最も語られていないボードゲームの戦略の要素(The most underdiscussed element of board game strategy)
本記事は、Anthony Faber氏が2022年4月9日に投稿した「The most underdiscussed element of board game strategy」の翻訳である。
かなり軽めの文章だが、内容はいつものとおり興味深い指摘がみられる。なぜ、ボードゲームが面白く感じられるのかについて分析するのに参考になるところもあるだろう。
元記事は以下のリンク先を参照されたい。また、ヘッダー画像はみんなのフォトギャラリー機能を利用させていただいた。
大量の文章を読むよりも、著者の話を聞きたいというのであれば、「Two Wood for a Wheat」のポッドキャストをチェックしてみてくれ。そこでは、以下の話題についての話はないが、ノルウェーのスターヴ教会(stave churches, ※樽板教会)と、新作の紙ペンゲームである「Riverside」について取り上げている。
今では、宇宙の大部分が目に見えないなんてことがわかっている。ダークマターやダークエネルギーを見ることができないから、目に見えている5%の宇宙について語るだけだ。ボードゲームに雑に当てはめてみれば(a tenuous analogy)、ボードゲームの戦略を構成する大部分も、表舞台に出てこないまま(sitting in the background)議論されている。存在していて、あらゆることに影響を与えていると分かっていながら、それについてはほとんど語られることがない。その代わり、厳しい決断、トレードオフ、勝利への様々な道筋等について語ることになる。けど、実際に、何が決断を緊張感のある厳しいものにしているというのだろうか。ゲームを引き締める(tight)ものとは何なのだろうか。
それはタイミングだ。多くのゲームでは、タイミングが全てだ。困難だがやりがいのある課題(The challenge)というのは、何をすべきかではなく、いつすべきかというところにある。タイミングは、かなり広範に及ぶ重要な問題なのだから、他の話題が取り上げられている中で話されるべきという人もいるだろう。しかし、タイミングの重要性に照らせば、それ自体独自に議論される価値のあるものだ。
タイミングは、どこから始めたらいいのかよくわからないほど、広大で素晴らしい話題だ。だが、現代において、ほぼ間違いなく最も人気を博している卓上戦略ゲームである「マジック:ザ・ギャザリング」から始めよう。このゲームでは、タイミングの重要性が広く認識されている。時には、たった1枚のカードをプレイする最適なタイミングについて議論されることがある。そして、そのタイミングは相手が自分のプランに干渉できなくなる、可能な限り終盤であると一般的に考えられている。多くの場合、このことは、相手方に対応する手がなく、引き続き自分の手番でできるアクションを構築できる時に、相手方の手番の最後となるようにカードをプレイすることを意味する。
いつスペルを無効にすべきか否か、いつ敵のクリチャーを除去すべきか否か、弱いクリーチャーをプレイして除去カードを引き摺り出す(suck out)か、今強いクリーチャーをプレイするか、自分の行動(plays)が止められないようにタイミングを見計ったり、自分の意図を隠そうとしたりすることに基づいた、いつが全てなわけだ。もちろん、「マジック:ザ・ギャザリング」には、タイミングを見計らう、より長期的な戦略的側面もある。例えば、マナカーブに正確に合うデックを構築し、マナが増加するにつれて、後続の手番で最大限効果的なカードをプレイするという感じだ。
「マジック:ザ・ギャザリング」におけるタイミングに関して、おそらく何百万という言葉が書き連ねられているが、タイミングは、あまり対立的ではない多くの卓上ゲームにおいても同じように重要だと思う。エンジンビルドゲームというコンセプト全体を例に挙げてみよう。ほとんどのエンジンビルドゲームにおいて、プレイヤーがリソースエンジンを構築することから、そのエンジンを得点に変換することに切り替える転換点がある。切り替えるタイミングが、勝者を決めることが多い。
もっと一般化すると(To go broader)、いかなるワーカープレイスメントゲームやアクション選択ゲームにおいても、プレイヤーは互いにアクションスペースに先んじようとして、他のプレイヤーがそのスペースを使うことを妨げたり制限したりする。こういったゲームでは、極めて重要なタイミングの判断がある。他のプレイヤーは必要としないけど、自分には間違いなく必要となるスペースを最初に取るか。あるいは、テーブル全体にとって最も利益のあるアクションを選択して、自分が必要とするアクションを誰も取らないことを祈るか。ここで留意しないといけないのは、他のプレイヤーが取ることができなかったり取ろうとは思わかったりするアクションを早期に取ることは、自分が必要な時よりも早くカードをプレイしてしまうという「マジック:ザ・ギャザリング」におけるミスとよく似ているということだ。
インセンティブ(incentivization)を用いたゲームは、適切なタイミングを判断する取引だ。このタイルを今買うのか、別のラウンドにとっておいてそれまでに安くなっていることを願うか、他の誰かが手に入れる前にお得な価格で手に入れられるかは全て自分のプレイのタイミング次第だ。「オリジンズ:ファーストビルダーズ」は、(建物タイル列において)このようなインセンティブを用いた最近のユーロゲームだが、他にも多くの興味深いゲームのテンポに関する問題がある。このゲームでは、ダイスを振らずに、ワーカーとして使用し、各ラウンドで価値が1つずつ増えていく。ワーカーを配置する場所も価値が上がり、プレイヤーは自分のワーカーの価値と場所の価値を少なくとも一致させる必要がある。そうしないと、その場所に置くためにペナルティを支払わないといけない。このように、自分のダイスの価値を高める時期と自分が置こうとしている場所との間でタイミングを見計らわないといけないことになる。
