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永遠のゼロ

私のおじいちゃんは特攻隊の生き残りだ。

いや、正確には生き残りだった。もう結構前にお葬式をしている。

おじいちゃんは大学卒で士官候補生だった。零戦に乗っていたわけでは無い。爆撃機に乗っていた。空母とかにでっかい爆弾を落とすような日本軍が持っていたでかい飛行機だ。戦争終戦間際には零戦どころじゃなくて、そんな大きな爆撃機も艦隊に突っ込むようになっていたらしい。

戦争中期くらいには零戦が突っ込んで使命を果たすのを見届けたら、報告のためにおじいちゃんは帰路についていた。

でも、いよいよ敗戦が濃厚になってくるとなりふり構わずめちゃくちゃ製作費用の高い爆撃機も突っ込むようになっていた。

おじいちゃんは戦争を生き残っている。

前日には母親に遺書を書いて、酒をのんで、家族の写真を服に挟んで、お国のために突っ込む気満々で爆撃機に乗って南を目指したけど。

目的地に行く途中で空中戦闘になった。

グアムと台湾の間くらいだったらしい。いきなり翼がすごい音を立ててめり上がってきたかと思ったら被弾していた。

相手の飛行機は小さくはやく、こっちはでかい図体の爆撃機だ。いい的になっていた。副操縦士のおじいちゃんは機長が被弾して怪我したから、代わりに操縦桿握って避けまくった。スパイラルに入って落ちていってたから避けるとかの話では無かったけど。

そして、フルパワーにしておもっきりラダーを踏んで、水面ギリギリでリカバーしたと思ったら、もう一回ダメ押しの被弾して飛行機は水の中におちた。

おじいちゃんは気を失っていたけど、翼の破片に身体が引っかかってぷかぷか浮いていた。

そして気がついたらなんとかクロールしようとしたら右手の感覚がない。おじいちゃんも被弾していて、鎖骨から先はぼろぼろだった。何回も「ここには小さな弾のかけらががいっている」とその傷痕の上から触らせてくれた。なんかコリコリしていた。

それから台湾に漂着して、終戦を迎えて、戸籍を偽って日本に戻って、まるこげになった日本を横断して地元に戻って、公務員になった。玉音放送は聞いていない。自分が特攻隊だった事とか、陸軍だったこととかは戦後だいぶ時間が経つまでひた隠しにしていた。

おばあちゃんに出会って、私の母親が生まれてからも、いつ逮捕されるか分からない、と急に不安になる時があった。

おじいちゃんは孫の私に何度も空の美しさを伝えていた。一緒にパイロットとしてとんでいた仲間の優秀さも。

零戦で突っ込んでいった人達がもし全員生き残っていたら、日本はもっと遥かに発展していたともよく言っていた。

おじいちゃんが死んでから10年くらい経って、初めてこの映画を見た。

おじいちゃんも製作支援して、取材に協力していた原本の映画。

涙が止まらなかった。

けど、でも戦争なんか本当に何も美しくない。おじいちゃんも最初から最後までなんでアメリカ軍に突っ込むのか分からなかった。お母さんとお父さんの誇りになる存在でいたかったから士官しただけだ。

そんな善意の塊が戦争の最前線ではぶつかり合ってる。

美しさや美談にして欲しくないなと思いながら見ていた。なんか、アメリカが描く戦争の映画とは違う側面を切り取ってはいたけど、この岡田くんが私にはおじいちゃんにしか見えなかった。



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