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"17位、リーグ全試合失点。クラブが見据える未来は?" 湘南ベルマーレ 2023シーズン前半戦振り返り

■はじめに

 2023シーズンの前半戦(延期分の浦和戦を除く)が終了し、勝ち点12で18チーム中17位、最下位の柏と勝ち点が並ぶ位置でシーズンの半分を折り返すことになった湘南ベルマーレ。得点はそこそこ挙げられているものの、16試合を戦って無失点試合ゼロと開幕前〜開幕当初の期待にそぐわない結果に失望しているサポーターも多くいると思われる。かく言う筆者もその一人だ。
 代わり映えのしない試合を見せ、開幕当初の期待とはかけ離れた順位にいる現在。フロントと現場は何を見据えて戦っているのだろうか。2023シーズンも半分を過ぎた今、約半年間に起こったピッチ内外の動きを振り返りつつ、このクラブが現状をどう捉えているのかについて考えてみたい。

■ピッチ外:2023新体制発表会

 まずはピッチ外から、新体制発表会の質疑応答における坂本GMの回答は見逃せないポイントがある。

(坂本GMへ)
–現役引退から10年が経った今シーズン、新たな立場で臨みますが、クラブ、チームをどのように導いていきたいと考えていますか?
◆坂本GM
もう引退して10年経ったのかという気持ちでいますが、この10年、8シーズンでJ1で戦うことができています。(中略)
やはり一番は、いろんなところで少しずつお話しさせていただいてますが、やはり新しいフェーズ、新しいステージに向かうべきタイミングだというふうに思っています。

【ボイス】2023新体制発表会
https://www.bellmare.co.jp/301859

そのほかにも、スポーツ報知のインタビューではこのように話している。

やっぱり一番高い所を目指したいなと思っています。リーグ戦でタイトルを取ることは、すごく難しいし、そこまでに何年ぐらいを要して、そのためにチームをどうしていかなきゃいけないか、クラブとしてこれだけの規模にならないと難しいとか、現実的にいろんなものが見えてくると思う。(中略)僕が選手の時はずっとJ2で、当時は弱かったので、今の湘南ベルマーレの姿を想像した人はいなかった思うんですよ。J2でも真ん中より下くらいの時代が結構あって、その時に無理やり、『J1に行くぞ』と言っていた時期があった。目指さないと絶対に行かないと思ったので。時間はかかりましたけどここまで何とか来られた。じゃあ次は誰が、何を想像するって時に、次の未来を見ることがすごく大事だなと思っていて。

湘南、坂本紘司副社長GMが語る「5位以上」を目指す今季のチーム編成とクラブの未来について
https://hochi.news/articles/20230216-OHT1T51250.html?page=1

 さて、現場における最高責任者が何を理想としてクラブを動かそうとしているかに注目したい。明らかな通り、坂本GMは湘南ベルマーレをJ1リーグでタイトル争いに絡めるようなクラブにまで成長させるのを目標としている。すなわち予算規模の小さいプロビンチャクラブというイメージと実績、そのどちらからも脱却しようとしているのである。

■ピッチ外:新スタジアム建設とエンブレム変更

 実績に関してはピッチ内の話になるので後に回すとして、イメージの刷新についてはわかりやすく2つの柱で進めている。一つは新スタジアム建設で、もう一つはエンブレム変更だ。どちらも勇み足にも思えるような早急な進め方をしている印象があるが、せめてどちらかは新国立競技場で行われる30周年記念試合での発表に間に合わせようとしているのかもしれない。J1ライセンスを満たさない平塚競技場ではなく複合型の機能を備えた近代的スタジアムで、地元に広く染み付いた(J1かJ2かもわからない)弱小クラブのようなイメージから脱却し、同県内にあるチャンピオンチームたちに肩を並べられるクラブを目指そうとしている。
 その方法論については賛否両論あるだろうが、理想とするクラブの姿を否定するファン・サポーターはいないはずだ。筆者がサッカーを見始めた2002年頃、J1に定着したりタイトルを取るクラブの姿は絵空事でしかなかった記憶がある。カップ戦のトロフィーだけでなく、いつかはリーグ戦のシャーレを掲げる緑と青のユニフォームを見てみたいと思うし、それをクラブが目指すのであれば応援する以外の選択肢はない。

