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#013 賃金の上昇は救いか、それとも。

 人手不足による賃金の上昇は、先日の春闘において明確に浮かび上がりました。特に注目すべきは、大手企業における賃金上昇の顕著な傾向であり、それに対して中小企業は出遅れている状況。その状況を改善するべく今後一層の価格転嫁が行われていくことが予想されます。

 農業分野は長らく需給による価格決定がなされてきており、価格転嫁が難しく人件費の上昇に対応することは非常に困難。品種によっては労働集約型となっており、まずはこのような価格決定の枠組みからの脱却に取り組むことが迫られています。

 現状は家族経営で、直接的な影響はありませんが、今後の雇用を考えて小規模農家がどのような方針で経営を進めていくべきかについて整理してみます。


〇2024年の春闘と賃金差額

1.春闘の結果

 2024年の春季労使交渉(春闘)では、トヨタ自動車や日産自動車など大手企業が労働組合の要求に満額回答しました。トヨタ自動車は1999年以降で最高水準の賃上げを実現。富士通も2年連続で満額回答し、1998年以降で最も高い賃上げ水準に。

2.中小、大手との賃金差額

 労働組合の集計によると、2000年以降の23年間で、大手企業の平均月例賃金から中小企業の賃金を差し引いた額が最大3倍に拡大。

高卒後すぐに就職した30歳の場合、2000年では千人以上が23万8642円、300人未満は22万9335円で、差は9307円だった。この差が23年には2万9184円と3.1倍に広がった。

3/12(火) 17:43 共同通信

 賃上げを実施しないとした583社にその理由を複数回答で尋ねたところ、最も多かったのが「コスト増加分を十分に価格転嫁できていないため」が54%、次いで「原材料価格などが高騰しているため」が49%。

 物価の高騰に賃金上昇が伍するようになることが理想ですが、そのためには適切な価格転嫁を行っていく必要があります。しかしながらこの20数年の間デフレ下にあった状況から値上げへの抵抗感が大きく、着手が遅れる程雇用確保への影響が大きくなっていきます。

〇農業分野の現状

農業がしたい人の奪い合いが加速

 農業従事者の年収は、農業の種類や生産する商品によって異なりますが、一般的に150万円から300万円程度とされています。これは、一般的なサラリーマンの平均年収が約400万円前後であることと比較すると、比較的低い水準です。

 農業分野では従事者の高齢化が進んでいる上慢性的な人手不足でとなっており、前述した通り価格転嫁の取り組みが難しいため他業界との人材獲得競争で厳しい戦いを強いられます。農林水産省の「農業構造動態調査」によると、基幹的農業従事者(ふだん仕事として主に自営農業に従事している者)の数は、2012年の177.8万人から2021年の130.2万人へと、9年間で約47.6万人(約26.8%)減少しています。

 今後より一層”農業がしたい”という人材の取り合いとなり、そのためにも待遇面の条件を整えておく必要があります。

〇価格転嫁の難しさ

需給による価格決定

 農産物の価格転嫁は、原材料やエネルギー、包装・資材、物流に係るコストの高騰などの値上げ要因があるにもかかわらず、需給バランスが価格に与える影響が大きいため、難しい状況にあります。

 市場全体で価格転嫁をしようとすると、強制力が必要である一方で、既存の制度との衝突します。卸売市場制度は、農産物の需給を反映した価格決定の場として重要な役割を果たしており、特に日本の青果物市場では市場経由率が8割に達します。このため、生産コストの価格転嫁を実現するためには、卸売市場制度の大幅な改革が必要となります。

 さらに、価格転嫁は独占禁止法とも衝突する可能性があります。日本の市場経済では価格決定は売り手と買い手の自由な交渉によるものが原則であり、その制約は独占禁止法に違反する可能性があるのです。よって、公正取引委員会との調整が必要となります。

〇いつか来るそのときに備える

まずは直販、ブランディングから

 前段で述べた通り、業界のルールを再整備することは一経営者では非常に難しいので、解決策を販売単価上昇・適切な価格転嫁に絞ります。省力化や行程のスリム化を行い、ブランディング化によって直接販売を進めていくことで収益の改善を行い、雇用を行うための準備を進めます。

 うちの場合は市場出荷から直接販売に切り替えることが収益改善の第一歩。販売は「山岡牛」として一般的に流通するものとの差別化を図っています。単価を向上させたいというときにいたずらに生産量を拡大していては希少性という点で寧ろ価格を引き下げる要因になりかねません。

 うちのような小規模農家は生産量の向上よりも、生産物をより尖ったものに仕上げていくことに注力すべきです。今後同様に生産コストが上昇した場合、直接販売を行うことで対象となる顧客が絞られるため価格転嫁の同意を得やすいというメリットもあります。

〇賃金上昇のその先

 デフレ下の20数年価格転嫁の難しい農業分野へは補助金による補填が行われ、生産物の価格が安く据え置かれてきました。しかし、少子化による絶対的な人材不足によって状況が変わりつつあります。

 人口動態を勘案すると今後も継続して人口が減っていくため、賃金上昇が続くことが予想されます。無論その途中で賃金上昇に耐えられない企業が出てくるでしょうが、それを超えた先にはインフレによる経済の好循環が生まれることになります。

 今後そのような情勢に追従できるように雇用条件を整えることに加え、より魅力的な仕事となるように工夫をしていきたいと思います。うちの経営規模で考えると「何十人の雇用がなくてはいけない」ということはないので、好きな人にはたまらない仕事となるようにし、数少ない希望者に強烈に刺さるような職場にしていくことを目指していきます。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。
今後も田舎の小さな肥育農家のリアルを伝えていきたいと思います。スキ・コメント・フォローなどを頂けますと励みになります。


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