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京都編:赤垣屋@川端二条

秋の京都、鴨川にやって来た。出町柳駅付近の高野川と賀茂川、二つの川がYの字形になるように一本の鴨川となるYの字の間の丘っぱりでは子供たちが無邪気に遊んでいる。

加茂大橋を過ぎて河川敷の芝生遊歩道を歩いていると、ジョギングをしている人、トランペットの練習をしている女学生、寝そべって読書する者、学園祭に向けてだろうか?太鼓の練習をする若い5人組。またアコースティックギターが鳴り響いたりと鴨川の緩やかな流れに惹き付けれられた人達が同じように緩やかな時間を満喫している。これほど川沿いで人が自由に過ごしている川は鴨川以外に見たことがない。

時計を見るとまだ3時半だ。夕方までまだ時間はある。しばらく寝そべって大きな青いキャンパスに映った鳥の姿を見届けてから目をつむった。

一時間程河原でのんびりした後、再び歩き出し京都ドイツ文化センターを過ぎたところのたばこ屋・上田商店で一服。
緑の雨よけテントは新しいが、外観からして古い店だ。外にあるアイスクリームが入った昔懐かしい冷凍庫に雪印のマーク。これまた懐かしいマクセルカセットテープのホウロウ看板やでんわ・でんぽうのホウロウ看板は昔のままで、煙草がぎっしりと並べられたガラスケースが堪らなく昭和レトロでいい。何でも古いものに興味があり新しいものにはあまり関心がないところは家族の誰にも似ていない。。
店のすぐ近くの京大付属病院指定の創業明治四年・松原牛乳の牛乳配達用の木箱も懐かしく、そして愛らしい。

再び川端通を歩き、丸太町橋を過ぎ二条大橋までようやく辿り着き、縦に並んだ正方形の小さい4つの白の行灯看板には、赤で名誉冠、赤、垣、屋に、まだ灯されてない赤提灯が見えてきた。

京都に来た最大の楽しみともいえる銘居酒屋・赤垣屋に再びやって来たのだ。

夕方5時少し前だが、すでに入口の縄暖簾の下には打ち水がされており開けっ放しの戸から店内を覗くとすでにカウンターはすでに満席状態のようだ。
「どうも、こんにちは。」
「はい、いらっしゃいませ!」
大将をはじめ従業員の皆さんも元気な声で迎えてくれる。

店内は外観の昭和40、50年代頃の造りよりも古く昭和初期そのままで、如何にも京都らしい入口は狭くとも奥まで続く長い造りで離れに奥座敷、左手前はL字のカウンター、右側には小さい小上がり座敷、小ぶりな年季の入った長方形の卓が3つ並ぶ。
L字カウンター手前はおでんの舟に燗付けも出来き、お燗番はいつもの方。お燗番、奥厨房の間は二代目ご主人が注文を受け渡し店内を仕切る司令塔役だ。

若い従業員の方が
「すいませんっ、手前のこちらでよろしいでしょうか?すいませんっ、荷物は適当に置いといて下さい。すいません。ありがとうございます。」
あいにくカウンターは満席で、リュックと靴を入口のすぐの適当なとこに置き、小上がり畳座敷の小卓に胡座をかいた。
何だかこちらが申し訳ないくらいの対応に恐縮である。

若い白衣白前掛け姿の従業員のお兄さんが立ったままで注文を聞かず、客の視線に合わせ腰をかがみ、膝をついて「お飲みものは何しましょっ?」
まずはビールを注文。
「瓶ビールお願いします!」
お店の方に伝えると、ご主人をはじめ「はい、ありがとうございまーす!」
とお店の方全員で復唱し、確認、その「ありがとうございます」は注文している側を気持ちよくさせる。
瓶キリンビールとコップグラスが届き、「突きだし二品出ますので、少々お待ち下さい。」
まずは、喉を潤そう。あ~うまい!京都で呑むビールは格別だ。
頂いた経木の品書き(値段は書いてないがそんなに高くはないので安心だ)は刺身、焼きものなど、魚系が充実しているが焼鳥、おでん、大衆酒場的な肴もしっかりある。
突きだし二品が届いた。鯖の煮付けに、イカのてっぱいだ。
鯖の煮付けは京都らしくどこか繊細でしょっぱくなく、てっぱいは関東でいう"ぬた"だが、葱は白葱でなく青葱でカラシ酢味噌は白味噌で、カラシも辛すぎず控えめに効いて上品な味。
ビールもいいがお酒に合わせたい。
この肴はゆっくり手をつけ、瓶ビールを空けた。
「すみませんっ。」
「はい、すぐ伺います!少々お待ちください!」
「はい。お待たせ致しました。」
「お酒、燗でお願いします。ぬるめで。」

今回はカウンター席でないので洗練された燗さばきは見れないが、まずチロリにお酒燗して、それを次は徳利に移し、再び燗をするこの一連の動作の時の指先の仕草が堪らなく好きで一目惚れした。

酒は伏見の名誉冠の樽酒で程よい樽香に柔らかい口当たりの酒でスイスイと呑めてしまう。言うまでもないが、燗具合は最高だ。

それと注文したきずしは二杯酢がたっぷりとかかっている関西風で関東の厚切り、しっかり〆た〆サバでなく、薄切りで軽くしめて身は柔らかく口の中でいつの間にかになくなっていく。生姜がかかっているのも関西らしい。

名誉冠との相性は抜群で男気ある仕事っぷりと接客、裸電球に、年季のはいった木の温もり、今回座敷に座って呑んだのだが、京都で幕末の英雄・坂本龍馬と呑んでいるような錯覚さえ起きる。

その雰囲気と酒で緩やかに酔ってゆく。

幸せとはこういうものだと教えてくれる数少ない居酒屋であった。

■居酒屋ロマンティクス 2011年11月9日のblogより

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