TENETをやっと理解した
大好きなクリストファー・ノーラン映画だが、TENETは一回観ただけでは全く分からなかった。去年の公開当時もいくつか解説は出回っていたが、そもそも音楽が大音響すぎて映画にほとんど集中できなかったのも有り、そうだったっけ?と理解できずに終わった。久しぶりにNetflixに再登録したら、TENETが出ていたので何度か見直してやっと理解したといえるので、タイムラインを描いてみた。
TENETの逆行劇解説
めっちゃ汚いけど許してください。(笑)
主人公の動向は割と分かりやすく、そこまで複雑ではないのだが、所々2回目で気付いたことは、ニールは将来から何年もかけて過去の主人公がいる時間軸に逆行してきた未来人であり、未来で過去に自分に何が起きたか知っている主人公が所々指示した箇所で主人公を救っている。
例えばキエフのオペラ会場で逆行兵士に救われた時や、カーチェイスシーンで逆行してきたセイタ―に車を爆破された後に救われた時などなど(ストーリーだけ見ると主人公と一緒に逆行したニールが後から主人公を追ってきたように見えるのだが、逆行している主人公から見ると逆再生的にバックしてきた車が映る(逆行の主人公から見て同じく逆行してきたセイタ―の動きは順行で見えている)ので多分順行ニールが逆行主人公を救ったと思われる)。
一応カーチェイスのシーンはこうなっているはずである。
そして最後のスタルスク21のシーンはこうだ。
自由意志と運命
物理学でこのエントロピー・逆行について語るときに避けて通れないのが、自由意志の問題だ。
主人公がTENETとして動き始めた際、研究員のバーバラからエントロピーについて説明されるが、主人公は原因と結果が逆であることや、自由意志はどうなる?とバーバラに聞く。バーバラは結果はどうあれ、あなたの手の中で起きていることよ、とどちらともいえない返しをする。映画を最後まで見ると、この映画内で起きた時間軸は一直線に繋がっているため、主人公が俺たちがまだ生きているってことはこれからやる作戦は成功したってことだよな?ということが証明されたわけである。ある意味決定論的なストーリーではある。ニールは何度も過去の時点で主人公を救い出しているし、それは決定された過去をニールは未来で台本のように従っているだけともいえる。
といいつつ、最後のクライマックスのシーンではニールは割と自由意志に従って動いてもいるようだ。元々逆行チームにいたが、主人公たちが入っていった地下の入り口に敵陣が爆弾を仕掛けたのを見て主人公たちに警告しに行くシーンがある。主人公たちが地下に閉じ込められたことを悟ったニールは敵陣に後ろから潜り、自分が敵陣のターンスタイルから後ろ向きに出てくるのを見て順行に戻ることを決意する。(逆行だと順行の主人公たちは救い出せないので)順行に戻ったニールは、地上からロープをおろして主人公たちを爆発から救い上げる。また、主人公たちを救った後誰かが地下の鍵を開けるが主人公はピッキングが得意ではないので、自分が内側から鍵を開けないといけないことに気が付いてまた逆行していく。ニールはおそらく出会った当時に主人公から自分が過去の時点の未来に死んでいることを聞かされていて、これが自分の最期だと分かっていても起こったことは変えられないと死にに行く。ニールは決められた運命について、それが自分の使命なのだと自分の意志のように動いているがその運命を受け入れてもいるようだ。
そういえば、この映画ではあくまでも時間は一直線上に流れていくが、ちょっと似たような時空系映画ではメッセージ(原題はArrivalなので、到来、とかっていう感じ?)、が私のお気に入りで、未見の人は是非観てほしい。こちらも音楽が最高であるのだが、こちらの物語では未来から来たヘプタポッドというエイリアンから言語を学んだ言語学者の主人公が、その言語を習得することによって現時点で未来の終わりまで知ることができてしまうという話である。エイリアンとの遭遇プロジェクトで一緒になった学者と結婚し、娘が生まれるが娘は若くして病で死んでしまうし夫はそれに耐えられず離れていく。しかしこれから起こることを知っていながらも娘に会う為に主人公は結婚し子供を産む。ちょっと似たような話かもしれない。(こちらは原作の小説があり、ドラマ性も強めだが)
逆行以外のストーリーの謎
この映画では逆行がある為に、主人公がいまどこで何をしてどうなったのかよく分からないというのがあるが、それ以外に普通に見ていても状況が不明瞭な部分などがいくつかあったので考察してみた。
プリヤは何者だ?
