犬も食わない
年末、久しぶりに立て込んだ仕事の最中に、発狂してしまった。
こう、積もり積もったものが最悪のタイミングで爆発してしまって、発狂しながらも自分を責めて、視界がどんどん狭くなっていった。落ち着いて考えた今なら、そんなに大したことじゃなかったのかなと思える。
いや、でもやっぱりわたしにとっては重要なことだったな。年末に発狂していなかったとしても、いつか我慢の限界を迎えて爆発してたんだろうと思う。
恋愛と仕事を同じ人としているミニマリストは、こういうときとても困る。恋愛での揉めごとが仕事にも影響しちゃうなんて。共倒れだ。あーあ。
整理するためにわたしがおじさんに伝えたことを箇条書きにした。見る人が見たらすぐに誰が書いたものかわかるな、これ。
・私の前任の人の遺影が会社に飾ってある → 社員でもないのに気持ち悪い
・毎日お焼香している → どれだけ想いが強いんだよ、気持ち悪い
・デスクの足元に香典が置きっぱなし → 家族が引き取りに来いよ、シュレッダーかけさせるな
・「お前は一生超えられない」 → 仕事やめてやろうと思った瞬間、第一位
・酔っているときに誤って、頬にキスしている写真を見せられた → PCにそんなデータを残しておくな、頭がおかしいのか?
・名前を呼び間違えたことがある → 本人も酔いが覚めるほどショックを受けてた
・問い詰めたら1回したことがあると吐いた → 1回が1回だったことある?
・三回忌を忙しい時期にやった → 私にも会ってない、打ち合わせもギリギリなのに?
・三回忌を終えたら遺影を片付けると言っていた → 片付けていなかった
最後が起爆装置になりました。ばーん。発狂して泣き疲れたら妙に冴えてきて、もうどうでもよくなった。「嫌だった!」という事実を相手にぶつけたらわたしは割と納得したらしい。言い訳もさせずに一方的に捲し立てたので、おじさんは少しお怒りモードだった。(なんでやねん。)
そのまま帰ろうとしたので、反論を聞かせてと言った。「記憶ないことも多数あるが、言った言ってない論争は不毛で、"気持ち悪い"って感じていることは事実なので対処をする」という返事をいただいた。ただ、ところどころに「じゃあもう〇〇のことを話すな、ってこと?俺そんなに悪いことした?」みたいなのが透けてた。「そうじゃない」(そうだよ、極論はな。)
つまり、不毛な痴話喧嘩みたいになった。心拍数が上がって悪寒がして苦しくなったあのときの気持ちが、いざ本人を前にして伝えてみたら痴話喧嘩みたいになった。これは犬も食わない訳だ。だってほんとうにしょうもなくなった。
遺影に関しては、年末の仕事が終わったら片付けるつもりだったと言っていた。途中で片付けると何かあったときにそのせいにしてしまうから、一種のげん担ぎだと。意味はよくわからなかった。
…
年が明けてから初めて会社に行った。遺影は片付けられていた。周りを探してみたが、しまってある場所も見つけられなかった。「ごめんな、片付けろって言われたから…でも忘れる訳じゃないからな」とか言いながら持って帰ったのかな、とか考え始めてしまって、想像力が豊かな自分を少し恨んだ。片付けたら片付けたで気持ち悪いっていうのはいよいよよくわからないな。
数日経って、今日一緒にご飯を食べているときに、にやにやしながら「あの気持ち悪かったもの、もうなかったでしょ?」と言われた。何回も「気持ち悪い」と言われたことがショックだったようで、嫌味みたいな言い方だった。「知らない、見てないから」と答えたけれど、今考えると「どうやって片付けたの?ん?」と煽り返せばよかった。
…
おじさんは自分の頭の中で考えて口に出さないことがあるので伝わらないことがあると思う。今回だって「年末の仕事が終わったら片付ける」の一言があれば起爆装置は起動しなかった。仕事の時もそうで、よく睨みつけながら聞く。「それ、わたしに言いました?」
言ってほしいことも言わなくていいことも、聞いた後にわたしが判断したい。もし、聞きたくないことだったとしたら、忘れられないけど乗り越えられるようにがんばるから。もし無理だったらお別れ、ということで。
わたしが発狂したとき、「もういやだ」というと「わかった」と答えた。別れることになってもおじさんは泣いて縋ったり、修復しようとしたりしないんだな、さみしい人。いつかこの関係に終止符を打つのはおじさんだと思っていたけれど、もしかしたらわたしかもしれない。
とにもかくにも、犬も食わない不毛な痴話喧嘩に一旦けりがつきました。
…
わたしは人生で初めて付き合ってる人と喧嘩した。いつもだったら醜く発狂する前に別れていた。わたしはおじさんに甘えてるから発狂することができたんだな。なぜか、関係が壊れたら修復できること、話し合えること、関係はそう簡単に壊れないこと、ちゃんと付き合うことをおじさんに教わってる気がする。くやしい。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?