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V1G/V2Gユースケース(事前知識編2)

前回記事ではV1G/V2Gのユースケースを考える上での前提として、TSO、DSO、そしてPCSが何を監視するのか述べました。

再度振り返ると、

  • PCS: 構内(家とか)の電流

  • DSO: 配電系統内のアセット(トランスとか)の電流や電圧

  • TSO: 周波数(需給バランス)

です。

これの裏を返して、なぜこれらを監視したいのかまずは考えます。
これらが結果的にユースシナリオ(価値)となります。

PCSやDSOの電流監視の意義

前回書いた通り、PCSは構内の電流を監視、制御して監視対象の定格を超えないようにすることが機能的意義です。
そのPCSを自宅やビルに設置するケースがあるからPCSが必要なわけです。そのケースは2023年版のNECに求められます。
NEC上ではEMSと呼ばれますが、PCS(EMS)に対する技術的な箇条番号は750.30で、例えば充電器に関する箇条(625.42)などで750.30が参照されています。

例えば新たにEVのF-150 Lightningを購入して、家で充電するためにAC充電器を設置するとします。
極力速い充電が望ましいので、WallboxのPulsar Plusという12 kW弱(@240 Vrms), すなわち48 Armsで充電できるAC充電器を設置します。


※F−150は最大でも19.2 kWで充電できます。またSAE J1772の旧版上はAC充電の最大電流は80 Armsなので、アメリカで一般的な単相3線240 Vrmsを考えれば19.2 kWが最大です。
現実問題19.2 kWで充電できるAC充電器はほとんどないですが。。。
一般的なのは30 Aクラスでしょう。それでも7.2 kWで電力的に見ればこれであっても家一個分の電力消費が増えるようなイメージです。遅いというイメージで語れがちなAC充電もかなりの電力を消費します。
また、低い電力のAC充電器にしたら全ての問題が解決するわけではありません。
おそらくNECを真剣に読めば書いてあるのかもしれませんし、Utilityごとのルールがあるのでしょうが、知人の話ではAC充電器を買ったら家の分電盤のアップグレードが求められた、というケースもあります。
結果的にPCSがあればこれも避けられた可能性があります。


問題

家のメイン(主幹)ブレーカは一般的には100 Aが使われています。NEC上80%ディレーティングが要求されるので、使えるのは80 Aです。
充電器だけで半分以上の使える電流容量を食うので、分岐回路に接続される負荷の最大電流を足し合わせてメインブレーカを選ぶNEC的にいえば、もう一つ上のブレーカを選ぶようにUtilityから言われるでしょう。(箇条的には220.40)
そうすると必然的に分岐回路に行く途中のバスバーや電線もアップグレードされます。これらはそのまま銅の価格がかかってきますし、徐々に部品の流通性も悪くなってくるので高くなります。

PCSの意義

でもそもそもAC充電器と家にある家電全部同時に使うのか?と思いませんか。
例えばドライヤーしながら突然エアコンの温度設定を最大/最小にしてかつ同時にEVとAC充電器を接続しますか?
しないですよね。
ということで、安全面でのワーストシナリオ(最大負荷の全加算)を適用しなくても良いように考えられたのがPCSです。
つまり、PCSを設置してきちんと電線やブレーカなどの部品の電流定格を守るように監視、制御していれば、アップグレードを回避することができます。これが箇条220.70や625.42の言っていることです。

DSOにおける電流監視の意義

これをさらにDSOに当てはめます。
NECは配電網には適用されません。確か似たような何かがあったはず。。。ですが知らないのでとりあえず今まで色々な人から話を聞いたことをまとめると、似たような考えで、全家庭の主幹ブレーカの全加算(ワーストシナリオ)で配電網の2次側を設計するようです。
2次側なのですなわち柱状トランスや家に到達するまでの電線などです。

先にも書きましたが、EV充電設備を追加すると、ざっくりいえば家一戸分増えるイメージです。
仮にその2次配電網内にEVが全宅に追加されたら。。。先ほどのPCSの話同様のことが起きるわけです。

ではこのコストを誰が負担するのか?というのが難しいところです。
当然Utilityが所有するアセットなのでUtilityが払うことが多いようですが、そうなるとUtilityとしてはEV増加を望まなくなります。
ということで、いかにUtilityのupgrade deferral (投資回避)を増やすかということでNon-Wire Alternative (NWA)と呼ばれるソフトなどによる対応が求めらています。
これがVGIの根っこにあります。

DSOにおける電圧監視の意義

当然ですがコンセント差した時に家電は壊れないですよね。
これもNECがANSI C84.1に規定する電圧内に供給電圧が収まるように要求されているからです。
言い換えれば、DSOはこの電圧範囲内にAC電圧を制御する義務があります。
例えばこれは柱状トランスから物理的に遠い家であっても同じように適用されます。したがって、Utilityはその辺りを勘案して柱状トランスでの電圧を決めるようです。
また、トランスのタップ(巻数比)切替もできるので動的に電圧をある程度は変えることもできます。

さて、柱状トランスを固定の電圧源とみなしたときに、その電圧と需要家(ある家)に供給される電圧との差はどれぐらいあるでしょうか。
これは古典的なオームの法則V = I Rが影響するのは勿論です。つまり、ある家がやたらと負荷を持っていて電流を引っ張りまくれば電圧がその分下がります。

それだけであればいいのですが、電線にはインダクタンスや静電容量、そして負荷には誘導性負荷(例えば昔の冷蔵庫のようにインバータなしで駆動される誘導モータ)や容量性負荷(身近なもので何があるだろう。。。)があるので、これら組み合わせで複雑に決まります。
この複雑さを一言で置き換えると有効電力と無効電力、そして電線の抵抗成分(レジスタンスR)とリアクタンス(X)が影響します。

この辺りはフェーザ図が必要になりますが、虚数的な概念が役にたつ世界です。

ということで、無効電力を供給(injection)もしくは吸収(absorption)することで供給電圧を範囲内に収めることに貢献できます。
無効電力のよさは、理想的には有効電力とは全く別物で電力源を必要としないので、例えば夜間に太陽光発電システムからも供給できる点です。

まとめ

今回はPCSやDSOの電流監視の意義、そして電圧監視の意義を記載しました。
結局は電流を減らしましょうね、無効電力をいい感じに入れ出ししましょうね、というのがUtilityからの要望になります。

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