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#004 「農業の仕事って大変じゃない?」と心配してくれた人に今の様子を伝えてみようと思う。

 大学で情報学を専攻し、広島でシステムエンジニアをしていた僕が2017年に退職して農業をすることを選択した。もちろん当時の職場に農業をしている人がいるわけもなく、総じて心配されたことを思い出す(一部の上司にえらく羨ましがられたが…)
 あれから7年。思い通りに順調に進んでいること、ギャップに苦労していることなど色々あるが一旦振り返ってみる。


Q1.サラリーマンと違って休めないし、収入が安定しないんじゃない?

A.その通り!

〇そもそも休日の概念がない
 確かに生物相手ということは休むことが難しくなる上に、実際両親が休日を過ごしている様子を見たことがない。幼少期に親の仕事を見ていたと言っても、本格的に内容を把握しているわけではなかったし、当時とは状況も変わっていたはず。今思えば盛大なリスクテイクである。
 実際うちに固定休日の概念はない。家族経営の悪い点ではあるが、それに両親が最適化することで経営を続けられている。そこに私が就農したことで両親の作業をまきとって負担を分散化することができているはずだが、両親(特に母)は「これまでできなかったことに時間が割ける」と引き続き仕事に勤しんでおり、負担は減っていない。

〇収入は年に1回
 私が就農して父が牛部門、私が米作部門と分けて経営を行っている。米作部門は小売販売を行っていないため収入は収穫後の年1回のみ。サラリーマンのような毎月の収入はなく、収穫するまでの経費は常に持ち出しであることは就農当初新鮮だった。
 初期投資は農機類が一通り揃っていたことで、最低限に抑えることができたのは大きかった。しかしながら父の「壊れるまで使う」ポリシーは次回の投資時期が見通せず、農繁期に農機が寿命を迎えて慌てて発注を行うといったことも実際起こっている。利益率の改善を進め、作業の効率化と投資計画の策定など課題をは山積みだった。

管理する竹林

Q2.コロナ禍大変だった?

A.実際に大変だったのはコロナ禍が明けてから。

〇支援が終わると需給のギャップが深刻に
 コロナ禍は初年度の2020年は販売に苦戦したものの次第に様々な支援策が打ち出され、和牛の市場価格もそれによって支えられて大きな凹みは発生しなかった。しかしながらコロナ禍が明け、それら支援策が終了すると在庫の市場価格の下落に苦しめられた。

【 食肉事業者の主な声 】
・ 当社では和牛の在庫を持たない、増やさないことが販売の原則。一時的に納入価格を 下げるなど販売促進でロインを売り切るしかない。
・ 国産ロインは、焼きしゃぶ用スライス、ステーキカットなど工夫して販売価格を下げない 努力をしている。それでも売れない場合は、当社はパーツで仕入しているので、ロインの 仕入れを止める。

食肉業界の販売動向について(2023年9月報告)より

 このように問屋側も高級部位の販売に依然として苦戦しており、この「和牛の在庫を持たない、増やさない」といった取り組みの一方で、令和2年時点で和牛は16万566トン(前年比5.7%増)。「農業生産基盤強化プログラム」の中で、 和牛の生産量を令和17年度に30万トンとする政策目標を設定したことで生産量は増加傾向で、需給のバランスは依然として厳しい状況にあります。

〇見通しの難しい和牛肥育
 うちは子牛を導入してから出荷まで約2年。就農前に感じていた以上に見通すことが難しい。過去に口蹄疫、BSE、安愚楽牧場事件、そして今回の新型コロナである。投資金額が多い分、価格が下落した際の補填制度などが充実しているものの、掛金も次第に上昇しており経営への負担は一層増している。昨今の飼料価格の高騰も影響が大きく、これまでと同様の経営を行っていくことは難しいのが現状。

収穫前の稲

Q3.前職の知識って活かせた?

A.ちゃんと活かせる!…ようにした。

〇知識を活かすにはまず作業の整理から
 前職のシステムエンジニアの知識を活かすために、作業の整理から着手した。父が手書きでまとめていた事務処理を電子化。名簿はデータで管理し、スマホで飼育日誌を更新するなど導入が容易なところには積極的にIT機器を活用した。
 物理的な作業に関しては門外漢だったが、導線を整理し、あえて機械化していたものを辞めるなど総合的に現場の効率を向上させることを目指している。

〇中小規模農家もIT導入で効率化をするためには
 IT機器の導入によって効率化を図るケースは大規模化に伴って行われることが多く、中小規模の農家には適用できるものはまだまだ少ない。補助金等を活用して導入すること自体はできるかもしれないが、「IT導入ありき」で進めるのではなく実際にどのような効果が見込まれるのかをちゃんと精査して進めていきたい。そのためにはまず売上の向上、1頭あたりの単価を向上させる取り組みから。

子牛達

〇自分͡事とすることの重要性

 「あのとき心配してくれてたけど、仕事は順調だし、元気に楽しくやっています」という無邪気な回答をしたいが、依然として市場環境は厳しい。それらの問題はあるものの、日々の仕事に前向きに取り組めている。これは自分事であることを強く意識し、主体的に取り組めていることに他ならない。

1.前向きに家業を継ぐということ

 農業を継げというプレッシャーもなく、自由にさせてもらったおかげで違う業界に勤めることができた。結果的に戻ったものの違った視点で農業を見ることができ、裁量も委ねてくれたおかげで前向きに仕事に打ち込めている。外部からの意見を取り入れ、積極的に反映させることを応援してくれたことが厳しい状況でもポジティブに仕事を捉えることができた要因のひとつ。

2.なぜ休みが欲しかったのか

 前職では仕事を忘れるための時間としての休みが欲しかった。今は仕事とそれ以外の時間が曖昧になっている。問題を解決することがすべて自らに返ってくる状況はやればやるほどやりがいを感じることができる。前職の上司は「農業の休みが取りづらいこと」を心配してくれたが、そのようにマイナス面をポジティブにとらえることができ、良い意味で現状にフィットすることができた。
 しかしながら、別の面で休みが欲しくなっている。それは農業に限らず、各地で活躍する方々に会いに行きたいという欲求が生まれたからだ。サラリーマン時代は大学の同期と旅行するくらいだったが、今ではもっと制約の少ないときに色々な場所に行って様々な経験をして来ればよかったと感じているくらい。今後このモチベーションが業務の効率化へ向けられ、出張で各地へ営業しつつ、刺激を受けるよい流れをつくれるようにしていきたい。

田植前の水田

〇あとがき

 7年という年月は長いようであっという間。これまでの取り組みのひとつの成果として全く接点のなかったシェフの方に牧場を訪問して頂くなど露出を少しずつ増やすことができている。各地で出会う方々に支えられ、外的環境は厳しくとも今日までやってこれたのも事実。このような出会いを2024年も続けていきたい。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。
今後も硬軟使い分けながら田舎の小さな肥育農家のリアルを伝えていきたいと思います。スキ・コメント・フォローなどを頂けますと励みになります。

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