耳コピ序論
確認しておきたいのは、そもそも耳コピができるかできないかは作曲や編曲の出来上がり品質にはそれほど関係がないということ。
なので「耳コピできません!」でも問題なく音楽制作はできるし、一生なくても良い技術かもしれない。
ただ、やはり様々な音楽をインプットするのには有用な技術である点には論を待たないし、それ以上に自分らしい作曲をするには役に立つ。
このnoteでは『耳コピができるようになりたい』けど『どうやっていいか分からない』という人向けに書かれています。考え方やメソッドが参考になれば幸いです。
1.耳コピは『楽譜力』
意外に思うかもしれませんが、耳コピをするにあたり楽譜の理解は大前提です。なぜなら、音程やリズムのルールを理解しないとそもそも聞き取ることも不可能だからです。
たとえばあるメロディが1拍目始まりなのか、それとも4拍目、裏拍からなのかを『想定』していなければリズムを特定することはできません。逆にいうなら、リズムは一定のパターンでしかないので、必ずどれかに当てはまるようにできています。
あるいは音程についても、ドレミファっと上がっていくのか、ミファソラと上がっていくのか、どの音程から始まるかを『想定』して、確認して特定するという作業が必要になります。当然、調号(キー)の概念を知っていなければなりません。
想定して検証して特定する。この繰り返しが耳コピなのですが、実際にどのリズムの、どの音程なのかを確認するために楽譜の知識は必須なのです。
耳コピは記憶よりも記録の技術。なので楽譜の理解は大前提なのです。
2.なんのために耳コピするのか
僕自身、それほど耳コピが重要とは考えていません。僕のやっていることは「思い付いたメロディを記録する」ことなので、誰かのフレーズを真似する必要性が低いからです。
ですが耳コピの技術は「思い付いたメロディを記録する」ことにとっても役立ちます。むしろ『そのために耳コピの技術を磨く』といって過言でないでしょう。
楽器演奏についても「思い付いたメロディを弾く」を即興的にやっていくのですが、思いつきのメロディが「どの音程から始まるのか」「どういったリズムで弾くのか」をクリアにするためのメソッドがあります。バークリー音楽院では『Ear Training』と呼ばれる、移動ドで視唱する訓練方法です。日本では音楽教室でいうソルフェージュですね。クラシック的な発想では読譜のための訓練ですが、この能力をひっくり返して、聴いた音を楽譜に書き記すような訓練をします。まさに耳コピです。
音楽制作をするなら、読譜力はそれほど必要ありません。ですが「思い付いたメロディを記録する」ことはDAWでも楽器演奏でも役立つものです。
また、この能力は必然的に「メロディやハーモニーの”記憶”」にも貢献してきます。メロディを思いついたけどすぐ忘れちゃう、という経験はありませんか。その記憶する強度が高まってくるのです。
作曲をする人は自分のメロディを記憶する能力、それを記録する技術を日常的に使っているので、自分の音楽を自分で耳コピしているといえます。なので作家の人たちが「耳コピできません」と発言する真意は「誰かの曲のメロディを自分のものにする必要がない(ので耳コピする必要がない)」ということになるのではないかと思います。
3.まずは構成を書き出してみたら
おそらく耳コピできるようになりたい人の多くが、誰かのメロディを正確に聴き取れるようになりたいとは思っていなくて、エッセンスを吸収して自分の糧にしたいと考えているのではないでしょうか。少なくともDAWで音楽制作を始めた人にとっては、そういう感じだと思います。
「たくさん耳コピしましょう!」とは言われるものの、なにから始めたらいいか分からない。そうですね、最初は『構成』を書き出してみるところから始めたらどうでしょう。楽譜力もいりません。
「こんなんでいいの?」と思うかもですが、やってみたら分かるはずです。最近の曲はこんなに簡単な構成ではなく、どこで区切っていいかも難しい。なので90年代とか80年代のJ-POPや歌謡曲から始めたらいいんじゃないでしょうか。
10曲くらいやればコード進行やメロディに法則性が見出せるはずです。たった10曲、されど10曲。やってみたら分かることってありますよ。
4.メロディよりもリズムから
耳コピといえばメロディをイメージするかもしれませんが、その前にリズムについて訓練するのはいいんじゃないでしょうか。たとえばある曲のKickのリズムを一部でいいので聞いてコピーしてみるところから。あるいはキメがあればそれのリズムだとか。
実際、耳コピでネックになるのは音程よりもリズムであるケースが多いので、リズムから耳コピするのはオススメです。そこでつまずいてしまう場合、楽譜に対する理解が不足している可能性が高いので中学校の教科書をじっくり読んでみた方が早いかも。
小学生用といって馬鹿にできないですよ、音楽の教科書はしっかり用語説明があるので。
5.楽譜を書き写す
冒頭、耳コピは楽譜力だと書いたのですが、写経みたく誰かの楽譜を書き写すのもいい訓練になります。自分の知っている曲がいいです。別にクラシック曲でなくてもよくて、歌本の五線譜に書かれているなにかでもいいでしょう。その際、
・調号や拍子記号を略さない
・すべての記号を書き写す
これを守れば理解も深まります。能力は必要ありません、地道で時間はかかりますが・・・・
6.自分の曲を楽譜にしてみる
DAW全盛のこの時代になんて馬鹿なことを!
ですが、紙の楽譜に自分の自作曲を書き出してみると、いかに音楽がパターンに満ちているかを体験できるでしょう。誰かの曲なんて一ミリも相手にしたくないという猛った方は自分の曲でやってみたらどうでしょう。必ずDAWの技術も向上していきますよ。
7.自分らしいを磨くための「耳コピ」
繰り返しになって締めとしますが、耳コピは「自分の思いついたメロディ」を素直にアウトプットするために役立つ技術です。DAWはなまじすぐ音が出てしまい、自分の思ってたメロディが実際に出た音に侵食されて変形されがちです。思いついたメロディの純度を高めるために訓練する方法が耳コピなんだ、というのが僕の考えです。
『耳コピができるようになりたい』けど『どうやっていいか分からない』という人に届けば嬉しいです。
サポートなんて恐れ多い!ありがたき幸せ!!