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ロックに生きたかった人生について

「マーシャルの匂いでとんじゃって、大変さ」
椎名林檎の丸の内サディスティックを口ずさみながら、駅前のカフェから12分の帰り道。東横線の赤い横線が入った10両編成が通り過ぎる中、8m前を歩く夫婦にはギリギリ聴こえないだろう音量。ワイヤレスのイヤホン、両手はポケット、紺色のスニーカー。間奏で軽く目を閉じてみたりしながら、慣れた足取りで交差点を右折する。あくまで僕が主人公のこの人生でも、日常はいたって凡庸だ。

「普通が幸せ」だとか「日常の中に喜びが」なんてことは百も承知な上で、そしてこの日常は自分の過去の選択の結果だとも知った上で、やっぱりロックに生きたかった人生について考える。

椎名林檎だって言っている。
「本当のしあわせは、目にうつらずに。案外そばにあって気づかずにいたのですが」
どんな人生を過ごそうが、最終的に辿り着く場所がこのセリフであることは想像に難くない。そんなことは分かった上で、体内のロックが騒いで仕方がない。

鍵をあけて電気をつける。シャワーがあたたまるのを待ちながら雑に服を剥ぐ。シャワーを浴びると歌を歌いたくなるのはなぜなのか。アニメかドラマの影響か、家族がそうしていたのか。遅くとも中学生の頃には歌っていた気がする。
「君はロックなんか聴かないと思いながら、少しでも僕に近づいてほしくて」
あいみょんの恋人になって、無理やりロックを聴かされたい人生だったと思う。シャンプーはHimawari。なんとなくのせめてもの抵抗かもしれない。

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