いろんな解説サイトではプリヤが未来の主人公から指令を受けている、と書いてあるが私の推測ではおそらく主人公に指令を受けた未来からきたニールがプリヤに指示していると思う。後半のシーンではプリヤとニールは顔見知り以上に知っている風だが、だとすると最初にプリヤに会うシーンでプリヤを紹介せず彼女の夫が黒幕と信じる主人公に何も言わないのは変だ。最後のシーンで黒幕は自分だと明かす主人公にもプリヤは驚いているし、主人公が2回目に会う際、プリヤはニールはどこ?と主人公はガン無視である。そもそも未来から来たニールと予め接触がなければ、ニールは?など言わないだろう。当時の時点でのニールはまだTENETに入っていないのだから。
冒頭のシーン
冒頭のシーンは訳が分からな過ぎて台本まで読んでみた。冒頭はウクライナのキエフにある国立オペラ劇場にテロ組織が侵入するシーンである。主人公はテロ組織が来るのを知っていたかのように、ウクライナ人(?)のヴァンの後ろで半分寝ながら指示を待っている。そこにウクライナのSWATが突入し、無関係の観客を睡眠ガスで眠らせたあとテロ組織を始末する。そこへウクライナSWATチームのワッペンを上から付けた主人公チームが介入し、ボックス席にいた同じくCIAの仲間らしき男を助ける。ここで主人公はその男に、"お前の素性がバレた。あいつらは(このテロに乗じて)目眩しでお前を消すつもりだ。"といい、男は"ようやく連絡が取れたのに!"と返す。
おそらくだが、テロ組織はウクライナ政府の偽装らしく、主人公が救う男はウクライナ政府から奪ったアルゴリズムをセイターに渡す取引をしていたようだ。だがウクライナ政府はセイターに渡さない為にターゲットをオペラハウスでテロに乗じて奪い返し、且つアルゴリズムが核爆弾の一部のプルトニウムだと思っている為、爆破に乗じてその痕跡を消そうとしたらしい。セイターは逆にそれを利用してSWATに扮した主人公達にターゲットとアルゴリズムを奪わせようとしたようだ。(セイターはテロリストが来ると分かっているから手下をSWATの格好で待たせているし、テロ組織が銃で観客を脅し始めた直後にウクライナSWATが来るのも納得がいくかも。)
だが、セイターにアルゴリズムを渡す予定だった男もCIAのメンバー(?)だったので主人公はそのターゲットをSWATに変装させて逃し、仲間の一人を彼に変装させてバンに戻る。が突然ターゲットの男ではなかった為、セイターの手下が気づいて拷問するという流れだった模様。結局アルゴリズムはウクライナ政府の元に取り返されてしまう為、このシーン自体何の意味があったのか、意味不明な場面が多すぎて分からないのだが、多分このSATORスクエアからノーラン監督がキーワードを拾っているようなので、単にオペラハウスのシーンを出して冒頭シーンで観客を混乱させたかっただけなのかも。
(ROTASはオスロのフリーポートでセキュリティ施設を提供している会社として登場し、アレポはキャットが親しくなった贋作画家である。)
ニール=マックス?説(キャットとセイタ―の息子)
ちなみに色々な解説サイトを見ると、ニールはキャットの息子マックスなのでは?という説があったのだが、個人的には割と好きな線である。年齢的にもおそらく主人公は年が行き過ぎているのもあっておそらく未来の時点でニールと会ったのは数年後らしいが、この映画ではタイムマシンはないため逆行するにも順行と同じだけの時間がかかるため、若いニールが選ばれたのだろう。また、セイタ―が私が犯した最大のミスは息子が産まれたことだ、と言っているのでその息子が未来でセイタ―殺しに関わっているということだとしたら面白いと思う。
逆行したあと?...
