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今日もアーケードにいます

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2020年12月の記事一覧

第五章:どけ

じゃれあっている。 布団の横に 毛糸で編んだ時間割を置いて、 じゃれあっている。 叱られる。 ひとりで、 おもちゃになって 遊んでる 桶の中に溜まる濁った水に からだを巻き付けて、 声を上げたら、 桜の枝の影に隠れてた、 小さな子宮に 耳をつかれた。 千五百八十二階の部屋で、 明日レタスになりたい。 ☆☆☆ 邪魔だ、どけ。 アーケードには、 どけどけどけどけが 殴り書きのまま 右往左往している。 どけ、昨日。 どけ、フライパン。

第四章:木曜日

さかさまのままごとあそび 裸のままの電球で 祝いのケーキを照らした。 古びた戸棚の奥にしまわれたある街に、 そっと頬をあててみる。 染みだらけの地図を、 画鋲で止めて、 物語の終わりに印をつけた まだ、クジラの足音を、 夢見ている。 チュウモン、ハナタバ×五、八千九百円 あと、正直に嘘だけを、丸めておいてください。 広がった花の中心に 天秤でつるしたリボンをむすんで、 言葉は 汽車の煙に のってゆくのを待っている。 アーケードから指先まで

第三章:チェックシート

売れ残った花を、包む。 重なった紙の上に、花の束が横たわっている。 しばらく、こうして アーケードに留まっている。 二十時の鐘の後。 花の色は、入道雲に紛れて消えてしまう。 一日中、草木に触れていた手の、 平らな面を、 擦り合わせ、 死んだ魚が、川を流れる場所まで向かう。 ☆☆☆ 一週間に一回、来るはずの人が、電話を鳴らす。 電話が震えている。 「良く溶かしてあるから」 と言われ、また、 「ああもう溶け切っている」 ともいわれ、 それでも蒸発

第二章:親子丼

一週間に一回やってくる人と、食堂で、親子丼を食べる。 良く見知った人ではある。 けれど、その人が、箸を使って卵をかきまぜて、 口の中に入れている。 テレビには映らないもうひとつの大きなスタジオに、 足を踏み入れてしまったのだった たまたまこうゆう人が、机に座っていたりするのだろうか。 一週間に一回やってくる人が、昔話をはじめる。 遠い国に住んでいた時に 火事で家が燃えたこと。 家が燃え続けている間、 黙ってそれを見ていたこと。 その後、国も、燃えたこと

第一章:アーケード

アーケードにはまだ明かりが灯っていない。 アーケードには、人々の眠る姿が、映っている。 アーケードに沿って並んだ小さなお店屋さんのショーウィンドーから かすかに寝息が、きこえる。 陳列された小物や生ものが 布を掛けられて 中で小さくなっている。 軒先の看板が、宙に浮いている。 アーケードはケーキ屋さんから始まっている。 アーケードを通るわけはいろいろあるだろう。 その理由の数だけ、 アーケードには アーケードに相応しいお店がならんでいる。 アーケード