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寂しなごり雪

今、春が来て君は
綺麗になった
去年よりずっと
綺麗になった
去年よりずっと
綺麗になった
去年よりずっと
綺麗になった



雨降る夕方。僕は無事に仕事を終え
重だるい体を揺らせて帰路についていた

僕がこの街で過ごす中
「国内留学に来ているんだ」と
何度も何度も、言い聞かせた。
これは自分にとってしんどいことが
起こっている時に落ち着かせる魔法の言葉

誰がしたのか分からない大小の便。
昼夜変わらず見かける所々の嘔吐物。
数多のサイレン、クラクション。
僕の触覚以外を強烈に刺激する
正直見なくて良いなら絶対に見たくないし
積極的に聞きたくはない
けれど当の本人も
鳴らしたくもないし漏らしたくもないのかもしれない。
見る側の怒りと悲しみ、
見られた側のどうしようもない寂しさ
そんな経験を通して抽象的に考え込んでいる自分がいる。

今日の帰り道も例に漏れず、魔法の言葉を自分に投げかける。
「国内留学だ。これは国内留学だ。貴重な経験だ」
この後家に帰ったらやる事がいっぱいあることを思い出して重なり
つい辟易してしまうような帰り道。
雨音に耳を傾ける余裕もなく、雨からただただ逃げるように商店街に入った。
ただただ、早く帰りたくて。
ただただ、靴を濡らしたくなくて。

商店街に入ると色んな方面から音が耳を尋ねる
パチンコ店の聞き飽きたアナウンス。
自転車のチリンチリン。
この町で少し珍しいサラリーマンの世間話。
そしてカラオケ居酒屋から漏れる歌声。
どれもなんとなく聞き慣れたような聞き慣れないような、落ち着くけど新鮮な気持ちだ

少し歩くと
商店街全体に響くような大きめの音量で
イルカさんのなごり雪が聴こえた
「誰が歌っているんだろ?結構上手だな〜」
そんな風に思いながら歩き
気がつけば音の源泉に辿り着いていた。
お店の名前は忘れた。割と綺麗めなカウンターが見え、奥に5〜6人の年配のおじさんが居た
そしてカウンターに立ち歌う女性の姿があった
それはなんだか、みんなの気持ちがぎゅっと
詰まったような特別ななごり雪だった。

この街は色んな街で生活できず流れ込んで来ざるを得なかった人、押し付けられるように連れてこられた人。厄介者としてラベリングされたりどうしようもないと言われたりした人もいる
そんな彼らが住む街に轟く、なごり雪。
僕にはなごり雪の歌詞とタイトルそのものが彼らと重なった。
日本の季節は春を迎えようとしてるが、ここは年中雪が残っている。
溶けゆく先はなくただただそこにある

そんな気がした

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