また、これはあまり解説がなくてぼんやりとしか分からないのだが、例えば2日前の過去に戻るには2日間逆行し続けなければならない。とすると、最初のキエフオペラシーンと同時に起こるテロのシーンまで主人公たちは逆行した後順行に戻っているが、同時刻の順行のタイムラインでは過去の自分はキエフでテロ組織に捕まっているはずなので、おそらくスタルスク21の作戦成功後は自分がその時から見て一番最後にいたオスロ爆破事故の2日後(順行のプリヤと再会し、プリヤの逆行部隊に参戦する)までは身を隠し、自分が逆行するのと同時に出ていかないといけないのではないだろうか。いまいち逆行した人たちの戻り方が分からない。(ノーラン監督へのインタビューでも同じ質問をしていた人がいたが、多分これが答えっぽい。)
感想
ここまでやってようやくテネットを理解した感があるが、インターステラーやインセプションも発想自体すごかったがそのドラマ性(インセプションでは潜在意識の中で自殺に追い込んだ妻が何度も出てきたり主人公が妻亡き後子供たちと会うためだけに無謀な依頼を引き受ける、インターステラーではストーリー全体で娘との約束を守ることが主人公を突き動かしている)に自分は感動したもののこの映画は終始主人公は名前が分からないし、ニールと主人公が未来で育むであろう友情も全く見えてこないので、正直なところTENETにあまり感情的な移入は出来なかった。あくまで、ある時間軸のある一遍を切り取って、はい、と見せられているような気分だった。
ノーランはどうやらこのTENETを作る際、マカロニウエスタン映画のOnce Upon A Time in Westのオマージュとしてこの映画を撮ったらしく、彼のヒーローものへの憧れを投影したようだ。名前のない主人公The Protagonistを映画のメインにすることで、観客がより主人公と同じような時間軸アクションを楽しめるというのがノーラン監督の意図らしい。だからあえて主人公の名前や背景、ニールの過去などは匂わせるだけで物語の進行上必要な情報しか観客は与えられない(プリヤも最初の段階で、無知が我々の武器だ、と言って主人公にも聞かれない限り何が起きているのか説明してくれない)。
ちなみに一応ノーラン監督のインタビュー動画を観てみたが、ネタバレを避けるという理由であまり大したことは話していなかった。(トリビア的に元ネタや、構想、映画の構成の意図や、ニールの最期の言葉がカサブランカという映画から取っていること、が分かるぐらいだ)
https://www.youtube.com/watch?v=Xqa3ry4puT0
TENETは相当前から構想だけあったようだが、映画で実現しようとした「観客が実際に映画と一緒に実体験している気分になる」という意図としてはダンケルクと同じかもしれない。ダンケルク自体は戦争映画でこちらは主人公含め名前はあるがセリフもあまりないため、よりリアルに感じられる映画ではあるものの主人公(というか主人公の影薄すぎでは。カッコよく敵陣に墜落してしまったトマス・ハーディや民間船で兵士達を救いに行ったのにその兵士に事故とはいえ殺されたジョージの方が印象が強かった)よりも「演技が意外と上手すぎるハリー・スタイルズ」しか印象になかった。その点TENETはそういった配役もなく、より主人公と一体になって体験できる(ノーラン監督は映画音楽も大事にしているため、今回の大音量且つエッジが鋭すぎる音楽も計算ずくなのかもしれない。個人的には字幕で見たのにセリフが追えなさすぎるぐらい気が散りまくったが。)という意味では、ストーリーにあまり込み入りすぎると映画が全く追えないということになるのはきっと分かっていたのだろう。(実際普通に見ても半分以上の人は何がどうなっていたのか、とりあえず映像はハラハラしてカッコよかった、ぐらいしか印象が残らないのかも。)
なんかもっとカッコいい感想を書きたかったのだが、面白かった!に尽きるなと思った。
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