2018年ルヴァンカップ優勝。
いつかはリーグタイトルを掲げられる日が来るだろうか。

■ピッチ内:スタイルの変更

 湘南ベルマーレとしてのサッカースタイルは、プレッシング=非保持に軸を置く。人数をかけたプレッシングでボールを奪い、早くゴールに迫っていく形が10年近くチームのベースとなっている。だが今シーズンはいい形でボールを奪ってリズム作っていく長所を残しつつ、ボールを保持しながら相手を剥がしていくスタイルを身につけようと試行している。サッカーはボールを持っているチームが主導権を握る傾向が高いゲームなので、対戦相手の力量次第なプレッシングスタイルよりも、自らボールを動かしていくスタイルの方がゲームの性質上勝利に近付きやすい。また近年の強豪チームは国を問わずどちらも出来るのが当たり前な状態のため、タイトルを狙うチームを目指す以上、必要な道のりだと考えているのだろう。

 Youtubeにアップされている山口監督とサッカー関係者の対談企画では"守備からいいリズムが作れなかったが?"というインタビュアーの質問について、"まだそういう見方をされるのか"といった話をしている。"相手を剥がしてリズムを作っていきたい"とも話しており、従来のチームスタイルをベースに新たな上積みを目指している様子が窺える。また坂本GMも湘南ジャーナルのインタビューで"攻撃的なサッカーを見せたい"と話しており、現場とフロントの間で"タイトル争いするクラブには、ボール保持からリズムを作るサッカーが必要"という認識が共有されていると思われる。(そもそも保持=攻撃的なのか?という疑問は脇に置いておく)

ー30周年おめでとうございます。今年1年、率直にどんなシーズンにしたいですか?
ご存知の通り、クラブは今年「あたらしいうみへ」というスローガンを掲げました。それにふさわしいような、誰もが胸を踊らせるような攻撃的なサッカーをして、順位も含めて、今まで見たことのなかった、新しい景色をみんなで見たいと思っています。

いざ、新世界へ “あたらしいうみ”の船長
https://shonan-journal.com/magazine/29275/


 実際のシーズンにおいては序盤3試合=鳥栖・横浜FC・川崎とプレッシングを繰り出せる対戦相手が続いたことで、得意な面を押し出して試合に臨めていた。雲行きが怪しくなってきたのは京都・福岡のロングボール主体のチームとの対戦で、プレッシングが機能しないまま屈強なFWに競り負けて押し込まれる展開から敗戦。G大阪には町野の個人能力のおかげで勝利、FC東京と横浜FMにはプレッシングがハマったものの勝ちきれず、名古屋との対戦からボール保持の課題が明るみに出る。

 名古屋、神戸、柏との対戦ではボールを持たされる展開になったため、足下主体のショートパスを繋いで相手を剥がそうと試みたが練度が足らず、前と後ろでチグハグになるなど不甲斐ない試合を見せてしまう。札幌戦の前に選手間の話し合いで"まだ綺麗につないでゴールを目指せるレベルにない"と認識を改め、ボールを握ったら相手が整う前に早く攻める形にマイナーチェンジ。それでも目に見える結果は出ず、広島・新潟・鹿島にも勝利できないままリーグ前半戦を終えた。

 23得点は18チームの中でも上から数えた方が早い数値であり(鳥栖・G大阪など固め取りの試合もあるが)、アタッキングサードに入ってからの攻略はある程度のクオリティを兼ね備えているといえる。問題は、そこまでどうやってボールを運ぶかである。特別指定選手の髙橋が希望の光に見えるほど、現在のCB陣はボールを前に届けるスキルが不足している状態。またWBの攻撃におけるクオリティも物足りないところがあり、アタッカー陣に時間とスペースを届けるための成長と補強が必要であろう。
 そして28失点の守備に関してであるが、ボール保持の課題がそのまま失点の多さに繋がっていると考える。直近の鹿島戦で失点のきっかけとなった町野のロストのように、中盤〜前線が無理やりボールを引き出す動きを繰り返すため相手にも読まれやすくなり、陣形が崩れた状態でボールを失ってしまっている。またピッチ上で相手の試みを読み取る能力を持った選手が不足しているのもあり、まともに攻撃を喰らってしまうのも原因の一つだろう。

