小宮さんよりもっと背の高いスーツの男の人に迎えられ、車に乗っていった。
僕はこれまでわざと、小宮さんのアイドルとしての姿を見ないようにしてきた。
小宮さんがアイドルとして輝いている姿を見てしまったら、本当に手の届かない世界にいることが分かってしまう気がしたからだ。
絶対に接することのない小宮さんとこんなに話して、仲良くなって、同じ目線になったのに。アイドルとして、ヒーローとして、ステージの上に立っている小宮さんを自分の目で見てしまったら。
小宮さんがまた、憧れるだけの存在に戻ってしまうような気がして。
本当はもうそんな場所に小宮さんはいるはずだ。それは分かっているつもりでいる。自分勝手な考え方なのも、分かっているつもりでいる。でも、それを見てしまったら本当に後戻りができなくなりそうで。
そうやって僕は一晩中、小宮さんのことを考えるのだった。
ライブに行くかどうかは、まだ決められずにいる。
…………
…………
こんな拗らせた小学6年生いるかな……。
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