この星で生きるということ
人生には時として、全ての動作が停止してしまうほどのダメージを受ける時がある。何も手につかない、何も考えられない。かろうじて息が吸えるというような。大切な人を亡くすとか、失恋するとか、途轍もない失敗をしてしまうとか。ものすごく大事にしていたものを盗まれるとか。たとえば。
「そんなことが人生にはあるね」と、このブログに記事を寄せてくれているネパールのちか子さんとオンラインで話をしていた。彼女はネパールという国で起業しそれから本当にいろいろを経験してきた百戦錬磨の強者。彼女に限らず、しのぶさんも水奈さんも、異国でそれぞれに奮闘してきた最強女子たちで、いずれはそんなことも書いてもらいたいと思っているのだけど、そのちか子さんが言った言葉が印象的だった。
「人を突き落としてくれるのも人だけど、救い上げてくれるのもまた人なのよね。ネパールだってそう。だから居られるというのもあるのよね」
ナーバスになっていたところに、闘病中の友人から「私のお馬鹿に付き合って〜」と動画が届いた。
「これなーんだ」
なんだろう? と見始める。フライパンに何かが乗っていて。そのフライパンをゆっくり回転させている。白くて、おそらくそんなに大きくない物体。ウサギのような、ザリガニのような、クリームチーズでできているのかな? って見ていたら、ポップコーンだった。クスッと思わず笑ってしまった。友人の笑い声も一緒に聞こえた気がした。「すごいでしょー」って。
たまたま作ったポップコーンの形が面白くて、送ってくれたのだというが、仲間の中でも、彼女が「癒しの人」であり、人を一番最後から押し上げていく人と言われていたことを、私は体ごと理解した。私の何かを感じとってくれた、そうとしか思えない本当に絶妙なタイミングだったから。
そして、また今度は別の友人から思いがけなく写真のメッセージが届く。
写真を見た瞬間、気づかず力が入って固く閉じてしまっていた「私」が解き放たれ、押し込めていた伸びやかなものが一気に溢れ出した。
「美しい」
その言葉に私のすべてが注がれた。嬉しさと感謝と、これまでのすべてから自由になったような。震えるような溢れ出す「私」。
彼もまた海外にいて、NYというこの世界的非常事態の真っ只中の都市で仕事をしている。いつか彼にもこのブログに参加してほしいなと書きながら、要職に就いている彼に「でも、最前線にいるもんね」と言うと。
「みんな最前線ですよ」
そう返事が来た。パッと視界が明るくなった。それぞれが一人ひとりの人生の最前線を生きている、そのことが、彼からのこの一行に、そうこの言葉にこもるエネルギーが私のエネルギーに作用して、一瞬にして理解できた。
「ひとり、ひとり、それぞれ」ということが、どうしても寂しさや不安から離れないところがあった。それが一瞬で新しい理解へと更新されたような、そんな感覚。千と千尋の神隠しで、ハクの竜の鱗が夜空でパラパラと剥がれる、例えるならそういう感じ。
彼がその言葉に込めた思いの強さと深さと純度のおかげだと思っている。
彼女も彼も、私がどんな気持ちでいたかなんて一ミリも知らない。それでも、こういうことは起きる。人は、起こせる。
「美しい」
それは、何も風景だけでは、ない。いろんな「美しさ」を感じて生きていきたい。この星の上で。
【text by REIKO from Japan】
佐藤礼子 山間地の昔ながらの暮らしが残る環境で高校までを過ごす。高校時代の愛読書は『留学ジャーナル』と『Hi-Fashion』。短大で村田しのぶと出会い、物心両面で彼女と彼女の家族に支えられる。「ここなら合うと思う」と村田が持ってきた会社案内で就職先を決める。そこで宮本ちか子と出会う。彼女はネパールへ。私も結婚・出産を経てフリーランスライターに。タマラと出会い、ライター業と兼務で創始者秘書に。タマラが縁でハワイ島で成田水奈と出会う。その後、宮本ちか子もタマラに参加。そして、約20年ぶりに村田しのぶと再会し、2018年「Beautiful planet」を立ち上げる。
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