 スタッツ上も攻撃に関する項目は半分から上の成績を残している一方、守備に関する項目は軒並み低い成績となっている。被攻撃回数(相手がボールを保持してから失うまでの回数)が多いのは仕方ないとしても、被BOX侵入、被シュート、被枠内シュートが下位なのは苦しい。近いスタイルの広島が同項目トップの成績を見せているわけで、被攻撃回数が多いのは失点が多い決定的な理由にはならない。つまり攻撃を受ける場面で守備の基本原則が守れる陣形を取れていない=バランスが崩れた状態でのロストが多いと言えるだろう。保持の課題がそのまま非保持の悪化にも繋がってしまっている。自分たちとボールが動くのではなく、相手の守備を動かすような保持が出来るようになれば、失点の減少にも繋がるかもしれない。

■ピッチ内:選手への委任

 札幌戦を前に選手間の話し合いで前進方法を変更したように、保持に関して監督はコンセプトと原則を提示するのみで、細かな方法については選手に任せている。身体の向きやレーンを意識した立ち位置、攻略するゾーンなどの共通認識は窺えるが、それを”どのように実行するか”はピッチ上の選手たちに裁量が与えられている。先程の対談動画の中でも”ゴールキックから繋げという指示は出していない”と話している通り、いかにボールを前線に渡すかについては各選手が試行錯誤している状況であり、そのためボールを運ぶスキルを持った選手がDFラインに入ると途端に輝いて見えるのである。

 これは監督の職務放棄というわけではなく、選手たち自身の力で感覚や答えを掴んで欲しいという願いによるものだと動画内で話している。”もう一段階サッカーが楽しくなる”ためのものであり、困難な課題を与えている認識は持ちつつも、クラブが理想とする姿に近づくためにピッチ内で必要なステップと捉えている。それは選手時代にJリーグ・ACLのタイトルを掲げた自身の経験に裏付けられているのだろう。
 実際に昨シーズン終盤で見せていたビルドアップの形(CBの大外スライド+WBの押し上げ)は封印されており、仕込まれたビルドアップのパターンはほとんど見られない。なんで去年の形を辞めたのか?という疑問に関しては、選手間で答えを見つけるフェーズに入ったから、という回答になるかもしれない。目に見える修正もなく何試合も同じような試合展開が続いているのは、選手の成長を待っているという見方もできるのではないか。(なお、本当に選手に任せることがチーム強化に繋がるのか?監督による枠組みは必要ないのか?という疑問は脇に置いておく)

■外的要因:2023シーズンの特殊レギュレーションと予想外の勢力変化

 監督・コーチ陣がそのような決断を下したのは、2023シーズンの特殊なレギュレーションによる影響が大きいと思われる。J1リーグは2024シーズンから20チームに増加するため、2023シーズンは最下位の1チームのみがJ2に降格する。すなわち残留のハードルが山口監督が経験した過去2年と比較して格段に下がっており(2022:自動降格2チーム、入れ替え戦1チーム。2021:自動降格4チーム。)、クラブが理想とする姿を目指すため、選手の成長を促すシーズンとしてはうってつけの年であると考えたのだろう。流行病の影響で降格がなかった2020シーズンも土台づくりの年として捉え、浮嶋前監督の下でハイラインとハイプレス、ボールを繋ぐ意識づけに着手。それが今日の湘南における礎となっているように、未来に向けた一歩目として2023シーズンを設定したのではないだろうか。

 しかしながら、予想外だったのは他チームのスタイル変化だ。半分を折り返した時点の上位陣で、保持を志向するチームは横浜FM程度。川崎や鳥栖が苦戦する一方、名古屋や神戸、広島など非保持に寄ったチームの躍進が目立った。川崎や横浜FMといった近年のチャンピオンに対するカウンターなのだろうか、リーグの勢力図が昨シーズンとは異なる形になっている。結果として勝ち点を拾いにくい相手との増えたのも苦戦の理由の一つで、練度が足らないポゼッションは格好の餌食になってしまっている。

■説明不足と現実の乖離

 これまで拾ってきた理由と繰り返しピッチ上で起きている現象を結びつけると、今シーズンの苦戦はある程度筋が通る。クラブとしての立ち位置を上げるため、ピッチ内でも新たな挑戦を始めて選手の成長を促しているのである。
 しかしながらクラブは表立ってそのような意思表明はしておらず、あくまで筆者の妄想でしかない。個々の事象だけを見ると、平塚市から協力を見込め無さそうな新スタジアム建設計画、ビジョンと目的が見えずポエム要素が強いエンブレム変更計画、失点が減らず改善の見られないサッカーと応援するモチベーションが削がれる点ばかりだ。新体制発表会でも"変わらず5位以上を目指す"と公言したにも関わらず、この体たらくでは不満が募るファン・サポーターも多いことだろう。

