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ヒンズー教と仏教の原風景ⅩⅠ

南伝仏教があるなら、北伝仏教もあるだろう、と言うことで、北伝仏教のお話。

●北伝仏教

前回述べたように、スリランカの仏教は、南伝仏教と呼ばれます。北インドから南下して伝わった仏教です。ミャンマーやタイの仏教もスリランカからの南伝仏教に起因しています。これが小乗仏教、上座部仏教と言われている元祖になります。

それに対して、北伝仏教は、西北インドからシルクロードに沿って、中央アジア、中国、朝鮮半島、日本へと伝わった仏教のことです。スリランカから東南アジアに伝播した南伝仏教に対する語。

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南伝仏教の主流が上座部系統(小乗仏教)であるのに対し、北伝仏教は大乗仏教が主流です。

小乗仏教と大乗仏教の違いは、別の機会に。

●南伝仏教の仏教経典

南伝仏教の仏教経典が、パーリ語で編纂されたのに対して(前回の結集を参照)、北伝仏教の仏教経典はサンスクリット語やガンダーラ語で編纂されています。言語的には、前回述べた「第三結集」、「第四結集」の段階の仏教経典であり、紀元前ニ百年頃から西暦一世紀頃まで、釈迦入滅後数百年も経っての仏教経典です。ブッダの真意、思惑なんて関係なく、仏教教団の思惑バッチリの内容になっています。

そのサンスクリット語やガンダーラ語で編纂された仏教経典が、さらに中国で漢訳され東アジアに広まりました。

●地理的な仏教起源の位置と東アジアへの伝わり難さ

地理的な仏教起源の位置は、北方のガンジス河周辺、チベットのちょっと下です。ブッダはこの地方を中心に生涯を送りました。ということは、現在のインドと中国の位置を想像してみるとわかりますが、ヒマラヤ山脈に阻まれて、仏教起源の位置から北へは伝播が難しいのです。

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つまり、中国に仏教が伝播しようとすると、西に移動して、インドとパキスタンの国境のカシミール地方を抜け、中央アジアに出て、シルクロード沿いに旅して、中国にたどり着くルートを使わざるを得ません。その理由で、「第一結集」、「第ニ結集」の段階のブッダの思想理念が色濃く残っている仏教経典が中国に、そして、東アジア、日本には伝播しなかった理由でしょう。

もう、この時点で、仏教は変質しており、仏教教団が拡大し、その教えがシルクロードに沿って、東に伝播するのは紀元後一世紀頃では、仏教に密教的な要素も含まれてしまいました。

●オリジナルから変わってしまった仏教

南伝仏教の仏教経典では、迷信的な呪術や様々な世間的な知識を「無益徒労の明」に挙げて否定していて、原始経典では比丘(仏僧)が呪術を行うことは禁じられていました。ブッダもそう言った呪術や奇跡的な所業を嫌っていました。

西暦一世紀前後、シルクロードの要所の一つであった北西インドのガンダーラ地方には、クシャーナ王朝が栄えていました。クシャーナ王朝は、仏教に寛容でした。

この王朝では、小乗仏教と大乗仏教がともに繁栄していました。この両方の教えが北西インドや中央アジアに広く伝播し、それらの国々の仏教者が布教に赴き、シルクロード周辺の国々に仏教が広まりました。

●中国語翻訳版仏教

クシャーナ王朝の仏僧たちの何人かが中国に渡り、ガンダーラ語などで書かれていた経典を中国に持ち込み、中国語に翻訳しました。

中国では大乗仏教と小乗仏教との典籍(ただし、第三結集以降のもの)がほぼ同時に漢訳され、大乗仏教と小乗仏教の両方ともが仏教として受け入れてしまったため、両者が混合されて、本場とは違った東アジア独自の仏教教理になってしまいました。

西暦一世紀以降も、インドで編纂された(第四結集以降の)仏教典籍が中国に伝わり続け、経典の翻訳作業が続けられました。この中国語の経典が、朝鮮半島や日本など東アジアに伝播して、特に大乗仏教が主流となった仏教が形成されました。日本でも六世紀頃には仏教が伝播して、中国や朝鮮半島の影響を受けながら、日本は大乗仏教国として、さらに変容した日本独自の仏教教理を発展させました。

●オリジナルと違うやんけ!

スリランカは日本と同じ島国です。日本が漢代や唐代の中国文化をほぼオリジナルで保存していたように、スリランカもインドのオリジナルの仏教を大切に保存していたのでしょう。

五世紀初頭(399年〜414年)、インドとスリランカを訪れた中国の仏教僧の法顕は、中国で習った仏教と違うやんけ!と卒倒しました。七世紀には、三蔵法師がスリランカに渡りませんでしたが、スリランカの小乗仏教に関してレポートしています。違うやんけ!と。

ちなみに、法顕は、長安からインドへの巡礼中、スリランカに立ち寄って、当時のアヌラーダプラ王朝の灌漑設備(当時の最先端技術)を学んだそうです。そして、空海(774-835年)が、遣唐使として唐の時代に中国へ留学中に、その法顕の残した書物から、アヌラーダプラの貯水池に見られる灌漑設備を学んで、満濃池の改修にその技術を用いたそうです。

次回は、やっと密教とタントラのお話、仏僧が呪術を行うという異端が堂々と日本で興隆した話です。



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