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詩30「あした暗黒星雲のほとりで」

つま先から死後硬直が始まって
つらい日々に
さよならができる
嬉しい
そのとき
窓の外から
鳥の羽音がした
ものすごく
たくさんの
鳥みたいなものに
あおむけにされ
たましいだけを
抜き取られた
わたし

いろんな世界の、いろんなひとの意識が固まってる何かにアクセスして、中に取り込まれる。愛も戦争もごちゃまぜの集合体だ。わたしの記憶も分断される。がりがりと歯車で摺りつぶされる。夏休みのアサガオの種、きれいな消しゴムのにおい。それがなんだっけ。お母さんが死ぬ前に毎朝出してくれた牛乳のコップの、伸びる影の中のひかり。そのひかりをわたし大事に持っていたから、まだわたしがわたしとわかるようだ。歯車は止まった。わたしはそのひかりをいだき、記憶の亡者の層を抜けて上層へ至った。そこは宇宙でわたしは水滴だった。水滴のたましいはたくさん浮いていて、産まれそうなたましいは中には胎児が入っている。わたしはしばらくこのままで、宇宙の果てを漂うことになるんだろう。暗黒星雲をみた。懐かしい色。お母さんのお腹の色だ。涙は出ないのに涙腺が痛いような気がした。雪が解けて春が来るとどうしても思えなかった。だから後悔はしていない。このまま何年も生まれ変われなくたってそれは罰だと思う。ただおかあさんともっといっしょにいたかったな。


2023年ココア共和国3月号佳作集Ⅰに掲載していただいた詩です。

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