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詩29「コールマイネイム」


彼女は最近重くなってきた子供を暖かくして前に抱き
真駒内駅に向かうことにした
真駒内駅は札幌の地上に出ている地下鉄駅
バス乗り場があるから待合室は広い
そこに行こう、と鏡を見る
化粧をしていないそばかすのある赤い顔だ
まだ十代に見えるのか十代なのかわからない

なまえをよんで

彼女が待合室に行くと、真ん中にストーブがあり、
ほどほどに人がいた
外はひどい吹雪になってきたから、逃れて入ってくる者もいた
彼女は逡巡して、まずは本を読んでいる女学生に声をかける
「こんにちは、あなたを浄化させてください」
声を出した瞬間、人々は何か思い出したようにその場から去った
女学生はボロボロの彼女の姿を見て何も言えなかった

わたしのかたちを

彼女は誰もいなくなった待合室で女学生にお経を唱える
が、途中から忘れてしまう
ふつりと、糸が切れるように
女学生は逃げるように立ち去った
ストーブだけがぱちぱち爆ぜた
彼女はますます赤くなった顔で、ずり下がった子供の位置を直した
子供は泣き出す直前だった

おもいださせて


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