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優生思想に対抗するスマートな戦術【ネタバレ注意】

僕が実践している、優生思想への小さなレジスタンス活動を紹介します。そしてもし共感していただけたなら広めてもらいたい。
結論は『作品を勧める』こと。
以下、盛大なネタバレ注意になっているので未視聴で気になる方は目次で確認して読み飛ばして欲しい。そうでないなら、ごく普通の作品紹介だと思って読んでもらえたら。




ODD TAXI(オッドタクシー)

主人公を始め、どうしようもない、ありふれた問題がたくさん描かれている。僕が視聴した最初の感想は、精神疾患であれ自己顕示欲であれ、あるいは生まれによる見た目の問題であれ、それが平等に描かれているというものだった。動物がモチーフになっているから日常から切り離されてストーリーに集中しやすい。そして最終的に「これはフィクションだけどフィクションじゃない」と気づかされる。

優生思想のアキレス腱は偶然性にある。優生思想論者は「自分が努力して頑張れば苦境を覆すことができる」というが、生まれは努力でどうすることもできないし、反社が同じ車に乗り合わせてくることをタクシードライバーは何度も経験していることだろう。(僕も昔代行運転でそういう経験をした、幸い陽気な酔っ払いだったが、)優生思想はロジカルなようでいて、不確定要素を排除しているだけ、要するに都合の良いストーリーを並べているだけ。現実はストーリー通りにはならない。

この世を優劣や善悪で比較するのではなく、人生を豊かにするのは優しさなんだというメッセージがちゃんと伝わってくる良い作品。
オッドタクシーを勧めて「見た?」という話をしてみよう。そこから始まるのは、きっとやさしさの話になると思う。やさしさこそ、優生思想と戦う最も強力な武器になる。



約束のネバーランド

作者ははっきりと功利主義の弊害を描いていると思う。つまり、人の命よりもビジネスが大事な社会にどう立ち向かうか、という問題を世界設定とストーリーに編み込んでいる。この作品(マンガでもいい)に触れると、なんともいえない不愉快感がやってくる。だけど、その不愉快感こそ現実に社会的弱者が味わっているそれなのだと思う。つまり、強者の論理というやつに感じる不愉快感だ。

どうしてこの話は子どもがしんどい思いをしなきゃいけないんだろう。その「どうして?」と感じることが優生思想と戦うきっかけになる。
優生思想はその答えを提示するところから滑り込んでくるが、そこに「どうしてこうなってしまったんだ?」というクエスチョンを持つ習慣があれば戦いやすくなる。約束のネバーランド、どうしてこの子たちはこんな施設に、どうして鬼がいるんだ、などなど。

僕はこの話は、カラマーゾフの兄弟に近い読後感だった。人権が生まれようとしていた時代の質感が見事に描かれていると思う。



不滅のあなたへ

まだシリーズ途中ではあるが、明らかに人権の歴史をプロットにしているので紹介したい。むしろ今の時代だからこそ、これくらい寓話的に人権について考える作品を採用したというメッセージまで感じる。

日本の人権教育は「命の価値は地球より重い」で思考停止している感が否めないが、今後はこの作品のように「命の価値は紙切れより軽かった」を教えていった方がいいんじゃないかと思う。難しい話なので、とりあえず2話か3話までの視聴でと勧めて「無理」ってなったらそれは仕方ない、次の作品を勧めていこう。




帰ってきたヒトラー

この話は戦争モノでもないし、むしろエンターテイメント作品なのでゲラゲラ笑いながら気楽に見れる。だけどそれは内容が軽いということではなく、むしろその軽快さが恐ろしい。びっくりはしないが、ホラー作品といっていい。
なので「めっちゃ笑いながら見れるからぜひ!」みたいな、本作品同様の気楽さをもって勧めると効果があるかもしれない。

優生思想は馬鹿馬鹿しいエンタメを使って広がっていく。ドナルド・トランプの選挙活動が記憶に新しいが、あのやり方はたしかにナチスの広報活動そのものだったし、実際に功を奏した。そのやり口に興味がなくても、知っておかなければいけないことだと思う。



ミュンヘン

結局、優生思想とか人種差別が今の自分と地続きじゃないと思うから調べようともしないし、知れないんだと思います。

この映画は1972年のミュンヘン五輪で実際に起こったことが、その背景も含めてよく理解できると思います。東京オリンピック2020で初めてミュンヘン五輪の被害者への追悼メッセージが発表されましたが、この約50年間それができなかった理由を少しでも考えてみるといいでしょう。

優生思想と戦うために必要なのは、ざっくりとでもいいので史実を知ることです。ざっくりでいいので、ちゃんとした作品を勧めたいものです。



スター・ウォーズ エピソード3

スターウォーズは1から6、なんなら9まで視聴して欲しい。なぜならこの作品こそが優生思想と戦う難しさを描く最も有名な作品だからです。
もしスターウォーズが大好きで、それでもなお優生思想的な自己責任論やヒロイズムを語る人がいたら、それはスターウォーズファンではなくただのバカです。スターウォーズではいつでも帝国軍が無能ながら頑張る全体主義組織として描かれていて、知恵と協力で対抗するレジスタンス(こちらもだいぶ無能に描かれてはいますが)との対決が時代劇のような簡潔さ。誰でも分かる、すごい!

優生思想が根本的に間違っているのは、優れた人間の集まりを組織化しようとすると、必ず無能だけど優れているとアピールする連中の集まりになることを見逃している点にあります。

これは僕の恩師谷貞志先生が言っていたのですが、つまり「みんな生き残りたい」という大原則を優生思想は忘れがちなのです。結局それは対立になって、コスパの悪い社会になっていくだけ。

ちなみにジェダイの綴りはJedi、ユダヤの綴りはJews。似てますね、EP3のジェダイ抹殺のシーンはナチスがユダヤ人にしたジェノサイドのそれと同じで、相手が少数ながら優れているからこそ邪魔になるというメッセージですよね。
他にもスターウォーズについては2時間喋るくらいネタがあるのですが、別の機会にします。


正面から戦ってはいけない

まとめ。優生思想、それに付随する自己責任論者に正面切って「それは違う」と言っても、相手は頑なになって同じ考えを持つ人のところへ集まるだけ。自体は悪化してしまいます。
優生思想を支持している人たちは結局、自分が弱者側に立っていると自覚している層だと思うのですよね。彼ら彼女らが必要としているのはやさしさであって、反論ではないはずです。やさしさを伝えるアニメや映画はたくさんありますから、そういった作品を勧めることが長い戦いの戦略として有効だと思います。

もし通じなくてもがっかりせず、まずは自分が「人権について考えさせられる」「優生思想のダメさを描いている」という作品に触れて、それを親しい人に勧めること。まずは自分が納得するところから始めてみてはどうでしょう。
面倒くさい問題ですし、戦いは終わらないかもしれません。ですが戦わなきゃいけないと、僕は確信しています。地味にしぶとく戦う所存です。



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