エントロピー
朝はどうやったって来る。
惰性で稼いだお金を空想のような現実逃避に使っては、歳とともに重ねる義務に払い続けて生きなければ社会ではゴミとされる。
特に秀でたものを残したこともなかった。
でも何かできたのかと問いただして、正直精一杯生きていたじゃないかと言ってあげたい。
毎日同じ電車に乗って、少しだけ嫌になっても変われない日々を送っていた。
そんな僕が彼女に出逢ったのは、夏の暑さがまだ少しだけ残る秋口の頃だった。
僕と同じ匂いがして、少しだけ近づいた。
話してみると彼女は僕よりずっと寛大で、自信家で、それでいて僕と全然違った。
本当は可愛らしい人の癖して、たまに余裕を見せるから堪らなく愛おしくなる。
でもずっとどこか別の人を見ていて、過去の彼女は今の僕との時間よりずっと美しい。
垣間見えるその寂しげな顔を見ても、僕は彼女の隣を歩きたいと願った。
「ごめんね」
わかっていたけれど、優しい彼女だからその優しさが余計に苦しかった。
友達が多くて、寛大な彼女は僕の側にいるフリをまだ続けるだろう。
楽しく今日も彼女は沢山の人と笑っている。
僕は少しだけ俯いて、そしてまた変われない。
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