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K君との思い出、初めての××××××

小学生の頃、家が近所で遊ぶ機会の多かったK君という友達がいた。彼は小さい頃から運動神経が優れていて、体育の授業中や休み時間には身体能力の高さを遺憾なく発揮し、運動会などのスポーツ行事でも活躍見せていた。

彼は運動神経が優れていただけでなく、小学生の頃から既に「雄としての優秀さ」も兼ね備えていた。弱きを挫き、相手をバカにした態度は絵に描いたようないじめっ子だった。

中学生時代の話になってしまうのだが、K君と一緒に学校から下校中の事、隣のクラスの女子が友達と一緒に自転車で下校しているのを見つけると、「知ってるかヤマー?あいつ修学旅行に行く金も無いぐらい貧乏な家なんだよ、今あいつが乗ってる自転車もお下がりのチャリらしいんだわ」と私に話しかけてきた。どうやら目の前の女子を貧乏人という事で馬鹿にしていたらしい。

フィクション、ノンフィクションを問わず、貧乏人が主人公の作品など当時いくらでも存在していたし、そうした主人公の境遇を蔑む三下キャラのような登場人物もいくらでもいたと思うのだが、彼の中には「貧乏人幻想」は疎か「三下ムーブ」といった概念すら存在しなかったらしく、本当に「貧乏=ダサい」ぐらいの感覚で私に語り掛けていた。

「漫画の中に出てくる悪役みたいなヤツだな」などと心の中で思いながらも、私はK君の機嫌を損ねないようにただ愛想笑いで対応していた。


_そんなK君は小さい頃から一緒に遊んでいるグループ内の一人をターゲットに決めて、そいつの事をイジり続けたり、仲間外れにすることが多かった。そうしてメンバー内での地位を揺るぎないものとしながら、グループ内の結束を強めていたと思う。

ただ、本格的ないじめのように誰か一人を徹底的して疎外することは珍しく、その時の遊んでいる内容によってK君のターゲットにされる人物は違っていた。鬼ごっこや縄跳び、テレビゲームなど、今みんなで遊んでいる競技の中で一番能力の振るわない子がK君のターゲットにされることが多かった。

ある日の休み時間、いつものように友達と鬼ごっこなどで校庭を駆け回っていた時、私がK君のターゲットにされてしまう事があった。K君を含む友達は皆体育館の隅にある秘密基地で休憩していたのだが、私はそこに入れてもらえず「こっちに来るんじゃねぇよ、死ね」と言われて仲間外れにされてしまった。

当時の私はK君から発せられた「死ね」という言葉に何故かとてつもないショックを受けた。別にそういわれることは珍しくないし、私もしょっちゅう口にしている言葉だったのだが、その日は何故かその言葉がやたらと胸に響いてしまったのだ。

仲間外れにされたことがとても悔しかった私はK君を驚かせてやろうと、体育館付近に落ちていたガラス瓶の破片で自分の手首をズバズバと傷つけていた。そこまで深い傷をつけることはなかったのだが、ガラスの破片は手首の皮膚を切り裂いて血を滲ませるには十分な切れ味だった。

再びK君と友達の元へ戻るとK君がこちらを鋭く睨みつけてくる。その表情と「なんだよ」という低い声から「お前の居場所はここにはねぇぞ」という強い意志が伝わってきた。しかし私は怯むことなく「やっぱ死ねんわ」とリストカットした手首をK君に見せつける。

険しい表情から一変、驚いて目を丸くしたK君の表情は今でもハッキリと思い出せてしまう。「ばか!お前冗談だって!」と焦るK君。その場を支配していた空気を一瞬で変えることに成功した私は心の中でニヤニヤとほくそ笑んでいた。

その後K君は私と一緒に保健室まで付き添ってくれたのだが、自分の心無い言葉のせいで私が自傷行為に走ってしまった事が先生にバレるのを恐れていたらしく、私は「大丈夫、大丈夫、適当な嘘をついてごまかすよ」と自信満々で保健室の扉を開いた。

保健室の先生には「ガラスの破片が転がっている場所で転んでしまった」と本当に拙い嘘を口にしたのだが、先生もそこはあまり深く言及することなく傷の手当てをしてくれた。当時の私は完璧な嘘で大人を騙したと思っていたのだが、どう考えても確実にバレていた嘘である。


_大人になってからもK君と交流する機会は何度かあったのだが、小さい頃からのいじめっ子気質はそのままらしく、同じ小学校だった地元のメンバーで集まると昔のような振る舞いを繰り返していたらしい。大人になってからもK君と付き合いあったT君は、K君のいない食事の席で「Kは俺の事絶対に馬鹿にしてくるから、一緒にいるのが時々しんどいよ…」と悲しそうに呟いていた。

私とT君は頻繁にK君のターゲットにされていた二人組である。大人になってから改めてK君との思い出を語り合ったのだが、やはり当時から互いにK君に対するしんどさを感じていたらしい。

大人になってからもしっかりと「雄としての優秀さ」を発揮しているK君と、小学校低学年の頃からリストカットでメンヘラ気質を発揮してしまった私との違いは何だったのだろう?

他人に対してシバキのような力強さを発揮しなくてもいいのだが、もう少し男らしく人生をサバイブしていけないものだろうかと、こんなnoteを綴りながら小さく唸ってしまった。

おいしいご飯が食べたいです。