漫才台本「落ち武者漫才」
作 : 美憂亭虎之介
夏に作りましたー。昭和のベテラン漫才師のようなゆったりとした落武者の漫才で〜す。
二人「はいどーもー」
平蔵「僕たち現役で落ち武者の霊やってます。『落ち武者〜ず』です。
まずは自己紹介させていただきます。私が鎌倉時代の落ち武者の佐々木平蔵と」
十兵衛「僕が安土桃山時代の落ち武者の木村十兵衛です」
二人「お願いしまーす」
平蔵「皆さんまだビックリされてますけど、落ち武者の霊見たの初めてだよ〜。
って方どれぐらいおられます?
ちょっと手上げてもらっていいです?
あー、すごい。もう全員の方が初めて」
十兵衛「この中の誰かに憑きますんで」
平蔵「やめなさい。冗談ですからね。
坊やそんなに怖がらなくて大丈夫だよ〜」
十兵衛「坊や、この矢、ホントに刺さってるからね」
平蔵「やめいっちゅうねん。皆さん笑いに来てる訳ですから、笑ってもらいましょうよ」
十兵衛「笑えます?この姿で笑ってもらえます?」
平蔵「大丈夫ですよ。面白いこと言いましょうよ」
十兵衛「まぁ、僕らもイメージアップせなあきませんわ」
平蔵「そらそうですわ、これからの時代は怖がられるだけじゃダメですからね。僕らはこう見えて、ちゃんと常識あるんですよ。もう言葉も「拙者」とか「お主」とか言いませんよ。「僕」、「君」言いますねん」
十兵衛「上品でしょ?時代に合わせてますねん」
平蔵「いろんな時代見てますからね、皆さんより先輩ですわ」
十兵衛「死んでますけどね」
平蔵「いらんこと言わんでええねん。
まぁ、僕らが見えてるいうことはもうすっかり夏が来たんですわ」
十兵衛「待ちに待った僕らの季節!しかし夏いうたらお化けの季節言うけど、
あれ何でやのん?春でもなし、秋でもなし、冬でもないねん。
夏だけや。ワシら蚊か?血吸うたろか?」
平蔵「違う違う。君は血吸う方や無く、流す方。落ち武者やねんから」
十兵衛「そんなもん血流してばっかりで死んだんやから、ちょっとはもらわな」
平蔵「何言うとんねん。せっかくの夏ですからね、今年の夏はどっか行きたいね」
十兵衛「私らもコロナでおとなしいしてましたんや、もう地縛霊」
平蔵「夏いうたら、花火大会なんてよろしいな。生で見るのは迫力が違いますわ」
十兵衛「花火はあかん。音が大きすぎる」
平蔵「ええがな、迫力があって。あれがええんやんか」
十兵衛「あの音で、馬が鉄砲と間違ってビックリする」
平蔵「花火あかんか?」
十兵衛「馬がビックリしたら、落馬すんねん。ぎょうさんの騎馬やから、踏まれて死ぬんやがな。思い出したないわ」
平蔵「あんた騎馬兵やったんか?初めて聞いたで」
十兵衛「知らなかったのかい?僕、位高かったんだよ。僕のこと馬鹿にしちゃあダメだよ」
平蔵「何で急に関東弁になったんや、さっきまで関西弁やったがな。
君、騎馬兵やったんなら、どんなんやったか皆さんにちょっと説明してみてよ」
十兵衛「そんなもん、あの輪っかに足かけて馬登るやろ、そしたらひもあるからやな、そのひもでアレしたら、馬がええ感じにアレしてくれんねん。
そしたらわー!言うて、ばー!行って、やー!なるねん」
平蔵「全然わからんわ。アレとかばー!とかばっかりやがな。さてはええ恰好
しようとしたな。どうせ君は一番下っ端の足軽でもしとったんやろ」
十兵衛「そんなことないわい。そんなん言うんやったら君はどんなんやったんや?」
平蔵「僕の時代は源氏に仕えて打倒平家で戦ってたんやがな」
十兵衛「ほう、源氏で」
平蔵「あの頃は夜とかも真っ暗でな。戦で山の中歩いとったんやけど、眠たなっ
てフラフラ〜と列から離れてもうて、気付いたら崖から真っ逆さま。
これがほんまの落ち武者や」
十兵衛「何をしょうもないダジャレいうとんねや」
平蔵「ほんまのことやからしょうがないがな。君は誰に仕えてたんや」
十兵衛「僕の時は織田信長の・・」
平蔵「ええ!あの織田信長かいな!君すごいな」
十兵衛「いや、信長公の家臣の家臣からの発注で、派遣会社に依頼が来て・・」
平蔵「待て待て、派遣会社て言うたぞ」
十兵衛「今でいう派遣会社やがな。そこからの派遣で参加したんや」
平蔵「やっぱりキミ、下っ端の足軽やないか」
十兵衛「せやけど僕は舞が踊れるから人気あったんやで」
平蔵「ほう、舞か。ちょっと軽くで良いからいっぺんやってくれや。
お客さんも見たいですよね?」
十兵衛「じゃあ、信長公の舞でお馴染みの「敦盛」してみるわ」
ー 幸若舞「敦盛」のさわりを披露(人間五十年〜♪)
平蔵「大したもんやな〜。これ僕がプロデュースするから曲出して、年末の紅白目指して頑張ろうや」
十兵衛「そら無理や」
平蔵「何でや?」
十兵衛「僕ら見えんの夏だけや」
終
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?