 だが実際には選手の成長を待っている段階であることを踏まえると、設定した目標と現実に乖離があるように思える。"5位以上を目指すためのチームづくりを行う"シーズンと捉える方が適切だ。それならそうとしっかりとした説明でもあれば納得のしようもあるものだが、現実は中々そう簡単にはいかないものである。

 2023シーズンのレギュレーションについて正式発表があったのは2022年12月20日。リーグから各クラブには内々で通達はあったかもしれないが、公にすることも出来ない上に年の瀬に近づいた頃合いだろう。ピッチ内の方針は関係者間で柔軟に対応可能であるが、ピッチ外、とくにスポンサーや地元地域に対してはそうは行かない。昨シーズン終盤の好調ぶりを受けて各方面から"来年こそは!"と期待をかけられていたとすれば、後々方針を翻す事は難しい。
 また現役代表選手のボムグンや町野、阿部や小野瀬といった実力者を揃えた以上、チームマネジメントの面でも高い目標を設定せざるを得なかったのかもしれない。とはいえ悪戯に期待を煽り裏切っている以上、批判はされて然るべきだろう。あるいは、ファン・サポーターからの厳しい目すらも監督は求めているのかもしれないが。

■まとめ

 新体制発表会でコメントがあったように(さほどサポーターやメディアの間で話題になっていた記憶にないが)、このクラブはステップアップを目指している。J1残留を目標とする現状から、タイトル争いを日常とするような強豪クラブへ。良くも悪くもイメージと思い出が詰まったエンブレムから、新時代に漕ぎ出すエンブレムへ。J1在籍資格を失う恐れのある陸上競技場から、複合型機能を持った新スタジアムへ。ピッチ内では走力をベースとしたプレッシングに、ボールを保持するスタイルの上積みを目指す。
 いずれも目標とする姿への道筋としては概ね同意できるものである。エンブレムに関しては個々の思いがぶつかり合うところが多いが、スタジアム問題は解決しないと成績がどんなに良かろうとJ1に居続けることができなくなる。その過程や議論には疑問符が浮かぶ点もあるものの、最悪の事態を避けるべく良い結果に落ち着くことを願っている。

 そしてピッチ内について。Jリーグの監督を務めるためのS級ライセンス保持者がコーチ陣に不在な現状、監督交代はまずないと予想する。坂本GMと山口監督はシーズン開幕前にビジョンを共有し、クラブ強化のためスタイル変更と選手委任の方針を取ったと思われる。つまり成績不振を理由とするのであれば、よっぽど降格が現実的なものになるくらいでないと監督交代は起きないだろう。
 Youtubeの対談動画内で自身の長所として”ブレがない”と話している以上その可能性は低いだろうが、監督・コーチ陣による指示・指導が入った様子が見えた時こそ注意が必要だ。J1に残るための現実路線への転換だとすれば、クラブ的には停滞と同義だからである。勝ち点を拾えるようになった=ポジティブな結果、とはならないケースが今後出てくるかもしれない。

 さて、それでリーグ後半戦に向けて我々ファン・サポーターはどのような目、気持ちで観戦すればよいのだろうか。結局のところ、変わらず応援し続けるしかないのには変わりない。だが”5位以上を目指すチーム”と”土台づくりのチーム”であれば向ける眼差しの質は変わってくる。前者は意図と結果が伴わなければならないが、後者は意図がどこにあったかで評価すべきだ。舘がドリブルで2つ3つ多く持ち運んだり、大岩がライナー性の速いボールをIHの足元に付けたり、畑が縦だけでなく内の選択肢を見せていたら、チャレンジの結果が伴わなくとも拍手をしてほしい。強くなるチームにはそういった過程も必要だろう。
 しかしながら、クラブから明確な説明や意思表示がないのには不満が募る。ここまですべて筆者の妄想でしかないため、勝ち始めた8月の終わり、いつかと同じように唐突な監督交代が起きる未来もあるかもしれない。現実問題リソースが足らないのだろうが、落ち込み困惑するサポーターたちの気持ちを前向きにするようなリリースが欲しいところだ。

 ルヴァンカップ グループステージ最終節を挟み、来週18節には開幕戦で大勝した鳥栖をホームに迎える。開幕直後は低空飛行が続くも愚直にボール保持へ取り組み続けたチームに対し、その積み上げの差を見せつけられるのか、二度目の勝利を上げられるのか。リーグ後半戦も変わらず熱い応援をしていこう。

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