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【両極端】丸の内サディスティックとエイリアンズがカバーされる訳

TLにエイリアンズ/キリンジをカバーしている動画が流れてきて、「20年前の曲だけど歌い継がれてきててすごいなぁ」と思ったと共に、なぜこの曲なのか?という疑問が浮かんできた。
同様に丸の内サディスティック/椎名林檎もカバーする人が多い。なぜこの曲なのか?
先に結論を書いておくと、”軽音楽部に入った人がコピーしやすい曲&コピーが難しい曲”が生き残ったのだと考えられる。詳しくいこう。


丸の内サディスティック/椎名林檎

1999年の名盤『無罪モラトリアム/椎名林檎』の収録曲であるこの曲は、非常に幅広い層に支持されているだけでなく、カバーやコピーバンド、あるいはセッションでよく演奏されている。
この曲は同じコード進行がずっと繰り返されるので、覚えるのが簡単だ。

出典:ufret

A♭maj7 G7 Cm7 E♭がずっと繰り返され、残り2〜3のコードを覚えて、少しのキメを加えれば演奏できる。
超初心者にとってフラット系のコードが簡単なのか?というと、ちゃんとやろうと思えば少し難しいだろうけど、ギターならカポを使えばいいし、キーボードならトランスポーズ機能を使えば楽に演奏できる。



エイリアンズ/キリンジ

2000年リリースのアルバム、3/キリンジの収録曲であるエイリアンズは、口コミで広まっていきシングルリリースもされた。キリンジの最も有名な1曲といって過言ではないだろう。
丸の内サディスティックと対照的に、この曲は難曲だ。

出典:ufret

まずキーがG♭なので鍵盤だと黒鍵だらけになるし、ギターで弾くにもオープンコードがまるで使えない。しかもaugやテンションコードが絶妙に曲の骨子となっていてスルーできない。楽器歴1〜3年の人でも手こずる難易度といえる、カポやトランスポーズを使っても難しい。


【仮説①】軽音楽カルチャーから広まった

丸の内サディスティック(以下丸サ)はバンドを始めようという人が最初に攻略するのに最適な曲といえる。高校に入って軽音部に入るとき、自分でやりたい曲を見つけるも難しいことに気がついたときの助け舟として丸サは長い間活用されてきたのではないだろうか。顧問の先生も椎名林檎世代かもしれない。
他方、エイリアンズはビギナーにとっては非常に難しい曲だ。だからこそ「もしこの曲ができたら他の人より抜けている」と判断できる、わかりやすい指標になったのではないだろうか。エイリアンズが弾ける中高生がいたら、大人はぎょっと驚くし評価してくれるだろう。
あるいは大学に入って軽音部に入る人にとって、ちょっと大人びた丁度いい雰囲気の曲だから選ばれやすいのかもしれない。



【仮説②】SNSのインプレッションが上がるから広まった

友人曰く、丸サやエイリアンズはカバー曲で知ったという。たしかにSNSには(cover)という動画が沢山あり(個人的には見ることはないが)、それらはきっと彼ら彼女らのオリジナル曲より再生数が多くなっていることだろう。リスナーは知らない曲より自分が知っている曲に共感するものだ。
その流れと仮説①が合わさったとしたら、丸サは多くの人が実際に演奏したことがあるので再生数は伸びやすいかもしれない。またエイリアンズにしても、演奏してみたが挫折した人が多いので伸びるかもしれない。
いずれにせよ、楽器をやっていた人にとって思い出深い2曲がSNSに投稿されやすく、インプレッションが伸びやすいと言えるのではないか。


【仮説③】歌詞が突出している

これは楽曲の難易度とは別の視点だが、丸サとエイリアンズに共通しているのは歌詞が特殊な点だ。
言わずもがな、RAT1つを商売道具にしている丸サと禁断の実をほおばるエイリアンズ。どちらも少し頭を捻らなければいけない歌詞なのだが、だからこそ話題になりやすいのではないだろうか。
ギター弾きならRATがディストーションエフェクターだと知っているし、グレッチがギターであると知っているし、深掘りしたらこの歌詞がベンジーへの愛を歌っていることが分かる。このトリビアは、誰かに話したくなる
エイリアンズはシンプルなラブソングに聞こえるが、よく読めば聖書の世界観が散りばめられている。こちらも歌詞について語りたくなる。
こういう特殊な歌詞を文学的と呼んだりするが、これも口コミで広まる一因になっているかもしれない。



楽曲自体がすばらしい、以外の何かがあるのでは?

これまでドライに「どうしてこの曲が広まったのか?」を考えてきたのだけど、これらの楽曲はそれ自体が素晴らしいのは言うまでもない。当然、メロディや歌や音色、アレンジやミックスも素晴らしい。
だけど今回の疑問は、良い楽曲は他にも沢山ある中でどうして?というものだ。そこには社会的な要因があるのではないだろうか。
楽に演奏できることで選ばれる丸サ、高難易度で指標にされるエイリアンズ。どちらも周囲の眼差しが推挙するような楽曲である、という視点で考察してみた。軽音部の顧問が何もできない新入生に攻略を指令する曲、ある程度以上できる人がさらなる評価を得るために課せられる曲。あるいは語りたくなるような”いわく付き”の曲だったりするかもしれない。

フルアルバムの中の1曲でしかなかったこの2曲が、20年以上の長きに渡って愛されている。音楽自体の力と、それが社会にフィットした相乗効果のパワフルさに思いを馳せる。


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