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メタモルフォーゼの縁側

最初の投稿で書いた通り、僕は今年に入ってドラマにはまった。その時の投稿では書かなかったけど、理由は簡単だ。僕は、とある女優の推しの沼に落ちたのだ。

明らかに沼落ちしているという感覚はあった。まるで「泡のような愛だった」の2曲目、「染まる夢」のようだった。

あからさまにこんな態度で あたしはこれからどうするんだろう
あなたを好きになったのは明確で

染まる夢

その一方で、自分でも自分の身に何が起きているかわからない、という戸惑いも大きかった。

家の茶の間には、これまで頑なに買うことを拒否してきたテレビとBlu-rayレコーダーがいともあっさりと導入されたし、雑誌特集のオフショットが見れるというだけでd-マガジンも登録した。芸能人の写真集を買うことになるなんてこれまでの人生で全く想像していなかったけど、Amazonの購入ボタンを押す僕の指には一切の迷いがなかった。これまで出ている円盤という円盤を並べるために棚を増やしたし、円盤化されていないドラマをいつでも見れるように、FODは初回無料期間が終わっても契約を続けている。

本当に、人生どこでどうなるか分からない。

そんな自分に戸惑いながらも、なんだか微笑んでいる自分がいることに気づいた。これが僕の愛の病なんだろう、と気が付いたからだ。

この出逢いであたしの体が
変わってゆくものなんだって
照れくさくて微笑みました

愛の病

推しとの出会いであたしの体が変わっていく、そんなメタモルフォーゼの瞬間がやってくるのは、いつも唐突だ。

***

そんな僕におすすめの映画がある、と僕のエンタメ仲間(僕に「コントが始まる」のDVDをくれた友人だ)が教えてくれた。そういうわけで、僕は「メタモルフォーゼの縁側」を観てきた。

芦田愛菜さんが演じる引っ込み思案な高校生「うらら」と、宮本信子さんが演じる夫に先立たれた老婦人「雪」が、BL本を通して交流していく。二人の友情を通してうららは大きな挑戦と挫折を味わうけれども、自分の感情に素直になれるように成長していく。そんな過程が、静かに優しく描かれている映画だった。

お二人の演技はもちろんだけれども、脇を固める役者さんたちの好演も印象的だった(なかでも、コントが始まるにも出ていた古川琴音さんはとても良かった)。

印象に残ったシーンやセリフはいくつもあったけど、一つだけ(本筋からは少し外れるシーンだけど)スクールカースト上位の女子同級生との関係についてが印象的だった。

BLが好きなことを、見知らぬカフェの店員にたいしてすらひた隠しにするうらら。それなのに、スクールカースト上位の、ロングヘア髪さらさら女子が、こともなげにBL本のことを話してクラスの話題の中心になる。そんな同級生の姿を見て、うららが「ずるい」という。

僕もスクールカーストは上位ではなかったから、うららのこの屈折した感情は理解できる。推しは好きなだけ推せばいい、それだけのことに他人の目を気にして遠慮する必要はない、と思っても、そう行動出来たら苦労しないと思ってしまう。

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aikoファンにとっての芦田愛菜さんといえば、やはり「まとめI・まとめII」、そして「aikoの詩。」のCMだろう。とくに「aikoの詩。」では、14歳になった芦田愛菜さんが、当時6歳だった「まとめI・まとめII」のころの自分と共演する、という何とも感慨深い設定だ。

「今日もaikoを聴いて恋のお勉強をしなきゃ」という、おませで天真爛漫な6歳の芦田愛菜さんに対して、aikoの曲に押されるようにして恋の一歩を踏み出そうとしている14歳の芦田愛菜さんが「生意気言っているな」という。

今振り返ってこのCMを見ると、月並みだけれども、人間にとっての思春期は、昆虫にとってのメタモルフォーゼと同じくらいの変化の時だということを感じる。

そして、「メタモルフォーゼの縁側」では、高校2年生から3年生にかけて、自分の好きなものや異性の幼馴染に対しても一歩踏み出せる人間へメタモルフォ―ズする芦田愛菜さんが見ることができて、何かすべてが一つにつながった気がした。天才子役ももう来年には大学生なんだ。

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思春期ほど劇的ではないにしても、何歳になってもいつどんなメタモルフォーゼが起きるかわからないのが人生だろう。75歳になってからBLにはまった雪が、しみじみと「人生どこでどうなるか分からない」と言っていたわけだし、これは間違いない。

そんなよくわからないものが人生だけど、推しは推せるときに推す、大切なものは大切にする、ということを守っていけば、きっと「雨が降ってもその先に虹が見える」。そういう穏やかな気持ちにさせてもらえる映画だった。

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