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気がついてしまうことのうっすらとした嫌感


私は今日駅のトイレの鏡の前にいた。マスクの下の汗を拭いたり、リップクリームを塗り直したり、他の女性の品定めをしながら駅のトイレの珍しくもない風景の一部分となっていた。

マスクを外した自分の顔を見る。いつもとどこか違う。「いつも」というのが何日前のことかはわからないが、でも何となく違和感を感じる。何分くらい見つめだだろう、そしてうっすらと気がついた。ピンクだ。ピンクのチークだ。これが気持ち悪いくらい似合ってないのだ。

年配の知人が以前言っていたことがある。
「ある日、突然、白いTシャツが似合わなく時が来るよ。それと同じようにピンクのチークが似合わなくなったりするよ...それは突然来るのよ、昨日までは平気だったけど今日からはダメって時が」

それが来たのだと思った。ティッシュで頬を擦ってピンクを落とす。そしてマスクをして何事もなかったようにトイレを出る。実際は何事もなかったのだ。誰も私のピンクのことなど気にもしていない。誰が中年のオバサンのチークがピンクかどうかなんて気に留めるものか。

だた、私の中ではひとつの時代が終わったようだ。次の時代に向けて私は今日から歩み出さなくてはいけないという覚悟が重くのしかかっていた。

外に出ると、カラフルメイクで何の悩みもなさそうな若者が街を颯爽と歩いている。こういう時だ「くそっ!」と思うのは...

帰宅してピンクのチークを捨てる。それに合わせ使っていたピンクの口紅も捨てる。まだ半分も使ってないのよ、高かったのよ、とぶつぶつ言いながら。あぁ、新しい化粧品を買わなくっちゃ。

Tシャツは...まだ大丈夫みたい(ギリギリで)首についたシワはカウントダウンを意味しているのかもしれないけれど。


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