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Spotifyは中国では勝ち目ないかも。TMEテンセントやネットイースの音楽アプリの実力について

最近日本の友人から中国の音楽アプリについて質問を受けていました。同時に、Spotifyのニュースを目にしてからSpotifyを使ってみたり調べていたら、中国音楽アプリとの差にびっくりして戸惑ってしまいました。

というわけで、今回は日本のみなさんが使ってるSpotifyやApple musicと中国音楽アプリの違いについて。

7月12日、Spotifyはイントロ当てクイズができる音楽ゲーム「Heardle」を買収すると発表。発表ではHeardleの機能をSpotifyのメインプロダクトへ統合することを検討していると言及していました。

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ただ、中国のメディアが注目していたのはイントロクイズよりもカラオケ機能について。それは

・10年連続赤字中のSpotifyはようやくオンライン音楽ビジネスの高コスト体質に限界を感じた。
・広告収入+有料会員制モデルではもはや著作権コストをカバーできない。
・そこで中国のアプリのようにオンライン音楽とソーシャルエンターテイメントという2つのコアセグメントを軸に考えている。
・そしてその筆頭がカラオケ機能だ。

という分析がされていました。 

補足として、なんでカラオケ機能が注目されていたかというと、中国のオンラインカラオケ市場の魅力と中国のオンライン音楽アプリ(カラオケアプリ)の成功があるから。2020年の調査レポートによると、2014年にオンラインカラオケ業界の規模が拡大し始めてから今まで右肩で急成長。2019年の時点で月間アクティブデバイス数は2億2000万。また、カラオケ文化が比較的成熟している東南アジア諸国にも進出していて、いくつかのサービスはフィリピン、インドネシア、タイ、マレーシアでも人気になっているのです。

たしかに音楽アプリが広告やサブスクだけで大きな利益を上げるのはどの国でも難しそう。音楽サービスフォーマットの“欠点”として、音声広告を音楽アプリ内であまり挟むことができないし、広告に対してのユーザーコンバージョン率も高くない。 「2021 China Internet Advertising Market Insight」のレポートによると、モバイル動画の年間広告収入は1000億元規模に達している一方、モバイル音楽の広告収入は100億元未満です。

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↑2021年12月の中国のモバイルサービスでの広告スペースの分布。動画やSNSが最も広告を表示させやすく、音声では限られていることが一目瞭然。

Spotifyと基本的には同じビジネスモデルの「网易云音楽」もサブスクと広告では苦戦。有料化率が2022年第1四半期に全ユーザーの20.2%に達しているにも関わらず常に赤字の状況なので、国や地域や市場規模に関わらず、このモデルでは収益を上げるのが厳しいと考えられます。

ちなみにSpotifyは中国市場に進出していないからボクの周りでは全く使われていません。Spotifyは中国という大きな市場になぜ頑張って参入してこないのか。それは中国アプリが既に強いからでしょう。

中国のみんなは日常的に网易云音楽やQQ音楽の利用者が多く、これらのサービスは有料会員も多いです。タイトルにもあるTMEというのは主にテンセントの音楽アプリQQ音楽と超有名カラオケアプリ全民K歌のことで、2016年にテンセントに買収された酷我音楽と酷狗音楽も含まれてます。

そしてこの音楽アプリたちは機能もサービスもビジネスモデルもすごくて、思うにSpotifyに勝ち目はほとんどなく、中国市場進出を控える判断は大正解かと。

専門家や第三者による分析でも同様で、例えばCLSAアジア通信とインターネット研究機構理事Elinor Leungがロイターの取材を受けた時には、「中国の音楽アプリは、音楽ストリーミングとライブストリーミング、カラオケ、ソーシャルコミュニティを統合してより優位性が高い」と評価していました。

個人的には、優れた機能以外にも、中国の国民性に合わせたソーシャル機能、より合理的な価格設定、が鍵で中国音楽アプリが世界のアプリと比較して優れていると思っています。ここからはその2つのポイントについて。

■価格競争力が違う

まずは値段です。トップ2社は大体100元(約2000円)以内が年間会員費用となります。Spotifyって月千円くらいですか?今の円安でも中国音楽アプリの感覚からだと高すぎます。

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↑网易云音楽が毎日0.37元で聴けます。(感覚的には、著作権者がこの曲の単独販売を要求しなければ。また、競争社のやつは有料会員しか聞けないですが)自社が版権を持ってるモノはほぼ無料で聞き放題。有料になればもっと音質が良くなったり、特別な音響効果が利用できたり、今の中国の“ネット原住民”としては手頃と言える価格です。

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↑そしてQQ音楽の有料会員がもっと素晴らしいです。一つのアプリの会員ではなく、テンセントのエコシステムにある複数のサービスの会員が同時にゲットできます。これで音楽だけでなく、有料漫画や本を読むこともできます。(音楽の年間会員に他のアプリの3ヶ月間会員や1ヶ月会員にもなれます)

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↑または音楽と動画サイトの合同会員のプランも。日常でよく使うし、一気にお得感が出ます。

■音楽アプリにSNSを持ち込むとは?

そして機能というかサービスとして全く違うと思ってるのはソーシャル性。詳しく説明するとものすごく長くなるから、今回ではボクがチョコチョコいいなと思う機能をちょっとだけピックアップして紹介します(需要が有れば別途noteで紹介します)。

これは欧米の一部のサービスでもありますが、中国音楽アプリはどれもSNSに簡単にシェアすることが可能。友達に「今この曲聞いてます」みたいなのをシェアできることはもちろん、QQ音楽の場合は自社のIMに自動的に今この曲流れてますよみたいな表示が選択可能です。自己主張の激しい人にけっこう愛用されてる感じです。

また、今このフレーズに感動してるんです、といった時にフレーズ入りのポスターやハイクオリティの動画を簡単に作ることができます。

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↑さっき適当に作りました。曲の宣伝も、個人の趣味も、選んだ歌詞によっては今の気持ちも。これはSNSに投稿するのに最適です、そしてSpy familyは中国で大人気中w

さらに、ソーシャル性としてもっと革新的なのは网易云音楽のソーシャル機能。今この曲を聴いてる人とマッチングしてチャットができるんです。曲の下にコメントを書くなんてもはや時代遅れなのかも。マッチング、リアリティーのソーシャルはZ世代若者にとってはかなり魅力的なようです(ボクは一度もマッチしてみたことないですが..)

また、TMEの一つであるカラオケアプリの全民K歌も大人気です。月19元で制限のない選曲や、高質の伴奏、歌の修正、ボイトレなどちょっと歌が上手くなりたい人、歌いたい人にピッタリな有料サービスが満載です。同じテンセント系だから曲が豊かで、PK機能もあって、簡単にミュージックビデオも作れるし、ソーシャル性が高いです。

ここで一気に冒頭の話に戻しますが、Spotifyのライブストリーミングやカラオケなどの機能開発によるビジネスレイアウトはTMEに似させようとしているのかもしれません。とはいえ、プラットフォームのためのソーシャルエコシステムを一から育てているわけで、より持続的な価値の解放を実現できるかどうかは未知数かなといった辛口な見解もあります。

はっきりしているのは、国内外のデジタル音楽プラットフォームが「大きく、包括的」な機能セットへと移行していること。そして異なる速度であれ変化しているということです。さらに、中国ではバイトダンスの新たな音楽アプリが革命を起こすんじゃないかと期待されています。

↑それについてはちょっと前にnoteで紹介しました、ぜひこちらも見てみてください。

中国の音楽アプリはいかがでしょうか。感想などコメントやツイートでいただけますと嬉しいです。

(参考資料)


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