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中国動画配信のスター李子柒がトラブル。MCNとインフルエンサーの衝突は今後も増えそう

noteで、世界的に人気な中国のvloggerである李子柒を紹介したことがあります。日本の皆さんも彼女の生き方に共感できるのか、たくさんのハートがつきました。

今日は彼女に関する話題と中国のMCNの抱える問題についてです。

■李子柒のトラブルが中国で大注目されていた

実は彼女、最近ちょっとトラブルに巻き込まれています。7月14日の更新以来3ヶ月以上も動画を更新していなかったのです。中国のネット民からはかなり前から心配されていました。

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↑この件について、中国のメディアでもたくさん報道されました。

そしてつい先日の10月25日事件がおきます。李子柒が持っている「四川子柒文化伝播有限会社」が、彼女が所属しているMCN機構の「杭州微念ブランディング管理有限会社」を訴えたことが報じられました。

中国のMCNとは?という方は下記のnoteを読むと理解が深まると思います。

この訴訟の裏には、インフルエンサー vs MCN機構&資本 の間での衝突があることが明らかです。

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李子柒が持っている会社「四川子柒文化伝播有限会社」は李子柒が49%の持株であり、実のところコントロール権を持っていないのです。さらに、社会保険を納入する人が登録されていないことから、お金はこの会社に入るが会計から運営まで全てが杭州微念が雇用する人がハンドリングしていると考えられます。

これはつまり、李子柒というIPに何かが起きた際には“ペーパーカンパニー”として、李子柒は何も得る権利がないということになってしまう状況です。

(日本でのケースはあまり知らないんですが)中国のMCN会社とインフルエンサーの間にはこういうトラブルがよくあります。1番大きな理由は、中国のプラットホームではYoutubeのような広告モデル中心のところが少なく、その代わりの独特なビジネスモデルと深く関わりがあります。

■インフルエンサーと資本の間の提携関係

ビジネスについての解説は、まずはMCNとインフルエンサーの提携について。提携には大きく二つのケースがあります。一つは「MCNが独自のインフルエンサーを育成し、お金や資源を使ってゼロからインフルエンサーを作り出す」パターン。

例えば「王子柒」というアカウントを作って、適任者が顔出して、会社がその運営をサポートします。フォロワーから見れば、この人は「王子柒」だけど、実際の収益は全部会社のものであり、顔出してる本人はあくまでも従業員の1人として扱われます。

そしてもう一つは「MCN機構はすでにある程度人気度のある人と提携する」ケースです。MCNがより多くの資源とスタッフを投入し、人気のあるインフルエンサーがより売れるようにプロデュースされ、収益は提携したときの約束で分配されます。李子柒の場合はこのモデルになります。

MCN「微念」が李子柒に声をかけたときに、彼女はすでに多くのファンを持っていましたが、海外でも多くのフォロワーがいるほどではなかったです。その当時は「微念」の設立者が何度も四川の山の奥を訪ねて李子柒を説得したそうです。この説得の努力はその手間の何万倍ものリターンとして返ってきました。その後の世界中での爆発的な人気で動画はとんでもない再生数となり、商品化開発もうまく行ってます。

■インフルエンサーとMCNがトラブルを起こす代表的な3つのケースとは

インフルエンサーとMCNの間によく現れるトラブルには主に以下の3つがあります。

1つは理念の衝突です。MCNと連携すれば、ビジネス展開がうまくなる反面、ビジネス上広告主の意向を反映する必要が生じて、インフルエンサーの創作に支障が出やすいです。あるあるですね。

コンテンツに過剰の広告を入れたくない、コンテンツの質にこだわるインフルエンサーであれば尚更こう言った衝突が起こりやすい。李子柒の場合はスポンサーのコンテンツ制作への参入がどこまでのなのか(動画を見ている感じでは特に感じられないが)実際のところはわからないです。

↑YouTubeで1億回以上の再生数を誇る伝説の動画

2つ目は収入のシェアについて。売れれば売れるほど、膨大な収益に対してインフルエンサー側は「全部私が作ったコンテンツによる収入じゃん」と思いがちとなるようです。一方でMCNの方は「自分の資源と運営チームによるサポートがなければ、こんなに売れるはずがない」と思いがちです。これもあるあるですよね、どちら側も自分の貢献が大きいと思い、その結果収益の分配をめぐって紛争が生じます。

特に、MCN機構が大きくなれば融資や上場も意識することが多くなるし、資金を提供している投資者とMCNの意見などもインフルエンサーに不満を抱かせるなどもよく聞く話です。

李子柒の場合も全く同様です。MCNの「杭州微念」は李子柒というIPを持っていることで、たった1人のIPの存在だけで市場査定値が50億元(800億円ほど)もあると評価されているという噂もあります。ただ、上部で解説したように会社自体は李子柒と関係ないと宣言すれば一元たりとも李子柒さんと関係ない(MCNのもの)というわけです。これは流石に酷いですよね、ネット上でも非難や彼女を擁護する声が多数です。

ところで、企業工商情報によると2021年7月にバイトダンスが「微念」の1.48%の株を取得したとのことです。タイミングから見るに今回の紛争の誘因の可能性が高いです。また、李子柒と「微念」の一連の揉め事によって、10月末にはバイトダンスが微念から撤収する手続きを行なっているという情報が出ました。

3つ目は、SNSアカウントや商標などの所属について。MCN機構が交渉中に優勢に立ちやすいし、どちらか言うとインフルエンサーの方が世間知らずの部分があるので、騙されたような契約を結ばされているケースが多々あるとのこと。それによって巨額の罰金やアカウントの強制没収などもよくある話です。

■ この訴訟の行方と李子柒の勝算は?

いろんな推測がありますが、訴訟の具体的な原因はまだ公表されていません。しかし、本人や周辺の人のつぶやきから見るにお金は最も重要な原因だと考えられます。クリエイターとして今までの作品で成功してきた歴史と自負があるでしょうから当然だと思います。

今や「李子柒」という三文字だけでも膨大な商業価値があります。今後の争いで彼女の勝算はどのくらいあるのか?

李子柒の中国動画サイトでの再生数もすごいんですが、YouTubeでのフォロワー数でもすでに1630万人を超えてます。(YouTubeのスクショ、2021年11月3日時点)

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また、国民的スターであり、かなり前から中国文化の発信源として政府や社会から期待・応援されてます。動画更新停止の後には、一度国家テレビ局である中央テレビ局の取材を受けました。そのときに中国の農村部の振興に力を入れたいと、若者に将来インフルエンサーを目指して欲しくないなど、政府からも積極的に評価される姿勢を示していましたね。

彼女のコアな競争力は自分が作ったコンテンツであり、国内外に圧倒的なファンを持っています。もし今回の訴訟の結果が思わしくなく、たとえ李子柒という名前が使えなくなっても、本名の李佳佳 or 他の名前でもすぐにファンがつくでしょうしね。僕も応援し続けたいと思います。

中国ではMCNは絶好調で存在感が増しているのに対し、日本は大手MCNも大苦戦しているようですし独立する芸能人やYouTuberがたくさんいるらしいですね。今回の李子柒の一件は中国のインフルエンサーとMCNの関係性の未来を変えるのかもしれません。どういう結末になるのか注目しています。

(参考資料)

https://new.qq.com/omn/20211030/20211030A0409100.html

https://www.163.com/dy/article/GNLEQS5U0514LMAI.html

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