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カイゴはツライ?第16話~即戦力となる期待の新職員だが…

介護業界は離職率が他の業種に比べ、非常に高かったが、ユリの勤務する施設でも退職者は多かった。何人もの職員が短期間に相次いで辞めていくのである。ユニットケアは、少ない人数で馴染みの関係を作ることによって、利用者が家庭的な雰囲気のなかで、よい介護を受けられるというのが、セールスポイントなのだが、職員の離職による頻繁な持ち場の異動をみていると、かえって少人数であることがデメリットになっているような気がしてならなかった。ユリの担当するユニットも、影響を受けざるをえない。3年近く担当していた20代の女性職員が他のユニットに異動となり、かわりに新しく採用された30代の女性が担当となった。ユリは30代の女性と聞き、ホッとすると同時に淡い期待も抱いた。男性だから、あるいは若いから介護に向いていない、家事能力が低いとは必ずしもいえないのだが、どうしても偏見は拭えない。勤務がキツイせいか、ある程度経験があり即戦力となる人を期待してしまうのである。人を育てる余裕や育てるという意識そのものが介護現場には希薄であることにユリは気づいていた。罪悪感や焦る気持ちがありながらも、日々の業務に忙殺され、同化しつつあった。
ユリは新しい職員の勤務が待ち遠しかった。介護のことだけではなく、家事の段取りやレクリエーションについても、話し合って職場改善を目指せるかもしれないと思ったのである。なんといっても、その30代の女性は、国家資格である介護福祉士であるばかりか、障がい者施設に長年勤務していたのである。いやがうえにも期待はふくらむ。
 30代の女性介護士・内藤さんの第一印象は悪くなかった。はきはきとした物言い、きさくな雰囲気、明るい笑顔。期待は間違っていなかった。ユリは嬉しかった。まだ独身とのこと。子どものことで急に欠勤となることもなく、ちょうどいいかも、などと都合のよいことまで考えていた。
内藤さんは毎日大きなペットボトルのミネラルウォーターを持参し、頻繁に水分補給をしていた。業務に差し支えるというほどではなかったが、ずいぶん熱心な飲み方だなと思い、内藤さんにたずねてみた。「あ、これですか~?女の子って、1日に2リットルの水を飲まなきゃいけないんですよね~。お肌にいいんですよ」との返事であった。水分の重要性は、ユリもわかっていたし、美容法・健康法のひとつであることも知っていた。だが、内藤さんの「女の子」という言葉に違和感を覚えると同時に、やせすぎで肌の荒れが目立つ顔と水分の重要性を説くそのギャップにとまどいを感じた。30代前半は、ユリにとっては、女の子とは思えなかった。本来ならば10代までの女性のことをいうのだろうが、成熟期が遅れている現代では、未婚であればかろうじて20代なら女の子なのだろうという認識である。いくら独身でも30代で「女の子」はないだろうというのが、ユリの正直な感想であった。だが内藤さんはそんなユリの違和感には全く気付かない様子で、ユリから見れば10代20代の「女の子」のおしゃべりを嬉しそうに続けた。

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