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ヒンズー教と仏教の原風景Ⅸ

今日のヒンズー教と仏教の原風景は、「いい加減で知ったかぶりの民族、宗教構成」ではない、時間線に沿った民族の歴史的経緯と仏塔の薀蓄を書きましょう。次回は、「個人に憑依したヒンズーの神々を祀る村落祭祀」を。やっと、超常現象を書く手前までまいりました。私の経験談でもあります。

●人類の移動、スリランカへの渡来

アフリカを出た現生人類はアラビア半島沿岸部を伝って現在のイラン付近に移動して、そこを起点に、インドから東南アジア、ニューギニア、オーストラリアにたどり着きました。下の地図のD、C、F、L、H、MS、C1b2の南ルートですね。その途中でスリランカにも人類が渡ってきたのでしょう。青いルートを見ると、茶色の肌を持つオーストラロイドがまずスリランカに来ました。ちょうど、スリランカの原住民と同じ人種です。ドラヴィダ系の祖先ですね。

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スリランカに人類が渡ってきたのは、後期氷河期から氷河期の終わりのニ~三万年前くらいでしょうか?文化レベルでは、旧石器時代程度と思います。それから、長い時間が経ち、紀元前三~四千年前にインド・ヨーロッパ語族に属するアーリア人がインドに南下してきた。そのアーリア人がインド亜大陸を離れて、さらにスリランカに渡ってきたのが、今のシンハラ人の祖先でしょう。

そして、元からいたオーストラロイドのドラヴィダとは別に、ドラヴィダ系タミール人がインドの東海岸から移住してきました。それらが混交していった。この時の宗教は、ドラヴィダ系のシャーマニズムとインドのバラモン教だったでしょう。

●シンハラ王朝の植民

紀元前ニ百年頃、アショカ王の仏教の興隆期に北インドからアーリア系の仏教徒の王族がスリランカに植民してきました。これがシンハラ王朝の始祖。仏教がスリランカ全土を席巻する、という一神教のようなことは起こりません。徐々に住民に浸透し、仏教界のトップ以外は、シャーマニズムやヒンズー教と混交していったのでしょう。

●モスリムの植民

やがて、イスラム教の成立以前から渡来してたアラビア人が、西暦七世紀頃からイスラム化していき、港港を植民港として、モスリム植民街を形成していきました。それでも、アラビア商人の集団ですから、大規模なアラブ人の渡来ではないので、アラブ人の血は原住民に飲み込まれたのでしょう。だから、血流は同じスリランカ人。宗教が異なるだけです。

●欧州人の植民

さらに時がたって、十六世紀から約百五十年おきに、ポルトガル人、オランダ人、イギリス人が沿岸部を植民しました。カースト色の濃いヒンズー教徒、仏教徒の最下層の漁民を中心に、カーストのないキリスト教徒に改宗していきました。

これが「いい加減で知ったかぶりの民族、宗教構成」ではない、時間線に沿った民族の歴史的経緯です。

●仏塔のお話

さて、スリランカの寺院には、必ず白い仏塔があります。仏塔は、ブッダのお骨(仏舎利)をお納めする建物です。ストゥーパ(stupa、インド風)とかパゴダ(pagoda、中国風)と言います。ストゥーパが中国を経て、日本に渡来した言葉が「卒塔婆(板塔婆)」に訛ってます。卒塔婆の先端のギザギザの欠込みは、何重塔の軒を現したものです。

これら各国の仏塔の写真を見てわかるのは、廃棄された、今はもう参詣客のいない仏塔でない限り、金ピカ金色に輝く派手な建造物が各国の仏塔です。スリランカに残る原始仏教の原型の白いシンプルな仏塔ではありません。

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それから、インド、スリランカの仏塔は、原型としてのお椀を伏せたような一重の塔なのが、西に行けば行くほど、段数を重ねて、細く細く高く高くなっていきます。尖塔を強調した形状です。中国など、五重塔どころか十二重塔、十五重塔などもあります。

●仏塔の構造

これは各国の建築技術の差、建築素材の違い、自然環境と気象条件の違いに由来します。例えば、スリランカでは、延々と続くヤシの木の森から外れたところに、忽然と仏塔が出現します。仏塔は、基底部にチャンバーを設けて、そこに仏舎利を奉納し、宝石(スリランカは宝石が豊富に産出する島)などを収め、土や日干しレンガでお椀を作っていき、日干しレンガで表面をおおいます。その上に白い漆喰を塗っていきます。

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日本の五重塔なら木造ですが、日本のように杉や檜などのまっすぐな木材が豊富にあるわけではなく、また火災防止の素材で手に入りやすい日干しレンガを使います。

先端の尖塔は、サファイヤなどを収め、銅箔などの電気の良導体を基底部まで配線します。日本、中国と違い、世界で最も落雷の多い国の一つがスリランカです。日本のように周囲が高い木々で囲われているわけでもありません。尖塔は避雷針の役割をしているのです。一説によると、尖塔に落雷した場合、雷のエネルギーは、仏塔内部にコンデンサーのように貯蔵されると言うことを唱える学者もおりますが、その物理的な原理は誰も調査していません。

●聖なる白

スリランカの仏塔の色が白いのは、何もシンプルイズベストの精神ではありません。

ミルクのことをシンハラ語では、キリといいます。キリという単語は、ココナツ削って水に浸して搾ったココナツミルク(ポル・キリ)と、牛乳(エラ・キリ)を指します。キリ≒「白、白い」です。キリという単語は乳白色をした液体に対して使われます。

キリは母乳を連想させます。母乳のイメージは、生命の営み、愛情、生産性が含まれています。儀礼に用いられるミルクの持つ象徴性に、吉祥や豊穣といったイメージが持たれます。シンハラ正月で必ず食べるミルクライス(お米をココナッツミルクをつなぎにして餅状した食べ物)は「キリ・バッタ」と呼ばれ、お餅のような縁起物の食物です。

スリランカの政治家は、白い布、白い衣服をよく着ます。仏塔の色は白、すべて神聖な「キリ」の色です。

●各国の仏塔の画像

Sri Lanka - Stupa / Pagoda、仏塔(小乗仏教)

India - Stupa / Pagoda、仏塔(小乗仏教)

Thai - Stupa / Pagoda、仏塔(小乗仏教)

Myanmar - Stupa / Pagoda、仏塔(小乗仏教)

Laos - Stupa / Pagoda、仏塔(小乗仏教)

Cambodia - Stupa / Pagoda、仏塔(小乗仏教)

China - Stupa / Pagoda、仏塔(大乗仏教)

Japan - Stupa / Pagoda、仏塔(大乗仏教)



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