「オリジンズ:ファーストビルダーズ」ではダイスが6以上の価値になると、特別なワーカーのパワーをあげるためにダイスを使うのをやめる(retired)ことができたり、ゲーム終了時の得点のために自分の建物の間に置くことで即時ボーナスを得ることができたりする。プレイヤーは、大幅に停滞しないようにもっとダイスを手に入れるアクションを行うことができる時期や、(このゲームは固定されたラウンド数ではなくプレイヤーがコントロールできることから)後でダイスをもっと増やさないといけないという心配をすることなく、最終ラウンドの得点のためにできる限りダイスを使えなくするように、ゲーム終了のタイミングを正確に見計らうことができる時期に合わせて、ダイスを使わなくなるタイミングを見計らわないといけない。
「テオティワカン:シティオブゴッズ」は、ダイスの価値が増加していくと、使用できなくなるという実装を初めてしたが、空間的な工夫を取り入れた。つまり、プレイヤーは、ロンデル上のアクションスペースに到達するタイミングを見計って、自分のダイスがそのスペースに最適な状態となるように合わせたいと思う。プレイヤーは、3つのダイスの目が最高値となって信じられないほど素晴らしい手番にできる時に、それらを適切な場所に置くために数手番にわたって計画していることが多い。
ここで留意しないといけないのは、対抗したり対抗することを避けたりする強いプレイヤーインタラクションがあるゲームでは、タイミングが非常に重大となる可能性があるとともに、エンジンビルドゲームといった計画を立てることが必要なインタラクションの弱いゲームでも同じく重大となる可能性があるということだ。「ガイアプロジェクト」は、エンジンビルドゲームの計画的な要素があり、他のプレイヤーが同時に手に入れる前に特定の物を手に入れようとするレース要素がある。同じラウンドにおいて、ある惑星に一番乗りでたどり着こうとしたり、最初にパワーアクション(これは1ラウンドに1人しか使えない。)を行おうとしたり、得点のために最初にQICアクション(これも1ラウンドに1人しか使えない。)を行おうとしたり、最初に技術トラックの頂上にたどり着くプレイヤーになるか技術トラックの頂上付近にある特別タイルを手に入れようとしたりするかもしれない。これらの複数のレース要素全てが極めて重要であり、自分が急いで手に入れようとしている箇所に、いつ他のプレイヤーもたどり着くことができるようになるかとか、他のプレイヤーにとってどれほどそれが重要なのかとかを分析する必要があるわけだ。
これが、タイミングの問題の素晴らしいところだ。プレイヤー間でブロックし合うことでしかインタラクションが生まれないソリティアゲームにおいても、一般論として、動機の分析という興味深いインタラクションをもたらしてくれるだろう。そのとおり、みんなソリティア風にユーロゲームをプレイすることができる。しかし、もし、他のプレイヤーが何をしているのかに注意を払ったり、他のプレイヤーがその行動をした理由を理解しているのであれば、自分は他のプレイヤーのアクションスペースの優先順位をわかっていて、それに応じて自分の行動を最適化することができるため、より有利なアクション選択をすることができるようになる。
ユーロゲームにおいて、私の好きなタイミングの工夫例の1つとして、資源や目標に関する競争が起こるようになっていて、突然、みんながその競争をし始める時だ。「ヘヴン&エール」では、得点トークンの数に限りがあるが、あまりに早い段階でそれを使うと、十分な得点を得られなくなってしまう一方で、長い間、傍観していると、最後にはみんなが捨て身になって(sacrificing)それを得ようとするので、十分な得点を得られなくなってしまう。これは、一種の銀行駆け込み騒動(a bank run)のようなパニックに巻き込まれることを伴う古典的な早すぎる/遅すぎるパズルだ。
最後に、「グルームヘイヴン」に言及しないまま、タイミングに関する議論を終えることなんてできないだろう。カードアクションのタイミングが、このゲームを特別にしている秘伝のソースというわけだ。もちろん、プレイヤーがアクションをどれくらい速くするかに関して曖昧でいなければならないという不安定な状況に左右されるが、プレイヤー自身とモンスターがどれくらい速く動いてどの場所に行くかを予測して(see)公開することで、毎手番、どっちつかずの状態が生み出される。タイミングの習熟は、あるグループではゲームを支配して、他のグループではボロ負けしてしまう原因だ。つまり、プレイヤーは自分の動きのタイミングを見計らって、最も強力なモンスターの攻撃が当たらないようにしておく必要がある。もちろん、本質的には、同時アクション選択全てがタイミングに左右される。プレイヤーが最も重要と考える的確なアクションを公開する点が重要に思えるが、いつ公開するかという点も同じくらい重要となる。
タイミングの判断はボードゲームのあらゆるところに出てくる話ということで、私の好きなテンポに関する熟慮が求められるゲームをもう100個くらいおそらく挙げることができるだろう。けど、座ったままでゲームのタイミングに関する問題について他の人たちの話を聞きたいと思う。この記事を読んで、みんながタイミングがメカニズムではなく、膨大な検討事項のリストに囲まれて(amidst)考えるようなものでもないが、全てのボードゲームのメカニズムやほとんど全てのゲームにおけるプレイヤーの決断にとって根本的な話であって、ゲームを素晴らしくするものという観点からより多くの議論を費やすべき価値のあるものだとわかってくれることを願っているよ。コメントの中でみんなが考えたことを教えてほしい。そして、いつもと同じように、読んでくれてありがとう。
以上
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