メロンソーダのこと

最近、訳あって人生でこれまでにないくらいドラマを観ている。2004年から2021年までの20年弱で観たドラマは思い出す限り「半沢直樹」の1本だけだった僕が、だ。僕は2003年に(藤木直人と上戸彩が出ていたほうの)「高校教師」を観て、文字通り人生が変わるくらいの影響を受けてしまって、それ以来、なんだかドラマを観ることに価値が見いだせなくなってしまっていた。それで、親元を離れてからもずっとテレビすら買わずに過ごしてきた。だから、僕の中では「逃げ恥」も「あまちゃん」も「おっさんずラブ」も「愛の不時着」もどれも、ナイツの時事漫才か流行語大賞を通して知るだけの存在にすぎなかった。でも、人生何が起こるかわからない。

そんな僕の変化に気づいた友人が、おすすめのドラマをDVDに焼いて渡してくれた。そんなきっかけで、僕は「コントが始まる」の第一話を観た。菅田将暉と神木隆之介と仲野太賀が鳴かず飛ばずで結成10年を迎えるコントグループ「マクベス」を演じ、有村架純が大企業を辞めてファミレスでバイトしながらマクベスの追っかけをする女を演じる。劇的などんでん返しがあるわけでもカタルシスがあるわけでもない。ただただ、20代後半の迷える若者たちの苦悩を演技巧者達が演じ、見事な脚本がコントで提示された伏線を丁寧に回収していく。エンタメ事情通の友人が、何の前触れもなく薦めてくることがうなずけるドラマだった。

「コントが始まる」第一話は、関わった水関連のものがすべてメロンソーダになってしまう男のコントだ。さんずいがつく漢字すらメロンソーダに変わってしまうから、ラーメン屋の店主の名刺は「メロンソーダ、メロンソーダ、メロンソーダ太郎」になってしまう。なんだそりゃ。結局、この伏線は酔っぱらった有村架純が見事に回収していくわけだけど、それはこのnoteの本題ではないし、そもそもネタバレになってしまうので、ここではこれ以上は書かない。

さて本題。僕のnoteのアカウント名から分かるように、僕はaikoのファンだ。どれくらいファンかというと、僕は今「ROCK KIDS 802」でaikoの新曲の初オンエアを聞きながらこのnoteを書いているし、桜の季節にメロンソーダの話を聞いたら、「どうしたって伝えられないから」に収録されている「メロンソーダ」を反射的に思い浮かべるくらいには訓練されたファンだ。

メロンソーダがビールになってハンバーガーはハンバーガーのまま

メロンソーダ(作詞 AIKO)

だから、さっきから「最後にメロンソーダを飲んだのはいつだっただろうか」とずっと考え続けている。少なくとも大人になってからはメロンソーダを飲んだ記憶はない。それこそ、高校生の時、部活帰りに街中のモスバーガーで、ハンバーガーを食べながら飲んだのが最後かもしれない(もしかしたら、山ぶどうスカッシュだったかもしれないけど、もうだいぶ昔のことだから記憶があいまいだ)。

僕のnoteのアカウント名から分かるように、僕はビールが好きだ。どれくらい好きかというと、僕は今、缶ビールを飲みながらこのnoteを書いているし、桜の季節にビールを飲んでいたら、「どうしたって伝えられないから」に収録されている「メロンソーダ」を反射的に思い浮かべるくらいにはビールが好きだ。だから、ハンバーガーを食べるときに飲むものは、ここ最近ずっとビールだ。メロンソーダを飲みながらハンバーガーを食べていた青春には二度と戻れない。aikoが繰り返し歌っているように、季節はあっという間にめぐり、僕たちはあっという間に大人になってしまう。

あっという間に想像していたより
ずっと早く春は過ぎる
きっとまたすぐに暑くなって
次は肩をすぼめてマフラーをまくんだ

メロンソーダ(作詞 AIKO)

けれど、大人にはビールがあるから何も問題ない。辛いことがあったら、ビールをしこたま飲んでしまえばいいし、それでも物足りなければ、酔い覚ましのために恵んでもらったミネラルウォーターのペットボトルに、メロン味のお菓子の粉末を混ぜてしまえばいい。

僕はDVDをくれた友人に、お礼に少し珍しいクラフトビールをあげた。僕もその友人も、「マクベス」のメロンソーダの伏線が回収されたことに感謝しなければならない。ビール好きにとってみれば、ビールを片っ端からメロンソーダに変えてしまう人なんて、疫病神以外の何物でもないから。

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