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[私小説] 霜柱を踏みながら

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私小説です。時系列でなく、思い出した順番で書いてます。私の個人的な思い出の物語です。
このマガジンは私の私小説風のエッセイで、月に3本くらい2000文字前後の作品を投稿していく予定です…
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2021年3月の記事一覧

ひくひくとウサギの餌を食べてる

一歩進むごとに、過去の一歩が失くなっていく。 いつかこの場所もゼロになってしまうのだろう。 『霜柱を踏みながら 7』 ニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジにある小さなカフェで私はスピナッチサラダを食べていた。生のスピナッチ(ほうれん草)の上にスライスされた生のホワイトマッシュルームがトッピングしてある。それにマスタードドレッシングをかけて食べるのが私のお気に入りで、週に3回はこのカフェに来て必ずスピナッチサラダを注文していた。ニューヨーク名物でもないのだが、どこのカフェやレ

ひっそりと私は不幸になりました

一歩進むごとに、過去の一歩が失くなっていく。 いつかこの場所もゼロになってしまうのだろう。 『霜柱を踏みながら 6』 母は私の3メートルくらい先を歩いていた。母の後ろ姿からは怒りとどうしようもない諦めのようなものを感じた。怒りは間違いなく私に対してだろう。諦めは何に対してなのか誰に対してなのかわからないまま少し大袈裟に肩を揺さぶりながら歩く母の後ろ姿を見ながら歩いた。 私は自転車が欲しかった。何度も何度も両親に買って欲しいとお願いしていたのに「今度の誕生日まで待って」「今

ありがとうを届けに行かねばならないの

一歩進むごとに、過去の一歩が失くなっていく。 いつかこの場所もゼロになってしまうのだろう。 『霜柱を踏みながら 5』 2018年11月末、私は大阪・鶴橋駅発奈良行きの特急電車に乗っていた。冬間近だというのに暖かくて、出かける間際まで悩んで上着は持って来なかった。電車内は奈良観光に行く人で満席に近い状態だった。そのテンションの高い人たちの熱気でセーター1枚でもちょっと汗が滲むくらいで上着を持ってこなかったのは正解だと思う。指定の窓際の席に座って今日をどう振る舞うべきか、どう振