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「男らしさ2.0」の体現者たち

この「女殴ってそうシリーズ」、Twitterをしていれば一度は目にしたことがあるのではないだろうか?見たことが無い方はTwitterで「女 殴ってそう」で検索してみて欲しい。上目遣い、明るい髪色、瞳クリクリの可愛らしい男性自撮り写真や、それに近い画像が多くヒットするはずである。

重ための前髪で目元を隠したようなマッシュヘアは、随分前からバンドマンに多く見受けられる髪型だ。クリハイ、キュウソ、ゲス、ドロス、神サイ、アイビー、オーラル、フレデリ、マイヘア、ペリファンなどなど、有名どころだけでも思い当たるバンドは数えきれない。(ギターやマッシュヘアが男性器を象徴しているとか下世話な話はしません。)

このような中性的なビジュアルの男性の増加は髭やオールバックなど旧来の男臭さよりも、「可愛く小動物のような無害さ」が女性から望まれていることの反映のように思う。

もちろん、マッチョで褐色肌のEXILE系男性も人気がない訳ではないのだが、幅広い女性からウケがいいのは間違いなく旧来の「男らしさ」を捨て去った男性だろう。少なくとも世の女性を魅力する男性アイドルには、前者のようなオラオラさは見受けられない。


_何故、ビジュアル的に旧来の「男らしさ」を脱ぎ捨てたはずの新たな男性像が、Twitterでは早くも暴力性の象徴のようになってしまったのだろうか?冒頭に登場した「女、殴ってそう」というワードを見たことがある方なら察しがつくと思うが、ミスター慶応を筆頭に、中性的ビジュアルで無害性を身にまとっていた男性による性的暴行事件が世間を賑わせた時期があった。

バンドマンの髪型やジャニーズの不祥事などを背景に、ミスター慶応による性的暴行事件が、ネット上における「中性的ビジュアル男性」の印象を決定付けてしまった気がする。

ギャップというある種の物語が認識を容認しやすくする様に(黒髪清楚=腹黒や金髪ギャル=純粋、など)その可愛らしく、あどけない見た目からは想像できない程の粗暴さ、荒っぽさ、性欲の強さ、などが「中性的な見た目の男性=女殴ってそう」に説得力を与えたのも大きな要因かもしれない。


_私の世代で「不良」と呼ばれる少年達は既に、一昔前の硬派な男らしさよりも、爽やかで純粋に「イケメン」と呼ばれるようなビジュアルの男が少なくなかった

私よりも10歳ほど年上の方とネット上で話していた時、「今の高校生は俺が学生だった頃よりも幼く見えるんだよなぁ」という事を話していたのを思い出す。私は「それは単純に〇〇さんが歳とっただけじゃないですか?」などと適当な返事を返していたのだが、今思えば彼の言っていたことも間違いではなかったのだろう。

冒頭ではバンドマンの髪型の話題から「見た目における新たな男らしさ」の話に踏み込んだが、中性的なビジュアルというのはバンドマンや慶応ボーイに限った話ではない。

『高校生ラップ選手権』や『フリースタイルダンジョン』などの番組が人気となり、日本のhip-hop業界は空前のバトルブームを迎えることとなった。そして、MCバトルという文化がアングラだったことから活躍していたラッパーとは、明らかに異なる風貌のラッパー、俗に言う「00世代」のラッパーが今では現場の最前線で活躍している。

現場に居るような一昔前のラッパーであれば、髪型はそれこそボウズ、コーンロウ、ニグロ、スキンヘッド、ツイスト、などなど、どこか黒い雰囲気の漂うヘアスタイルが主流だった。

しかし、リンクに記載されている動画を見てもらえばわかるように、00世代のラッパーにはそうした「アイコンとしてのラッパー的風貌」はあまり見受けられない。髪型も先に記したバンドマン風のヘアスタイルとほとんど変わらず、マイクを手放して街を普通に歩いている分には、彼らがラッパーであることなど想像もつかないだろう。

しかし、私のツイートのリンクにある通りこうした風貌のバトルMCほど侮れないし、侮ってはいけないのだ。彼らはその見た目からは想像できない程のハイレベルな押韻と、バチバチのDISを繰り出してくる。相手が年上や尊敬する先輩でも全く物怖じなどせずに果敢に挑んでいく。個人的にはバトルで最も当たりたくないタイプだ。


_私たちは今、新たなる「男らしさ」が台頭し始めているのを目撃している。それは日常からではなく、バンドマンやミスターコンテスト出場者、ラッパーという男らしさで覇を競う最前線から変わっていくのかも知れない。

暴力的で加害性を帯びた見た目を捨て去り、女性のニーズという新たなる環境にいち早く適応し始めた「男らしさ2.0」の体現者たちは、今後私たちの勤める会社や組織、共同体など至る所で目撃され、その場所におけるリーダーや中心人物のポジションに収まっていくのではないだろうか。

もし、そういった相手が同期やライバルとして現れた時には、決して油断してはならないだろう。相手は見た目こそ無害そうで、どこかあどけなく見えるかもしれないが、そうしたビジュアルが好まれるという環境にいち早く適応した「エリート男性」である可能性が高いからだ。

おいしいご飯が食べたいです。