我ら

出張というのはウソ。出張するのは彼女ではなくその彼氏であるというのが彼女の言い分だが、真実は、彼氏の出張というのもウソである。正しくは、彼女はどこかーそれはいつか彼氏が出張したことのある場所ー遠い所へ泊まりに行くのだ。彼女に恋愛対象がいるのは確からしいが、それが彼氏なのかはウソとは言い切れないので、疑問だ。彼女が彼氏の出張について行くと偽って外泊する意図ははっきりしないが、なんとなく分かる気がする感情的に。キャリーバッグにはタブレット端末にキーボードまで入れてる。仕事を持ち出してまで家を空ける口実を作るのには、そもそも理由などないのか。考えるだけ無駄に思えてきた。
理由なきウソは、彼女の癖かもしれない。精神の病を思考の癖と表現した彼女を思い出す。彼女は、精神的な病を深刻に捉える彼氏のことを称賛していた。そんな記憶も蘇る。二人とも別に鬱ではないと思うが、私はそのあたりに疎いのでしゃべらないでおく。私は、彼が彼女の相思相愛の彼氏かどうかまで、別に知らなくてもいいから、真偽はどっちでもいい。彼女が外泊することも、その理由が彼氏の出張じゃないことも、どうでもいい。そして、彼女が私にウソをつくことにも囚われない。気になるのは、彼女が外泊する理由を必要としているらしいことだ。私に対して、何か言いたいのだ。彼女の彼氏にまつわらせて、何かを言いたいのだと思う。彼はやはり彼女の彼氏ではないのではないかと思えてくる。確証がないのは、彼女もまた同じなのではないか。そうだとしても、それだって、どうでもいいことだ。
行き先だってどうでもいいことだが、四国だと言って、彼女は出て行った。

名古屋コーチンだと言って手羽先の箱を差し出す彼女にビールを手渡したのは誰なのか。近鉄への乗り換え駅だと聞かされるのもうんざりするのは私で、私は彼ではないのだ。

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